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余命宣告〜サクラが咲く頃には〜  作者: 梔虚月
第三話 愛されキャラの裏の顔?
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07 【問題編】用務員さんの密告③

 私は真美たちとの約束どおり、用務員の中野と、生徒指導担当の木村を病室の窓から監視していた。

 中野は普段、校門横にある用務員室で受付業務をしているか、校庭や学校の周囲を掃除しており、体育教師の木村は、ほとんどの時間を体育館に併設された体育教官室で過ごしている。

 二人の行動を数日見て解ったことは、中野が用務員室を出て校内を点検するのは授業中で、休み時間になれば、用務員室に待機して生徒からの苦情や相談に備えていること、木村が体育教官室を出るときは、校内を歩き回って、校則違反者や騒がしい生徒を見つけて注意しているのだが、いつも同じ場所で私の視界から消えて、5分程度で戻ってくることだ。

 この数日は、二人に落ち合っている様子がなければ、中野が木村に、生徒の素行を密告しているように見えなかった。


「桜子ちゃん、双眼鏡まで持ち込んで本格的だね。龍翔くんのことが、そんなに心配かい?」


 看護師の健吾は、病室の窓からオペラグラスで学校を見ていた私に話し掛ける。


「健吾さんは、私が本格的なストーカーだと思っているのね」

「え、いや、そんなつもりないけど……」

「私は今、全校生徒の敵を監視中なんだ」

「生徒の敵?」

「じつは−−」


 健吾に事情を明かして意見を求めると、彼はスマートフォンで連絡を取合えば、わざわざ校内で密会しなくて済むし、監視しても無意味だと鼻で笑った。


「そうか、二人がスマホで繋がっているなら、校内だけ監視しても中村さん(サンプラザ)の無実を証明できないのね」

「サンプラザ?」

「用務員の中野さんには、みんなで競い合って()()()()()()()()を付けて呼んでいるのよ。アデラン●、リーブ2●、スヴェンソ●、アートネイチャ●とかね」

「中野さんは、カツラなの?」

「それがさ、中野さんはカツラじゃないのよ。だから私の付けた『サンプラザ』が、いちばん的を得ていると思うわ。ハゲてる中野さんは、サンプラザが一番しっくりくるわ」

「いや、そういうことならアデラン●も、中野さんのあだ名に当てはまる気がするよ」


 子どもって残酷だと思うけれど、じつは中野は『奇抜なニックネームで呼んでほしい』と言っているし、彼が気に入ったニックネームがあれば、それを公式ニックネームとして採用するからと、自ら提案している。

 ()(てい)してまで、生徒との距離を詰めてくる中野が、やはり木村の手先だとは思えなかった。


「そうだ! 健吾さんにお願いがあるのよ。加藤くんと沙代さんの犯行現場(ラブシーン)は、ここから見えない校舎裏で授業中だったと言ったよね」

「うん」

中野さん(サンプラザ)木村(きむぱち)は授業中、二人とも校内で歩き回っているんだけど、木村(きむぱち)は、定期的に姿を消すのよ。授業中だから他の生徒にお願いできないけど、健吾くんなら木村の尾行ができるでしょう」

「えーっ、校内で尾行なんてできないよ」

「それなら校舎裏の焼却炉が見える小児病棟まで、私を連れ出して。小児病棟のベランダなら、中野さん(サンプラザ)が隠れていた焼却炉が見えるわ」

「それくらいのお願いなら構わないけど」


 小児病棟のベランダは病院の端の方にあり、学校の(むこう)(じょう)(めん)にある心臓外科病棟から見えない焼却炉が見える。

 私は健吾の押す車椅子に乗ると、()()揚々(ようよう)と小児病棟のベランダに向かった。

 犯人は現場に戻ると言うし、生徒の密告に味をしめた中野が焼却炉に戻るのか、それとも定期的に姿を消す木村が現れるのか。

 焼却炉には木村が現れて、中野の無罪を証明できると思った。

 しかし事件は、意外な展開を見せる。


「そんな、中野さん(サンプラザ)を信じていたのに……」

「桜子ちゃん、焼却炉にいるハゲ頭の人は、もしかして中野さん(ブルース・ウィリ●)かい?」


 焼却炉の中を覗き込んでいる男は、見紛うことなきハゲ頭で、彼は周囲を警戒しているのか、人目を気にして扉の影に身体を隠していた。


「彼は、きっと隠れて喫煙しているんだよ」

「え?」

「学校内は、禁煙指定されているからね」


 そう言われてみれば、焼却炉から()(えん)が流れているので、健吾の推理は間違ってなさそうだ。

 中野は、喫煙のために焼却炉にいて、たまたま加藤と沙代の犯行現場を目撃したので、生徒指導担当の木村に密告したのが、事件の真相だったのか。


「ねえ、桜子ちゃん。学校には、ハゲた用務員が二人いるのかい?」

「え?」

「校庭にも、ブルース・ウィリ●いるんだけど」

「え?」


 私は『え?』しか言えない。

 ハゲが二人いて、一人は焼却炉で喫煙しているハゲ、もう一人は丈ぼうきで校庭の落ち葉を片付けているハゲ。

 中野が分裂したのか、それともドッペルゲンガーなのか、いやいや、推理小説では、双子のトリックが禁じ手らしいのだが、木村に密告したのは、中野の双子だったのかもしれない。

※問題編を一つ追加しました。


次回こそ【解答編】です。

 不純異性交遊の摘発に力を入れる生徒指導担当の木村に、加藤と沙代の逢瀬を密告したのは、生徒から愛されていた用務員の中野なのか。中野が無実だとするならば、その理由を推理してください。面白いと思ってくれた方は、ブックマークと評価もよろしくお願いします。

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