表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命宣告〜サクラが咲く頃には〜  作者: 梔虚月
第二話 ヤンキーなのに優等生?
3/13

03 【問題編】龍翔が優等生?②

 心電図検査室に向かう車椅子は、健吾がベッドまで運んで来るので、私の準備は、春物のカーディガンを羽織って待機するだけだった。

 車椅子には、歩けないほど足腰が弱っていないので、自分で座れるし、勝手知ったる院内であれば、心電図検査室まで介助してもらう必要を感じないのだが、今の私は、発作による転倒事故でも命取りだからと、トイレに向かうときでさえ自立歩行を禁じられている。

 こんな車椅子で移動する生活が続けば、いつかベッドから起き上がる体力がなくなりそうだけれど、どうせ退院の見込みがないのだからと、リハビリルームでの運動も億劫なので通うのを止めた。

 生きる気力は、既に尽きかけているのだろうか。


「僕が迎えに来るまで、良い子に待っているんだよ」

「私は子どもか」

「野田先生、後のことはよろしくお願いします」


 健吾は、私が心電図検査室のベッドに仰向けに寝ると、保育園に園児を預ける親のように言ったので、手を(あお)って部屋を追い出した。

 検査技師の()()(さえ)()先生は、ベッドで仰向けになっている私の前開きノンワイヤーブラを(はだ)けると、鎖骨下と下乳辺りを指先で探り、冷たいゲルを塗って電極の吸盤を貼り付ける。

 心電図の電極を貼り付けるのに、ブラまで外す必要がないのだけれど、下着がゲルで汚れることもあるし、冴子を幼い頃から知っていれば、同性なので気にせず脱いでしまう。


「はい、武士の情け」

「冴子先生は、いつもタオルで胸を隠すとき、それ言いますけど、どんな意味なのか知っているんですか?」

「知らない」


 私が物心がついたときから、この病院で検査技師だった冴子の年頃は母親と同じくらいで、言葉のチョイスがいちいち古めかしい。


「では5分間、おしゃべりしないで動かないでね。安静にしてないと、電気でビリビリってなっちゃうよ」

「なったことないです」

「あ、そう」


 心電図検査で感電するわけがなければ『電気でビリビリ』は、子どもの頃から聞かされた冴子の定型句なのだが、女子高生になっても子供騙しが通用すると思うなよ。

 部屋の明かりを落とした冴子は、私に背を向けてデスクトップの置かれた机に向き合うと、肩肘をついて欠伸を噛み殺した。

 薄暗い部屋のベッドから、眠い目を擦る冴子の背中を見られるのは、あと何回なのだろうか。

 携行タイプのホルター心電図を装着すれば、ここのベッドに横になる必要がなくなるし、彼女のお寒い定型句を聞く機会もなくなる。

 今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前でなくなっていくことが、なんだか悲しい。


 ◇◆◇


 病室に戻ると、気晴らしに窓から学校を眺める。

 私の通うはずだった3年生の教室は3階、病室と同じ高さにあるので見通しがきけば、顔見知りの同級生の行動は、自分も教室にいる気分に浸れるので、見ていて飽きることがない。

 彼らは、私が命に関わる大病を患っていると知らなかったから、休み時間も席を離れず読書ばかりしていたので、可憐な()()()()()()()()()()()()らしい。

 でも私が本当に優等生ならば、ブックカバーに隠してBL小説や漫画なんて読まないし、事情を知っている先生に病弱を理由にして宿題をサボらなかった。


「龍翔くんは、意外と真面目に勉強してるんだ」


 私は授業中、先生の目が行き届く最前列に座っていたので、他の生徒を見ることが少なかったのだが、クラスのみんなが立ち歩いたり、隣の席の子と話したりするのに、龍翔は、黒板の方を向いて熱心にノートを取っている。

 私は、みんなから『龍翔はヤンキーを売りにしている』と聞いていたし、染色禁止の校則があるにも関わらず、金髪で登校しているので、絵に描いたような不良だと思っていた。

 でも龍翔は、今朝も遅刻したくないと、慌てて病室を出ていけば、授業もサボらないで聞いている様子であり、廊下で先生とすれ違えば頭を下げている。

 鋭い目つきと金髪、荒れた言葉遣いを除けば、クラスメイトのお見舞いにも来てくれたし、典型的な優等生に見えた。


「どういうこと?」


 放課後になると、病室を正面に見上げた同級生の数人が、私を見つけて校門から手を振ってくれる。

 そのうち親友の真美と何人かは、病室にお見舞いに来てくれたので、彼らに真相を確かめようとしたものの、ちょっと遅れて龍翔が現れたので言葉を飲んだ。

 まさか『龍翔くんって、本当は優等生なの?』とは、ヤンキーを売りにしている本人の前で、メンツを潰しかねないので聞き出せない。


「ねぇ、さくらちゃん、そのヘルメットは何?」


 真美が、龍翔の置いていったバイクのヘルメットを()(ざと)く見つけて聞いてくる。


「え、ええと……。地震とかの対策」

「防災用なの?」

「変かな?」

「フルフェイスだし、明らかにバイクのヘルメットよね」


 やばい、バレたら殺させる。

 龍翔が、鬼のような形相で睨んでいる。


「まみちゃん、これは防災用だからね。縦横斜め、どんな角度から物が落ちてきても、これなら完璧だからって見舞いの品でもらったのよ」

「そうなの?」


 私はフルフェイスのヘルメットを被り、バイザーを上げて作り笑顔で答えた。


「私は寝るとき、いつもこれ被って寝てますから。ピース♪ ピース♪」


 やけくそダブルピース。

 同級生は()(せん)としているが、龍翔が笑いを堪えているので、(ひと)()ず当面の危機を回避できたと思う。

次回は【解答編】です。

ヤンキーを売りにしている龍翔が、なぜ優等生的な行動をしているのか、その理由を推理してください。面白いと思ってくれた方は、ブックマークと評価もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ