表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命宣告〜サクラが咲く頃には〜  作者: 梔虚月
第二話 ヤンキーなのに優等生?
2/13

02 【問題編】龍翔が優等生?①

 私が目を覚ましたのは、翌朝のことだった。

 朝食の配膳にきた看護師の(きた)(づめ)(けん)()は、体温計とオキシパルスメーターをベッドサイドテーブルに置くと、食事の前に測って記録するように言った。

 健吾は心臓外科病棟で唯一の男性看護師で、まだ二十代半ばと若く、目鼻立ちが整っているので、同じ病棟に入院している女性患者、主におば様たちに大変評判が良かった。


「今日は、身体の調子が良いなぁ」


 オキシパルスメーターの数値は91、体温は37.2の微熱だが、鎮静剤のおかげで、ぐっすり寝ていたから頭がすっきりしている。

 私の血中酸素濃度は90%前後、健常者で95%以上なので低い数値ではあるけれど、先天性心疾患に身体が慣れてしまったのか、ため息をつくのが多いくらいで、91%あるなら息切れもせず日常生活に支障がない。


「桜子、昨日はごめんな」

「あ、龍翔くん」


 龍翔は登校時間前、バイクのヘルメットとスクールバッグを肩に背負って、私の病室を訪れると、病室で騒いだことを謝っている。

 まだ朝食中だった私は、箸を置いて御膳を下げて、龍翔の言葉に耳を傾けた。


「桜子には、変な誤解させたみたいで悪かった。確かに、あのタイミングで『二人きりになるのを待ってた』と言われたら、勘違いしても仕方ないよな」

「え、ええ、まあ……、そうね」

「桜子は、俺に告白されると思ったんだろう? そうなんだろう? 二人きりで話したいと言われたから、俺が告白すると思ったんだよな?」

「ちょ、ちょっと待って。そこを追及されたら恥ずかしくて、昨日みたいに発作がでちゃうから」


 こいつ、わざとかな。

 やはり殺しにきてるかも。


「あ、そうか」

「あ、そうかじゃないでしょう……。私は安静にしてないと、死んじゃうかもしれないのよ」

「桜子は、(おお)()()だなぁ」

「大袈裟じゃないわ。私の先天性心疾患は、動悸を抑えて心不全を起こさないように安静が必要だからね」

「そんなことより、折り入って頼みがあるんだけど、話しても大丈夫か?」

 

 龍翔には、私の命に関わる大切な話なのに『そんなことより』と、あっさり聞き流された。

 真美たち同級生は、人の話を聞かない龍翔を『あいつヤンキーだから仕方ない』と、更生を半ば諦めている様子だったし、先生たちも彼の金髪を見逃している。


「龍翔くんは、人の話を聞かずに、昨日みたいに自分の都合ばかり押し付けようとするけどさ。クラスのみんなや先生が黙ってるからって、私の場合は、龍翔くんに話を聞いてもらわないと命が掛かってるわけ。感情の起伏が激しくなると、本当に死んじゃうかもしれないのよ」


 余命宣告されている私には、龍翔が金髪のヤンキーだろうが、(ちん)(そう)(だん)だろうが、べつに怖くなんかないのだ。


「じゃあさ、時間がないから手短に話すぜ」

「あれ、私の話を聞いてた?」

「やっぱり時間がねぇから、これ置いていくわ」


 龍翔は、学ランの袖を捲くって腕時計を確認すると、ベッドサイドテーブルにバイクのヘルメットを無造作に置いた。

 もしかしてヘルメットは、お見舞いの品だろうか。


「なんでヘルメット?」

「学校に遅刻したくねぇから、話の続きは放課後にするぜ」

「いや、だから、このヘルメットは何なのよ」

「放課後に来るから、またな桜子!」


 駆け出した龍翔は、朝食の食器を下げにきた看護師の健吾に、思いっきり肩をぶつけて学校に向かったらしい。

 彼はヤンキーのくせに遅刻を気にするとか、真面目なところもあるんだ。


「今の高校生は、前崎さんの息子さんだよね」

「健吾さんは、龍翔くんのこと知っているの?」

「ええ、彼のお母さんは以前、この病院に入院していたから何度か見掛けたことがある」

「そうなんだ」


 健吾は口元に手を当てて、ハッとした顔で『今のは内緒ね』と、入院患者の個人情報だから他言無用にしてと、口止めされた。

 食器を下げた健吾は、テーブルに置かれたバイクのヘルメットを見ながら、何かを察した様子ではにかんでいる。


「龍翔くんは、桜子ちゃんの彼氏さんなんだね」

「いやいやいやっ、私のタイプは、あんなヤンキーじゃありません。健吾さんみたいに、私を大切に見守ってくれる男の子です」

「僕みたいな?」

「健吾さんみたいな看護師です」

「ああ、看護師のことか。桜子ちゃんの好きな人が、僕なのかと思ったよ」

「健吾さんはアラサーのくせに、女子高生に好かれるとか、どんだけナルシストなんですか」

「ははは、アラサーのナルシストか……。そんなつもりないけど、よく言われるんだよね」


 健吾は、アラサーと言われて肩を落としたのか、ナルシストと言われて落ち込んでいるのか、なんだか気まずい雰囲気が漂う。


「さて桜子ちゃんが薬を飲んだら、心電図検査に行くから車椅子を用意してくるね」

「あ、はい」


 健吾が車椅子を取りに行く間、学校に登校してくる生徒を窓から眺めると、金髪の龍翔が校門で振り返って、私に手を振っている。

 龍翔の周囲には、見知った同級生もいるのだが、彼以外の誰も私の存在に気付いていない様子だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ