世界 2
風に乗り三人が谷の間を移動していると、正面に峡谷の下から吹き上がる大きな風が交じり合い虹のかかる輝く竜巻が見えてくる。
下から吹く風に峡谷の岩壁から地下水脈が滝のように流れ、吹き上がる風に巻き上げられ細かな水の粒になっていく。
それが太陽の光に照らされ竜巻は巨大な光の柱となっていた。
「あれで天高く飛び上がりルートを決める。それじゃルールー、手を広げて」
「こうですか?」
ラオに言われるままルールーは両手を横に広げる。
その手をタオとフルムーンはつかむ。
「そう風が強いから手を離さないで、ばらけたら集合が面倒だから」
ルールーの両腕にラオとフルムーンが片翼を閉じて掴まり、三人は竜巻へと飛び込んだ。
はるか下から吹きあがる風に乗り天高くへと舞い上がっていく三人。
「すごい、すごい!」
風に乗って泳ぐ黄緑色のクジラのような巨大な生物が谷を飛ぶのが見え、山脈には小さな飛行生物の群れも見える。
視線が高くなっていくにつれ見えてくる竜巻を中心に、山脈、峡谷、大森林、湖、東西南北どこまでも続く大自然。
山脈と湖のそばに近未来的な都市が立てられていて、
開けた土地が山向こうに見える、
地面を抉り焼けた山の中腹に鎮座する大きな宇宙船、
どこまでも広がる森の中に一際大きな古い建築物群があった、
四か所見える大きな人工物は、それぞれ全く違ったクエストが用意された拠点。
「すごい……」
雲を飛び越え眼下に果てなく広がる世界を見てもう1度呟く。
「さっきから語彙力が死んでる」
「ラオはこの溜息の出るほどの景色なんて見ないもんね」
「ここは前に動画のサムネイルに使った」
「ああ、そう……」
呆れるフルムーン。
目を輝かせるルールーはラオに尋ねた。
「で、どっちに行けばいいんでしたっけ?」
「探索ルートなら森の中に見える廃墟の方に、通常ルートなら向こうの近未来的な都市に、三人じゃきついからどこかのギルドに参加して開発ルートするなら山の向こうに、いきなりPVPはきついと思うから。のんびり進められる探索ルート、廃墟の方でいいんじゃない?」
「わかりました。それじゃ、廃墟の方に」
「さて、どんなクエストが待ってるかな」
進路を森の中に見える廃墟の方へとむけ三人は光輝く竜巻から離れた。
「どう、ルールー? お試しでやったけど、このゲーム辛い~? すすめたけど今日プレイして無理と思ったならいいよ?」
「いいえ、先輩、このゲーム頑張れそうです」
絶景を目にし目を輝かせるルールーは向かう先目的地へと目を向ける。
ゆっくり降下しながら見えてくる濃い緑の森に沈む廃墟。
城か神殿を思わせる巨大な石の建築物、大きな大木の根が廃墟の至る所に絡みつきその陰で見慣れない生き物が蠢く。
「ラオ先輩、もしかして虫とか……出ます?」
「出ます、思ってるよりしっかりしたのが」
「げぇ!」
「変な声出さないの」
今更引き返すこともできず、三人は見えてきた廃墟の上空に入る。
ゆったりを風を受け下降していると着地できそうな場所が見えてくる。
二人が華麗に着地すると最後に着地したルールーは地面に膝から崩れ落ちた。
派手に倒れたルールーを二人は覗き込む。
「大丈夫?」
「ずっと飛んでたから、なんか足の感覚がなくなってて」
二人の手を借り立たされたルールー。
目の前には遺跡の一部である苔むした壁の建物。
外から建物の中にチュートリアルで立ち寄ったコンテナの中で見た、近未来的な箱やテーブルのような岩が置いてあるのが見える。
「何ですこれ?」
「ここが最初の拠点ってことかな、ルートによって初期拠点が違うみたい。私のいる通常ルートの初期拠点は寮みたいな建物の四畳半の小さな部屋だった」
建物の上に出ていたアイコンには空き家と書かれており、ラオはためらいなく中へと入った。
中に入るとすぐに行き止まりの6畳程度の小さな空間で、下には落ち葉が敷き詰めてあり三人は石のテーブルを囲んで腰を下ろす。
「フルムーン床の拠点は?」
「仮説テント、チュートリアルで見たやつに似てるかな」
「ふ~ん」
アイコンの表記が空き家から、仮宿へと変わる。
知らぬ間に開け放たれていた入り口に扉が付いた。
装備の入っていたものと同じ形の箱と石のテーブルしかなかった屋内に、大きな鏡や新たな箱が用意されて少しだけ室内は部屋っぽくなった。
「ふぅ~」
「疲れた?」
小さな溜息にラオはすぐ反応した。
「少し」
「そっか、チュートリアルは結構長かったからね」
ラオは空中に手を伸ばし指で虚空をなぞったりつついたりする。
「やっぱり結構時間がたってる、今日はここまでかな」
「はい、楽しかったです」
「ラオが1番いいところ持って行ったけどね」
「セーブはどこで?」
「拠点に入れば自動的にだよ」
「町に入っただけじゃだめだから、気を付けて。一応、警告は出るけど」
「また集まれる日は連絡するから、みんなお疲れ~」
「お疲れ様です、ラオ先輩、フルムーンさん」
「お疲れ、ルールー」
二人は別れを告げ目の前から消えて行った。
遅れてルールーも視線を視界端に移るシステムへと移し、ゲームを終了するというコマンドを選択して接続を切る。
--短い時間にいろんなものがギュッと来た、今のゲームはすごいな。ああ、楽しかった。
暗転する視界。
まだ戦闘時の胸の高鳴りや空を飛び風に乗った感触とどこまでも広がる果てない景色がルールーの瞼の裏に広がっており、もう匂いも感触もないが最後に大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐き出した。