イベント 2
バスの中でクエスト出発の時を待っていると、整理のためアイテム欄を見ていたエクレアが気が付く。
「ラオ、パーティーに知らぬ名前が加わっているが?」
「あれ、ほんとだ誰だろ」
気が付けばパーティーに知らない名前が加わっていた。
ラオが見回せばポケットに両手を突っ込み立っている長い紫色の毛束混じりの黒髪の女性に、味方のアイコンが浮かんでいる。
「私たちは初めましての人が居るなラオの友人か?」
「いいや、初めての人。どうやら強制的に4人パーティーを組まされるようだ」
腰まで伸びる長い黒髪の女性も自分のことを見るラオたちの方を見て小さく会釈をした。
向こうも知らぬ人とパーティーを組まされたことに気が付き戸惑っており、紫色の毛束をいじりながら困った表情をしている。
進んでラオが進んで自己紹介を始めた。
「初めまして、どうやら一緒にクエストを受けるらしい。私はラオ、この二人は一緒にゲームをしている友人だ」
ネコ目の刺繍がある黒い眼帯をつけ、赤紫色の鎧の上にコートを羽織り、血のように赤いティアラを付けた女性アバター。
ラオやフルムーンと同じようにかなりゲームをやりこんでいるようで、全身に多くの装飾品をつけていた。
今はいないフルムーンと同じで背の高いアバター、ポケットに手を入れる立ち姿は少し猫背で長い髪が一層長く見える。
「あたしはダンテ、ソロプレイなんだよろしく」
ラオの後に続いてルールーとエクレアも頭を下げた。
「初めまして私はルールー、みんなで一緒に遊んでるの」
「我はエクレア。よろしく」
小さく肩をすくめてあいさつする彼女は紫色に揺らぐオーラを放つ剣を持っており、それを見たラオが目を輝かせて反応する。
「あ、すごい! その剣ピュアナイトメア! 攻撃力上昇のスキルを持った剣!」
「その通り! ドロップじゃ面倒だったから伝手を頼って個人取引で売って譲ってもらった」
「戦闘向き、ボス戦向けのスキル、いいね! 楽に勝てそうだ!」
「あはは、期待して! 星1に上がったばかりだけどね!」
ゲームをやりこんでいる者同士すぐに意気投合して話が盛り上がるラオとダンテ。
ルールーとエクレアはそんな二人を見て苦笑する。
「ラオ先輩はすぐ誰とでも仲良くなるなぁ……」
「あのコミュニケーション能力は羨ましい、そういうスキルはどこで貰えるのだろうか?」
「ゲームならまだしも、リアルのスキルは自分で磨くしかないよね」
「そうなるよなぁ」
到着した場所は昇格クエストのボス戦でも来たすり鉢状の大きな広場のある遺跡。
そこにはルールーたちを含め4パーティー、総勢16名がいて停車したバスを降りる。
その中にはルールーと一緒に戦ったこともある白髪の雀斑の男性メビウス8の姿もあった。
彼の姿をみたルールーはすぐにあいさつに行く。
「メビウスさん、お久しぶりです」
「ん……?」
一度だけ一緒にクエストを受け、その時とは装備が変わっていてルールーだと気が付くのに数秒かかる。
「おお、ルールーか、星は1に上がったのか。いつもこんな朝早くに起きてるのか?」
「先輩に起こされました。いつもは学校が終わってからなんで夕方です」
「ルールーは学生だったか、まぁそれはさておき。どうやら大人数の合同クエストのようだ。この手のクエストは他者より多くボスにダメージを当てるとドロップするアイテムが良くなるってのが定石、お互い頑張ろうな」
「はい!」
装備やアイテムの変更で手間取り時間のかかったプレイヤーがバスから降りた。
16名がバスから降りたところで封鎖されていた道が解放され一同は、我先にボスへの一番槍へとなるべく走り出す。
「始まったな、イベントが。二人とも敵の動きがわかるまで不用意な接近戦を避けるように」
「わかりました」
一本道を進み辿り着いた広場にはボスの姿はない。
代わりにすり鉢状の広場の中央に底の見えない大きな穴が開いていた。
「下に降りてボスと戦う仕様かな」
意を決した何人かが穴に飛び降りる。
すると皆の背中から羽根が開き、後に続いて他のプレイヤーが飛び降りた。
装備によってそれぞれ違う羽が開き穴の底へと消えていく。
ラオやダンテも飛び降りルールーたちも後に続いた。
「この羽見るのも久しぶりな気がします、チュートリアルが終わっての移動以来?」
「そうだね、生産ルートとPVPルート以外ではあまり使われていないか」
「他のところでは使うんですか?」
「広いマップを走る高速ダッシュと高所からの降下にね。クエストマップより広いんだ向こうは」
降下していると底が見えてきて着地する。
薄き緑色に光る菌糸が血管のように地下中に張り巡っていて空間を照らす。
「なんか足元ねっとりしてて気持ち悪いな」
「ボスはどこに?」
ルールーたちが降りてくると先行して降りていったプレイヤーが周囲を走り回って道を探す姿があった。
「いない?」
「そんなことある?」




