自由時間
話ながらラオは焼けた球根と芋を回収し次を焼く。
「やだなぁ、ゲームの中ですよ先輩?」
「ほら隣りを見な、フルムーンがバグったよ長考してる」
ルールーがフルムーンをゆすっていると、ふいに空が暗くなる。
見上げれば頭上を飛ぶ巨大なクジラのようなモンスター。
「敵?」
「いや、こんなモンスター聞いたことない。何かのイベントかも」
ドロップアイテムを落とし去っていった。
空から落ちてきたそれに近づき確かめる。
「アイテムを落としていった」
「なんだろ、とりあえず拾っておこう。フルムーン起こして」
「返事がないんですけど、どうやって?」
「耳元で目を覚ますように甘い声でささやいてあげな、飛び起きる」
フリーズしているフルムーンを気合で起こし、3人は突然現れたアイテムを回収する。
・天鯨の鱗
少し濁りのある半透明な白い鱗、名前の色が変わっている素材アイテムの様だった。
「鯨の鱗だって、鯨に鱗?」
「まぁ、モンスターだし。よく見れば鯨じゃないってのもわかるし、何かの装備の材料かなこれは」
「あれも戦えるモンスターなんですかね? どんな味かな?」
「ほんとにルールー、好戦的な子になったね」
「ラオ先輩のせいです」
すでに鯨の姿は空になく森の隙間からは青空が広がっている。
アイテムを回収し終えると3人は食事に戻った。
クエストを終え町へと戻りコンテナで報酬を受け取ってルールーのマイルームへと帰って来る。
早速ルールーはクエストに出る前に町で買ってきたぬいぐるみを並べ、床にじゅうたんを敷く。
床に敷かれていた落ち葉化で是飛ばされていくエフェクトとともに消えて行き、刺繍の入った赤いじゅうたんが新たに敷かれる。
「床が変わるだけで部屋らしくなったね」
「でもまだです、壁紙とかも探さないとダメかな」
「武器や素材とかも並べておいておけるよ。甲冑の置物とか水晶の塊とか置いてある家あるじゃん、あんな感じに。この例え伝わる?」
「田舎のおばあちゃんちに紫色の水晶みたいなの置いてありました。なんであれ岩の外側じゃなくって内側に結晶が伸びるんでしょうね」
家具として買った棚を壁に設置し、アイテム欄から太陽琥珀と天鯨の鱗を選択し飾る。
白く濁った半透明の団扇のような大きさの鱗と、熱を感じる赤い結晶体が棚に並んだ。
「早速それを飾ったか。あ、太陽琥珀。剣を使うルールーなら20個集めたらすごくきれいな盾作ってもらえるよ。発光ってスキルがあるからフィールド上の他モンスターを寄せ付けちゃうマイナススキルがあるけど、暗闇を照らせて通常ルートのダンジョン攻略に使えるんだ。ジャストガード時に追加で混乱値も蓄積できる使い勝手がいいよ」
「欲しいならラオ先輩いりますか? いつも一緒にクエスト行ってもらってるお礼として」
「ん~、いいや。プレイ配信者として自分でドロップさせて作るって決めたから」
「そうですか、んじゃ自分で集めて作ってみます」
「それにこのゲームを勧めたのは私だぞ、私が一緒にプレイするのは当たり前。新人二人の成長日記はなかなか伸びもいいんだから」
「私は楽しくゲームしてるだけですけどいいんですかね?」
「それでいいの、後は素材を私がどう生かすかなんだから」
広くなった部屋に新しく置く家具の配置を考えるルールー。
彼女を見ながら敷かれたばかりの絨毯に横になるラオ、同じくフルムーンも腰を下ろした。
新しく置かれた複数の赤い目を持つ烏のぬいぐるみを抱えるフルムーン。
「次みんなで集まるときはイベントの時かな、今日も楽しかったねルールー」
「イベント……それまでにもう少し強くなっておきます」
前のめりに気味に胸を張るフルムーン。
「頑張らなくてもいいよ。イベントはお祭りみたいなものだし、危険になったらボクたちが守ってあげられる」
「ありがとう、フルムーン。イベントの時も一緒に戦おうね」
ラオはあくびをし天井を見上げ、部屋を見回し家具の配置を考えていたルールーは部屋の模様替えをやめてラオの横に座る。
「でも楽しむためには強い方がいいですよね! まだ教わってばかりですけど、早く先輩やフルムーンと一緒に戦いたいです」
「なら装備の厳選とかもしないとね。属性値の上昇や会心率とか重ねがけ出来るスキルでの統一や、斬撃攻撃力上昇や受ける属性値の減少みたいに常に発動しているスキルを探したり」
アイテム欄を操作するような動きを見せるラオ。
多くのクエストをクリアしながらも集めた装飾品はいまだに少なく、ルールーは同じようにアイテム欄を確認する。
「とりあえず装飾品を集めるためにいっぱい戦えばいいんですよね!」
燃えカスのような黒い服の裾と毛先が火の粉を散らす、赤い髪を揺らしながら答えるルールーの元気な返事を聞いてラオが笑う。
「好戦的な子だ」
「ラオが悪い」
「ラオ先輩のせいです」
二人の返しは早かった。