熱く甘い
減ったヒットポイントを見てルールーが尋ねる。
「裂傷と火傷……あと麻痺と凍傷でしたっけ、残りの状態異常もダメージを受けるんですか?」
「いいや、この2つはダメージではなく行動阻害のデバフ系。回避に支障をきたすのが麻痺、防御に支障をきたすのが凍傷。どっちもかかると力が入らなくなって攻撃力と防御力が下がるから、混乱や一撃死になる可能性があるから気を付けて」
周囲を見ていたフルムーンが何かを見つけラオの肩を叩く。
「向こうに陸クラゲ見つけた、狩ってくる」
「任せる。普通に攻撃力高いから気を付けて」
「わかってる、ボク一回あれに負けてるから」
「ちょっとそこらをうろつく雑魚相手にも命がけとは厄介なゲームだ」
森の奥に見える大きな木に張り付く茶色いゼリー質の生き物目掛けてフルムーンが走り去っていく。
裂傷のダメージで減った分を回復アイテムをふりかけて回復するルールー。
「だんだんといろんなことが増えてきましたね」
「そうさ、プレイヤーを飽きさせないように慣れてくる前に次々と情報は増えて行き敵は強くなっていく」
「それで、これは何の味がするんですか」
「クリームみたいなとろとろの焼き芋に似た感じの甘い奴、今日は焼きリンゴと焼きいもだよ」
「どっちも大好きです」
「さて、食べるか。今フルムーンが飲み物を狩りに行ってる」
「飲み物って戦って手に入れるものなんですね」
「通常ルートや開発ルートだったら料理してくれる店があるんだけど、ここ探索ルートにはまだ出店してないんだよね。つっても店の場所取りが接戦すぎるからなんだけど、露店は多くても屋根のある部屋の店は数が少ないから」
「すごい、このゲーム料理もできるんですね! これ焼いて食べるだけだと思ってました」
「一応は味も匂いも再現できるからね、作られた料理も存在する口がふさがらないくらい値が張るけどほっぺが落ちるほどおいしいよ。食の探究ギルドごとにレシピは秘匿された料理があるの、どの店もおいしい料理を隠してる」
「秘匿って、どうして隠すんですか?」
「今はまだ食材は多くないけど、現実と違って同じ大きさ同じ形の食材だからね。熱する秒数、グラム単位に切り分ける調理すれば、まるきり同じ味を大量に用意することができる。みんなが店の味を簡単に真似できるから、そしたらお店に誰も来なくなっちゃう」
「確かにこの拾った球根、みんな同じ大きさと重さです。なるほど、誰でもマネできたらお店の意味がないですものね。ゲームの中だから特許とかもないんですね」
「そうそう。あと、面白いことにいくつかの食事処ギルドはこのゲームの中で日本食や現実の料理を再現しようとしてるんだよね、見た目も味もそっくりに。これじゃない他のゲームでちゃんとした味を再現したものがあるのに」
「変わってますね」
「何言ってんのさ私もルールーもその中に入ってるよ、現実世界じゃなくてゲームの中でおいしい食べ物を求めたでしょ。そういう変わり者に支えられてるんだよゲームってのは」
1人離れた場所で戦っていたフルムーンが帰って来る。
両手に半透明のゼリー状の物体を抱えていてラオに見せた。
「ラオ、飲み物も狩って来たよ」
「助かる。んじゃ食べ物はみんな揃ったし、食べる場所探そうか」
「ならいつもの場所でね」
少し丘となっていて木漏れ日が差し込む場所へと歩いてくる。
その部分は小さな花畑となっていてルールーとフルムーンが腰を下ろす。
「ここ好きです。フルムーンが教えてくれた場所、この景色が好きなんです」
「ボクが教えた場所、気に入ってくれてうれしいよ」
フルムーンがゼリー状の物体を三分割しラオとルールーに渡す。
同じようにラオも大きな芋を切り分けるとアイテムから皿に乗った焚火を出して網の上に球根と切り分けた芋を調理する。
「焼きをあまくして酸味残した、芋と一緒に食べて。待たなくていいよ熱いうちに食べて」
「いただきます」
ラオが差し出す球根受け取りルールーはそれを食す。
「すっぱい」
「芋も喰え」
「甘い、焼き芋の味なのにどこかでハチミツみたいな甘さを感じる」
ルールーの隣で焼きあがるのを待つフルムーン。
ジッと焚火を見ている少し齧った球根を半分に分けフルムーンに差し出す。
「はい、フルムーンもあーん」
「自分で食べれるからルールー、いいって。今ラオが焼いてくれてる」
「あーん」
「わかった……あむ」
ルールーから差し出される球根を齧った。
二人の様子をジッと無言でラオが見ている。
「どうしたのラオ?」
「スクショ、いい絵が取れた。タイトル考えてこれフォトコンテストに送ろう。それで、なんで急にいちゃつきだしたの? このゲームは全年齢対象だから疑似アルコールみたいな間隔幻覚作用とかは実装されてないはずだけど」
「一緒に遊んでいたら楽しくなってきちゃって、こうやって集まって食べるのって遠足の時が最後だからもう何年もなくって」
「空気の酔ったか。そうだね、ピクニックとか趣味でもないしね。カフェでお茶することはあってもこうやって大自然の中で食事なんてしないか。でもあんたら見てたら胸やけしそう」