チュートリアル 2
環境音に耳を傾け木漏れ日からは日の温かさを感じルールーは崩れた天上の瓦礫に腰掛け、夢のような世界に浸った。
そんなルールーに近寄る人影。
「微笑ましいなぁ。最近じゃこのくらい当たり前で何の感動もないのに、ようこそこの世界にルールー」
いつの間にかに現れそっとルールーの行動を眺めていたプレイヤーが話しかけてくる。
ルールーが声に驚き慌てて振り返れば女性キャラが二人、進むべき通路の奥からやってきていた。
「驚かせてごめん、驚かそうと思って静かにやってきた。無事ここに来たってことはお兄さんからグランドール借りられたんだ」
視線を向ければ悪戯が成功し笑うキャラの頭の上に表示される名前。
赤と金色の身軽そうな勇者を思わせる金属の鎧を着たフルムーン。
白い大理石でできた彫刻の様な重厚そうな騎士の鎧姿のラオ。
「ひゃう! ……先輩、ですか?」
話しかけてきたのがゲームを進めてきた先輩のキャラクターだった。
あらかじめラオのプレイヤーネームを聞いていたため突然の出現に驚きはしたものの、知らない人でもなくそれ以上の動揺はしなかったルールーは尋ね返す。
「ぐらん? このゲームのタイトルってそんな名前でしたっけ?」
「ソフトじゃなくてゲーム機の名前、それも知らずに借りたか。大丈夫? 神経情報読み取るバンド、右手と左手逆につけてない?」
「たぶん大丈夫です。頭にかぶるのも首に巻くのも手首につけるのも、お兄ちゃんにセットしてもらったんで」
「そう、ならひとまず安心かな。右手の左手が逆さに動いてバグったとか言い出すのはやめてよね」
ラオは悪戯が成功し意地悪な笑みを浮かべる。
「というか、キャラクリにもっと時間かけると思った」
「待たせたら先輩に悪いと思って。気になる部分があれば後でも変えられるみたいですし。あとやっぱり、とりあえずゲームを始めたかったので」
短い銀色の髪、右が赤、左が青色の瞳をしたラオはルールーの手を引いて彼女たちが元来た道を、ルールーが進むべき道を歩き出す。
「ここでは先輩ではなくラオって呼んで、キャラクター名」
「はいラオ先輩。というか、声が違いますよね? ビックリしました、喋り方は変わらないのでわかりましたけど」
「自分では違和感がないだろうけど声が現実と違うのはルールーもだよ、声はキャラクリでランダムに設定される。ん~、電話が自分の声に最も近い音声を作り出すのと似てるかも、あれをランダムにした感じ? 男性キャラを選んでいればルールーでも低い声になったよ。ランダムだから高い男の人の声になった可能性もあるけど」
元気のよいラオとは正反対で、静かにたたずむ腰まで伸びる黒髪に水色の瞳をした背の高いキャラのフルムーン。
歩くたびに二人の鎧はガチャガチャと金属のぶつかる音がする。
彼女は二人の後をそっとついて来ていて、ラオに手を引かれながらルールーは挨拶をする。
「ルールーです、このゲームは初めてです、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、ボクは……ボクはリアルではラオの友達のフルムーンです。何かあればラオがサポートするので気軽に、こっちでは効率優先でする気もないのでゆっくり進めましょう」
お互い初対面、優しく笑いかけるフルムーンに向かってルールーが頭を下げると彼女もまた深く頭を下げた。
そしてまたルールーはラオに尋ねる。
「あの、ラオ先輩、何の説明もなかったんですけど、このゲームってどんなゲームなんですか?」
「んっとねぇ、自分で探して調べて集める。あとはうまく立ち回って戦ってお金を稼ぐそれだけさ」
ラオの色々と省かれた説明に首を傾げるルールー。
「戦って稼ぐ……先輩がすすめてきたからそういうのだと思いました」
「嫌だった?」
「先輩、戦闘系のゲーム好きですもんね。先輩の投稿動画たまに見てます」
「動画視聴ありがとう。チャンネル登録、高評価……っと今はいいか」
「そうじゃなくって。先輩からソフトを受け取ったときも言いましたけど、あまりやったことないので足を引っ張らないか心配で」
「大丈夫、私らも初めて数週間程度だから全然初心者だよ。で、先輩じゃなくてラオ、ラオだよ」
ラオからパーティーへの招待が届きルールーはそれを承認しパーティーに参加する。
すると体力ゲージの下にラオとフルムーンの名前と体力ゲージが加わった。
二人の名前を確認しているとルールーの名前の前に王冠のマークがついている。
視線を合わせてそのアイコンを確認すると自分がリーダーになっていることに気が付き尋ねた。
「あの、私がリーダーになってますけど? 何かの間違いじゃ?」
「大丈夫、間違ってないよ。リーダーは補正で能力値が少し上がってるから、それで前に出てもらってらってレベル上げするの。とはいってもレベル上げても体力しか増えないから戦闘がそれほど楽になるってこともないけど、体力が多いことに越したことはないでしょ」
ラオは足を止めフルムーンの方に振り返る。
「さぁ、チュートリアルを終わらせちゃおう。ルールー装備を取ってすぐに出発しよう」
「それはいいけど。ラオ、ゲームに慣れてないならチュートリアルだけで今日終わるかもよ? ボクたちは慣れてるけど、これだけでも結構疲れるから」
「あ、そっか。現実と時間の流れの違うゲーム内時間に慣れてないか、酔うと大変だ」
「頭痛とか吐き気とかあったら言ってね、すぐに中断した方がいいから」
体調の不調が起こると聞き少し怖いと思いつつ頷くルールー。
「う、うん。わかった」
このゲームでできることを学ぶために用意された大きな亀裂をジャンプして飛び越え、身の丈より高い段差をよじ登り三人は出口を目指す。
「そういえばお二人の衣装、どちらもかっこいいですね」
「そそ。フルムーンが初回特典、神託の英雄~、ラメの入った金色の鎧がかっこいいよね」
「ラオは課金、土人形の天使。見たときに一目惚れで、買っちゃったみたい。ラオは金持ちだから」
石のような重厚な鎧を見せびらかせるように回って見せるラオ。
「そんなことないよ、動画投稿で少しずつ貯めたの」
「ラオ、今日のこれも投稿するの?」
「声も違うし身バレしないように編集はしてるから大丈夫」
遺跡を抜けると濃い緑に覆われた森の中に出た。
獣が通った跡なのか1本の獣道が続いており、森の奥へ奥へと延びている。
獣道は途中で何か大きなものが通った跡へと変わり、その後を追うように歩いていくと森の中に異質な人工物が見えた。
「あれがベースキャンプだよ、拠点って感じではないけど」
「コンテナ?」
「そそ、オープニング見たでしょ。そこから落ちた物資ってことでしょ」
「ああ、落ちてましたね。じゃあこの道はあのコンテナが転がった跡」
真っ先に目立つのは始めたとき、自分が眠っていたカプセルと同じ雰囲気を持つ巨大な長方形の箱。
「ここを使うのもチュートリアルの時だけだよ」
「へぇ」
「装備はあの中で変えられるから、ルールー好きな武器を選んでいいよ」
「行ってきます」
コンテナは下ろされた荷物というわけでもないようで、強い衝撃で歪んだ扉の隙間から中に入っていく。
扉以外も歪んでいるようであちこちから光が裂き込み中は薄暗く、いくつかの金属製の箱が乱雑に置かれている。
近場にあった箱に手をかざすと蓋が自動で開く。
「なんか、近未来的」
蓋が自動で開くと箱の底がせりあがってきて、黒色と銀色が混じった荒い質感の金属でできた武器が出てきた。
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