探索
ログインするとすぐにルールーの自室にラオがやってくる。
この間とは装備が変わっており遺跡の石の様な材質の鎧ではなく、黄緑色の軽量プレートの鎧をまとい緑色のマントを羽織ったファンタジー寄りの服装。
「おはよう、連絡してすぐにログインしてくれるなんてなかなかやる気だね。早速休日はみんなでゲーム三昧と行きたいけど。今日はフルムーンが来ません」
「おはようございます、なんでですか?」
「家の用事だそうだ、親孝行のできるいい子だ」
「なら仕方ないですね、ラオ先輩は家に帰ったときに家の手伝いとかしないんですか?」
「フルムーンと一緒にクエスト進めてレベル上がったんだって?」
「はいフルムーンさんに手伝ってもらってレベル8になりました。話をさらっと流しましたね?」
赤と青、左右で色が違う目を輝かせラオはルールーの手を握る。
「ゲームにはまってくれてうれしいよ。いいねぇ、もうすぐ10レベルだ。その調子で今週中に星1のクエストが受けられるまで頑張ろうか」
「ラオ先輩の時間が良かったら」
「敵が弱くてすぐ受けられる経験値稼ぎにちょうどいいクエストをいくつか見つけてきたから、それを終わらせちゃおう」
「はい」
早速クエストを受けに街に向かい、支柱でクエストを受けるとロビーを出てバスに乗って移動する。
目的地到着までを待っているとラオの持っているものが、杖ではなく鞘に収まった剣だと知ってルールーは尋ねた。
「ラオ先輩、今日は杖じゃないんですか?」
「ルールーと同じ剣士だよ、今日は剣の師匠にでもなってあげようと思って。杖だけを振り回しているわけでもないからね」
「ただ剣を握って振るだけじゃないんですか?」
「ただの攻撃にも隠し要素があるんだよ、色々と。まぁ、隠しってより説明不足って感じだけども」
「持ち方でスタミナの減りが変わるって知りましたよ」
「お、いいねぇ。それがわかっているなら剣術の教えがいがある」
ルールーの成長に嬉しそうに返事を返すラオ。
「流派はなんですか?」
「どこで覚えたんだい、流派とか」
「お母さんが時代劇見てて、私もなんか見てたんで」
「このゲームの感じはSF混じりの西洋風だから、東洋の剣術とは違うんだけど。あえて言うならモンスター特化のゲーム流、かな」
目的地に到着すると意気揚々と降り立つラオ、そのたびに短い銀色の髪が揺れマントがはためく。
森から抜けた場所にある岩が多く見える高原で、バスの停車位置は特に大きな岩が周囲を囲んで周囲から見つからないようになっており、岩が動かないよう塗り固められたコンクリートで補強されている。
「ここは初めてくる場所です、ラオ先輩。ずっと森で戦っていましたから」
「ここは大型モンスターが出るし見通しもいいからね、優しいフルムーンは初心者育成に向いてる。どれだけルールーが育ったか楽しみだ」
「ラオ先輩は私にゲームを進めて来たのになにか教えてくれないんですか?」
「剣術教えるって言ったじゃん。それに私は動画映えすればよし、今日もルールーをガンガン死地に送るよ~」
「外道! 悪魔! 先輩!」
「最後はどう意味なのか分からん」
緑色の植物の蔦の装飾の施された金の剣を抜くとラオは岩に囲まれた拠点の外に出た。
霧を抜けたバスの車内からも見れた、見晴らしの良い丘の1つの上。
群れを成す中型や闊歩する大型のモンスターの姿もおり、空を見ればいくつかの飛行型のモンスターの姿も見える。
「私、大型のモンスター見るの始めてかも」
「でっかいでしょ、各エリア環境に配置モンスターは攻撃しない限り反撃してくることはない。適性のモンスターは平地なら起伏や草むら隠れているか、150メートルから200メートルの視界内に入らなければ襲ってはこない。見つかっていない場合に限るけど相手の視界を切らせるには使える」
遠くからでも存在感を放つ6脚で毛むくじゃらのサイのような大きな角の生えた大型モンスターを見ていたルールーは、襲い掛かってくるモンスターの話を聞いて周囲を警戒する。
「そんな遠くから見つけてくるんですね……」
「討伐のクエストじゃない限り1回のクエストに5匹程度しかいないよ。それも見つけてからすぐ襲ってくるとは限らないし」
「普通、縄張りに入ってから襲ってくるとかだったりしません?」
「ここがすでに縄張りのなかなのさ~」
マップを歩く中型モンスターを指さしラオがルールーを呼ぶ。
「言ってるそばから、ほら見つかった。きたよ~」
「足遅いしかわいい感じですよ? 人懐っこい感じの草食動物なんじゃないですか?」
ラオの指さす先にはモンスター。
だが牛のようにのろのろとした動きでゆっくりと向かってきていた。
「そういえばルールーは剣の使い方を、フルムーンからは習わなかったでしょ?」
「はい、そういえばそうですね。そういえば探索の仕方や町のことは教えてもらいましたけど。今日ラオ先輩の言っていたことは初耳です、剣に使い方とかあるんですか? ただ振るだけでなく?」
「あいつは対人戦に特化していたから、攻撃を当てることしか考えていない。籠手しか使いこんでいないらしく、他の武器の種類やゲームのシステムには疎いんだ。溜めれば攻撃力の上がる剣や杖などの初期武器の効果も種類ごとに違うしね。ルールーが何を選んでも楽しめるよう回復のできる槍は、私が少しお願いしてやらせていた」
「対人戦では攻撃力アップとかいらないんですか?」
「さっきルールーが自分で言ったように支援も回復も槍使いが何とかしてくれる。対人戦に置いて籠手使いは攻撃を躱しこちらの拳をたたき込む、それしか考えていない。役割も決まっていてあいつは先陣を切ってかく乱する役割らしいから、フルムーンはルールーに教えた攻撃や回避には種類があることくらいしか知らないんじゃないかな」
「今度フルムーンさんの対人戦を見てみたいなぁ」
「あいつの入ってるギルドは厳しいから、プレイ動画とかも見せてはもらえないかもねぇ」
「残念です」




