チュートリアル 1
白い尾を引いて広い海と大陸の狭間を進む巨大な白銀の宇宙船。
船体の艦首付近に天の先駆けと船名が刻まれている。
町一つ分くらいありそうな巨大な宇宙船の下に見える土地は雄大で、どこまでも続く森や巨大な山脈、島ほどありそうな巨大な積乱雲とその下で瞬き続ける激しい雷の雨、大きな影がいくつも泳ぐ大海など、目に入るものすべてがリアルでは滅多に見られない景色ばかり。
それでいて、森の中にたつ光の柱や虹色の雲がかかる山、小見の奥深くで赤く発光する大渦など現実離れした幻想的な場所も見える。
宇宙船は森の中に切り開かれた土地に作られた人工物へと向かっていた。
徐々に速度を落としその人工物、高層ビルの立ち並ぶ要塞化された町の上に留まろうとしている。
そんな時だった、虹色の雲がかかる山からの黄金色の光線が放たれ宇宙船の後部下に当たった。
攻撃による損傷を受け黒煙を吹いて船は傾く。
船体側面下から次々と撃ちだされる脱出カプセル。
開閉口の留め金が壊され扉が勝手に開き大穴の開く格納庫から、白く大きなコンテナがこぼれ森へと落ちていく。
傾いた宇宙船は町を通り過ぎ、近くにあった山へと墜落する。
最後にもう一度、艦首付近に書かれた宇宙船の船名を映してプロモーションムービーが終わり白い光に包まれていく。
幼馴染の先輩に面白いからやってみてとゲームソフトをわたされ一緒にやろうと誘われ、兄から借りたゲーム機を起動しオープニングムービーを見終える。
--何をするゲームか全然わからないなぁ。
気が付けば大きく黒い石板のようなものが置いてある白い空間で、自分が人型のアバターの中に入って立っていた。
その黒い物体、モノリスに自分の体となるキャラクターを作成してくださいとのアナウンス。
同時に部位ごとに設定するための文字表記とアイコンが浮かぶ。
--キャラクターを決めるのかー、ん~どうしよう。
ゲーム世界、どうせならばと現実の自分とは少し離れた姿を作った。
性別は現実と同じ女性、長くぼさついた髪に学校の規則でできない真っ赤な色を付ける。
--髪型少ない、リボンとかもないのか……。さっきの映像だと、かわいい系とかそういう世界っぽくもないか。怖いのじゃなければいいけど……うぅ、トラウマが……。
髪と目はただ何となく火属性のアニメキャラが好きだったからで他に意味はない。
プレイヤーネームは名前から少しもじりルールーと名付けた。
--先輩らを待たせているし適当なところで切り上げよう……。
最終的に出来上がった赤くした髪の長さは胸にかかるほどで、背丈は160センチほどのオレンジ色と黄色い瞳を持つ女性アバター。
細かい設定はあとでも変えられるとのことで後回しにし、キャラクタークリエイトを終え次の工程に進む。
ゲームを始める前に3種類ほどの中から衣装が選べ、そこから何かの獣の皮をなめしたようなレザーの服装を選んだ。
--世界に入るタイプでかわいい系じゃないゲームするのは久々かも。最後にやったのはお兄ちゃんの持ってたゾンビが襲ってくるやつだったな……。あれは悪夢だった……。
目の前の黒い石板にロード中という文字が表示され、自分のキャラ以外に何もない白い空間はゆっくりと暗転していく。
--このゲーム、CMでも何度も見たやつだけど難しそうなんだよなぁ……。先輩に頼まれて始めたけど、足を引っ張らないでちゃんとできるかな……。
そんなことを考えていると暗さにすべてが包まれて消え、暗くなった世界は明るくなっていった。
草木の匂いにひんやりとした空気、森に沈んだ古い遺跡の中で目を覚ましルールーは周囲を見渡す。
--森の、匂い……。
自分が装置のついた金属性の小さな棺桶のようなものの中で寝ており、体を起こして上半身だけ起き上がる。
視界の四隅に体力ゲージやスタミナゲージなどを現す緑色のバーと黄色のバーがあり、そのほかにゲーム内時刻、簡易的なマップ、空のアイテム欄などが映っていた。
「ここが、ゲームの中……」
自分が寝ていた場所がSF映画で見るような睡眠カプセルの中だったと知り、レザーの服装をした自分のキャラクターと世界観の違いに違和感を覚える。
--もう少し抑えめの髪色の方がよかったかな。さて、案内がないけど何をしたらいいんだろう? とりあえず、道なりに進んでみればいいのかな?
意識して視線を合わせるだけで意図せず開いたアイテム欄。
「うわっ、なんか開いた!」
ビックリ箱のように視界の真ん中に飛び刺したそれを見て思わず声を上げるルールー。
視界の正面にマス目が入った四角いウインドウが開き視界を遮る。
始めたばかりでアイテムは何もなく空の状態。
ひとまず閉じる表記を押して画面を閉じてルールーは道なりに歩くことにした。
--視界端に変なものが見える以外は、音も空気もリアルだなぁ。
遺跡の中に入るとどこからか水の流れる音が聞こえ、彫刻の施された壁や天井は苔むしており、ひび割れの隙間から木の根が伸びている。
一歩一歩遺跡の床を踏むたびにコツコツとブーツと石の床が触れ合う音が響き反響した。
--トンネルの中みたい。
大自然に囲まれた映画のセットのような空間を、天井から延びる木の根を払い石畳の隙間を流れる細い水路をまたぎ歩いていく。
不意に通路が開け何かしらの部屋へとたどり着き、天上に空いたから差し込む木漏れ日の方へと近寄っていく。
そして、壁を伝って流れる水に触れた。
「うわ、冷たい! ちゃんと温度も感触もある、すごいなぁ」
驚いた拍子に視線が小さなマップへと向かい、歩いてきた部分だけが表示される地図画面が開く。
そこで改めてゲームの中であることを思い出し、再び視界を覆う開いた画面を消すとルールーは大きく深呼吸をする。
「触って温度や匂いも感じる……すごい……」
流れる水を両手で掬い取り、手袋の指の間から零れ落ちていくの見た。
壁を撫でれば風化したザラザラな質感、木の根を引っ張りプチリと引き千切る感触を感じ、石を投げれば軽い音が遺跡の中を反響する。
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