八章 大切な形見
食事を終えた私達は他のところも探索する。ちなみに私はパソコンでエレベーターの謎を解除しながら歩いていた。
画面ばかり見ていたせいで、前の人にぶつかる。
「わっ。ご、ごめんなさい」
どうやらぶつかってしまった人はタカシさんだったらしい。謝ると彼は「気にすんな」と笑いかけてくれた。
「スズエさん、これ……」
ユウヤさんが指さした先には、開いていない扉。壁には何かのマークがあった。
「なんだろう?」
レイさんが傾げると、ユミさんが「トイレかな?」と答えた。
「でも、完全に閉じてるよ?」
レントさんがノブを引っ張りながら言った。
トイレ……?それなら普通閉じておくだろうか。というより、ここに来る途中で見ているからあり得ない。なら、この扉は……?
「……うん?」
その、マーク……手を繋いでいるように見える。それに、床には一本の線が引いている。この意味は……。
「あとで調べようか」
ケイさんに言われ、私は首を縦に振った。その間に、エレベーターの謎を解き終わった。
「よし、出来た」
「さっきから何やっているんですか?」
「ん?あぁ、エレベーターを動かせないかって思って。丁度動かせるようにしたんだ」
キナに聞かれ、私は答えた。
「スズ姉ちゃんはハッキングってやつが得意なのかニャ?」
フウに聞かれ、「そうだね。ある程度は出来るぞ」と言った。今回はこのスキルが必要になってきそうだ。
「じゃあ、この扉も開く!?」
マイカさんが目を輝かせるが、私は無理だと首を横に振る。
「うーん……それが、ロック式ではないので出来ないんですよね……。多分、センサー式なのかな?」
試しにやってみるが、エラーが出てしまう。条件を満たさないといけないようだ。
その扉を後回しにして、私達はエレベーターに向かう。どうやら上の階だけならいけるようだ。
「どちらに乗ります?」
私が聞くと、「俺は左に乗るぜ」とタカシさんはそっちに乗った。私は右に乗る。すると皆なぜかこっちに来てしまった。
「おい!こっち来いよ!特にそこの銀髪!お前ペアだろうが!」
「嫌だよ、男二人だけって。大丈夫ですよ、死にはしません。多分」
「そこは確定させろ!」
しかし、さすがに狭いですよ、ユウヤさん。
私はため息をつき、左のエレベーターに乗った。
「これでいいですか?」
必然的に、ランはこちらに来る。ユウヤさんも渋々来てくれた。まぁ、これでどうにかなっただろう。
「はぁ……スズエ、すまねぇ……」
「いえ、どちらにしても狭かったので」
エレベーターに罠がないかパソコンで確認しながら、上がっていく。しかし無事にどちらも着いたようだ。
合流し、六階を探索する。
最初に来た場所は、会社の一室のようだった。パソコンがつくようで、電源を入れると――なぜか、私の情報が出てきた。
(……え?)
なんでだ?
「これは……!」
それを見た途端、レントさんが挙動不審になる。その様子を見たタカシさんが「お前、何か知ってんのか!?」と胸倉を掴んだ。
「そ、その……!」
「――レントさん。「モロツゥ」って、ご存知ですか?」
私が尋ねると、彼は「な、なんでそれを……?」と明らかに知ってますという態度を取る。私はため息をつき、
「……今、思い出したんです。確か、去年の夏休みの……アイトに久しぶりに会う前だったかな?久しぶりに帰ってきた父に紹介されて、モロツゥについて調べたことがあったんですよ。表面上は慈善活動をしているけれど、裏では法に触れるような行為を平然とやっているって。その中に、人体実験をしているというものもあったんです」
そう答えながら、私は自分のデータを見る。
「……去年の身体測定と大体あっています。まさか、ここまで調べ上げられていたとはね」
ついでに、シルヤのものも出てきたので見たがそちらもほぼ正確だった。去年のデータなので、僅かな違いは仕方ないものと割り切るにしても。
「私達の共通点、ねぇ……見ている限り、何もないように思えるんだけど……」
私は自分の経歴を見て、目を見開く。
――双子の弟がいる。
「……あれ?スズちゃんって双子だったの?」
覗き込んできたマイカさんがレントさんを見る。彼は「あ、あぁ。そうみたいだが……」と隠せないと悟ったらしく正直に答えた。いや、それはいいのだ。私からすれば。
「――なんで、知っているんですか?」
思ったより低い声が出て、自分でも驚いた。自分でも驚いたぐらいなのだから、ほかの人達はもっと驚いただろう。
「スズエ……?」
ランが絞り出すように声を出す。きっと、今の私の瞳は冷たいものになっている。
「双子の弟がいるってことは、家族以外や本当に一部の人しか知らないハズなんです。学校の先生や医者でさえも、知らないことなんですよ」
「どういう……」
そこで思い出す。ここにはもう一人、知っている奴がいることに。
「……アイトか。唯一関係者以外で知っている奴って言ったら」
あいつは小さい頃からずっと遊んでいた。そうなると、子供は自然と話してしまうものだ。それが裏目に出てしまったのだろうか。
「……双子の、弟って?」
「私、会ってみたーい!」
ケイさんとマイカさんがそう言う。私は「無理ですよ。もう、死んでしまったので」と答えた。
「死んだ?それってどういう……」
「いたじゃないですか。バカで、お人好しで、最期まで私を守ろうとしてくれた、どこまでも優しい愚弟が」
その言葉に、ケイさんとユウヤさんはハッとしたらしい。
「ぐてい……?」
「他人に自分の弟を紹介する時に使う言葉だよ」
フウが首を傾げ、レントさんがそれに答えていた。
「まさか……」
「今はどうでもいいでしょう。……今のところ、めぼしいものはありませんし。別のところを探索しましょうか」
ユウヤさんが聞こうとするが、それを遮る。私の心の傷など、どうでもいい。今はそれより、ここを脱出するための手がかりが欲しいのだから。
ケイさんとユウヤさんは、私の方をずっと見ていた。
次に来た場所は、本棚がたくさん置いてある場所だった。ここは図書室、だろうか。ところどころ隙間がある。
私達は一度通り過ぎ、次の場所に来た。
そこは教室だった。机の上に私のものによく似たカバンが置いてある。なぜこんなところに……?
「これは……」
中身を確認すると、そこに入っていたのは――犬のキーホルダー。シルヤが、つけていたものと同じものだ。
「……ほんとに、趣味が悪い」
私は震えながら、それを優しく包む。
「なぁ、それは……?」
ランが聞いてくる。ケイさんに「ラン」と止められるが、
「いえ、大丈夫ですよ」
そして、私は答えた。
「これは、あいつ……シルヤの、形見なんだ。これは、私があいつの誕生日の時に渡したものなんだよ」
「シルヤって……」
「気にするな。お前には関係ないだろ?」
悪いのはすべて、相手なのだから。
「……ねぇ、スズエさん。これを聞くのはきついだろうけど」
不意に、ユウヤさんが口を開いた。
「シルヤ君とは、どんな関係なの?」
なんだ、そんなことか。それなら、答えることは同じだ。
「「親友」ですよ。最初に会った時に言ったじゃないですか」
「嘘だね」
彼は私の言葉にはっきりとそう言った。それに、私は目を丸くする。どこまで、気付いてるの?彼は……。
「ボクが聞いた時、シルヤ君は確か「生まれた時からの知り合い」って言ってたよね?最初は、親同士が知り合いで、赤ちゃんの時からって思ったけど。さっきの経歴を見たら君達の誕生日は……同じ五月二十六日だったんだ。他人でそんな偶然、あるかな?」
「……………………」
「ルイスマも「厳密には親友ではない」って言ってたし。それに、君はシルヤ君が処刑されるってなった時……真っ先に自分を代わりにしてほしいって言ったよね。それは……彼が、よほど大事だったからじゃないかな?そうじゃないと、いくら親友でも他人の代わりに自分が犠牲になろうなんて思わないよ」
ユウヤさんの推理に、私は下を向いた。彼の言う通り、ただの親友というには私の行動はあまりにも不自然すぎる。
「もう一回聞くね。シルヤ君とはどんな関係なの?」
その鋭い視線に。
これ以上は、誤魔化せないと悟る。
「あい、つは……シルヤは……私の、双子の弟です」
あの時、私は……大事なきょうだいを、一度に亡くした。守ってあげなければいけない存在を、守れなかった。その思いが、隠していた気持ちが、崩壊していく。
「私、守れなかった……!大事な弟だったのに……!ずっとあいつの傍にいたのに……!あいつの、お姉ちゃんだったのに……!」
枯れたハズの涙が溢れる。
――スズ姉。
二人きりの時の、私への呼び方を思い出す。あいつはいつも、私の名前を呼びながら後ろをついてきていた。そして、最期にも私のことを、そう呼んでいた。
去年の誕生日、シルヤはクラスメート達から変なものをもらっていた。シルヤは苦笑いを浮かべながら、「ありがとう」と言っていた。
「森岡もシルヤに何か渡せよ!」
男子がからかうように言ってきた。
「まだ買っていないんだ」
そう答える。もちろん嘘だが、ここで渡したらもっと面倒なことになると分かっていた。
「えー?森岡、お前こいつの恋人なんだろ?」
「違う。シルヤは親友だ」
「そういえば、森岡さんも今日が誕生日だったよね?これ、あげる」
女子に渡されたのはチョコ。私は「ありがとう、パソコンやる時のつまみとして食べるよ」と受け取った。中にはラブレターを渡してくる人もいて、私まで苦笑いを浮かべることになった。
その帰り道、シルヤと笑いながら「また言われてるな」と話をしていた。
「オレ達、ホントは双子の姉弟なのにな」
「仕方ないさ、苗字も違うし」
そして誰も見ていないことを確認すると、
「ほら、誕生日プレゼント」
そう言って、シルヤに渡したのが……この、犬のキーホルダーだった。
「お、おー!これ、前から欲しかった奴!いいのか!?」
「そのために買ってきた。お前、犬が好きだしこれがいいだろうって思って」
「よく分かったな!」
「お前のお姉ちゃんだからな、基本的にはお見通しさ」
「スズ姉!さすがだぜ!あ、オレからも誕生日プレゼントだ」
私の手に渡されたのは、花のブローチ。
「これ……」
「好きだろ?花」
「あぁ。綺麗だな……ありがとう、ちゃんとつけるよ」
やっぱり、離れていても姉弟は分かり合うんだと、あの時思った。
ずっと、そんな日々が続くと思っていたのに。
「なんで、死んだんだよ……シルヤ……」
私は崩れ落ちるようにへたり込んだ。
なんであいつは私を置いて死んだの?
なんで私を頼ってくれなかったの?
私はそんなに頼りなかったの?
なんで……。
なん、で……。
「……スズエさん」
ユウヤさんがしゃがみこみ、私を優しく抱きしめた。そのぬくもりが心地よかった。
「ボクもね、双子の兄さんを失ったんだ。だからこそ、スズエさんの辛さも分かるよ。自分が代わりに死んだらよかったって何度も後悔した。特に君の場合は、皆に弟のことを隠しながらこのゲームを続けないといけないからもっと苦しかったんだって思う。今の君は、真っ暗な世界に一人きりで残されているんだろうね。ボクもそうだったから」
彼は優しく、背中を撫でた。
「だから、そういう時は無理しなくていいんだ。ボクだって、その時に出会ったエレンさんに頼った。君だって、その権利はあるハズだ」
「……カウンセリングの先生みたいなことを言うんですね」
祖父母が亡くなった時に担当してくれたカウンセリングの先生を思い出した。桜色の髪の女性も、同じことを言っていた気がする。
「カウンセリング……」
「……祖父が亡くなった後、カウンセリングを受けていたんです。その時に担当してくれた人も、同じように言っていたんです」
「そう、だったんだ……」
ユウヤさんは少し考えた後、
「じゃあ、食堂で一緒にシルヤ君の話をしようか」
突然そう言ってきたのだ。私はキョトンとした。急にどうしたのだろう?
「こっちは任せてー。……スズちゃん、本当に顔色が悪いからさー」
ケイさんが手を振ったので、私はタカシさんにタラワ担ぎで連れていかれた。もちろん、ランもついてくる。
食堂に着き、ユウヤさんがコーヒーを淹れた。
「スズエさん、コーヒーでよかったかな?」
「大丈夫です……」
なんだろう、男の人三人に囲まれて話すなんてそうないので緊張する。
「お菓子は?」
「えっと……いいですよ。そんなにおなかも減っていませんし……」
「ケーキでも作るよ」
ランが立ち上がり、ケーキを作りに行ってしまった。
「何でも話していいよ。ボク、ちゃんと聞いているから」
「……………………」
私は一口コーヒーを飲み、しばらく黙った後口を開いた。
シルヤと双子であるということは、シルヤを引き取ったおばさんから聞いたこと。
双子だと知られたら面倒だから人前では親友ということにしていたこと。
自分達の素性を知っている人の前ではシルヤは私を「スズ姉」と呼んでいたこと。
小学校にあがる時、カウンセリングの先生に他人を頼ることが出来るようになろうと課題を出され、それを話したらシルヤがつき合ってくれたこと。
とにかく、シルヤとの思い出をたくさん話した。
「あいつ、赤点ギリギリをいつも取ってたけど……意外なことに、音楽の才能はあったんですよ。絶対音感って言うのかな?それがあって、音楽と歴史は私の方が教えてもらっていたんです」
「そうなんだね」
「それから、あいつは私と同じでパソコン関係も得意で……特にコードの読み取りが私以上に出来ました。それに、分解と組み立てが上手だった。いつもパソコンとかゲームとか組み立ててたなぁ……」
「楽しそうな姉弟だな」
二人は私の話をちゃんと聞いてくれた。途中でランも入ってきて、彼も楽しそうに聞いてくれる。時々質問されて、それに答える。
「……私、両親には恵まれなかったかもしれないけど……きょうだいには、恵まれてたな。養子に出された後も、こうして気を遣ってもらえたから」
「……うん」
「私、ちゃんと返せたかな……?あいつにも、兄さんにも……」
私達も兄さんも、皆に関係を隠していた。双子であること、兄妹であること……。そんな中、私は二人に報いてあげられたのだろうか。
「……きっと大丈夫だよ。二人共、君に感謝していると思う」
ユウヤさんが、そう答えた。それに続いてランも紅茶を飲みながら言った。
「そうだな。オレはシルヤのこと、よく知らねぇけど……多分、生きていてほしいって願ってるよ。だって、お前はシルヤのために今まで尽くしてきたんだろ?」
「それは姉として当然のことを……」
「いや、そこまで尽くす義理はねぇだろ。普通は親がするものだぜ?」
「親、か……。あの人達は子供に興味なんてないから……」
思えば、構ってくれたのは祖父母やおじさん、それからシルヤの継母だったと思う。……共働きとはいえ、ほとんど構ってもらった記憶がない。
「……スズエが親代わりだったんだな……オレと年、変わんねぇのに……」
ランがそう呟いたのを、聞き逃さなかった。
「そういえばランも同い年だったな。やけに大人びているから大学生だと思ってた」
「あぁ、まぁ……オレも父子家庭だったからな……」
「家事はお前の役目?」
「よく分かったな……」
ランは目を逸らしながら、答えた。何かあるのだろう、彼の家庭も。
「ボクの両親は放任主義だったよ。鍛錬する時は厳しかったけど」
「俺は爺さんと婆さんに育てられたな。親父が屑みてぇな野郎だったらしくてお袋が俺の面倒見切れねぇって」
なんというか……複雑な家庭環境だな……。私が言えた義理ではないが。
「たまにはこうやってゆっくり話すのも楽しいでしょ?」
「……そうですね」
コーヒーを飲みながら、私は頷く。
――それにしても。
私はチラッと誰にも分からないように、ランとタカシさんのコップの中身を見る。
(……いつ、やろうかな……)
誰かがいる前では、解析なんて出来ない。恐らく私しか気付いていないから。
「……モニター室って、確か上の階でしたよね?」
「うん?まぁ、そうだな」
突然の言葉に、ランは私を訝しげに見た。
「どうしたんだ?急に」
「解析出来るものがないか、見てみたくて」
「あぁ、スズエさん、得意分野だもんね。今、行ってみる?」
私が頷くと、三人は立ち上がった。
モニター室に向かい、私とユウヤさんは機械類を確認する。
「……解析出来そう?」
「恐らく」
ランが「オレ達は別のとこ探索しとく」と少し離れた場所に行った。丁度いいタイミングだ。
「……ユウヤさん、ちょっといいですか?」
私は小声でユウヤさんを呼ぶ。彼は「どうしたの?」と同じように尋ねた。
「少し、解析したいものがあって……」
「解析?何を?」
「……被害者のビデオ」
その言葉に、彼は目を見開いた。そして、
「……何か、分かったんだね?」
それに、私は小さく笑う。それを見た彼は「……分かった、でもそこまで時間稼ぎは出来ないよ」と言った。
「大丈夫です。十分もあれば解析は出来ます」
「了解。じゃあボクは適当にいじっているから、その間に済ませて」
そうして私がパソコンをいじっている間、ユウヤさんは機械類のキーボートをかかっていた。
十分経ち、私は顔をあげる。
――やっぱりか……。
「何か分かった?」
「はい。見てください」
私は問題の被害者ビデオを見せる。見終わると「なるほどね」と答えた。
「なんで気付いたの?」
当然の問いを投げかけられ、私は答える。
「最初の……銃を使ったゲーム?があったじゃないですか。あの時、「死んだ奴ら」と言っていたんですよ、奴は」
「それを覚えていたんだね。それで、本人には言うの?」
私は考え込み、
「……まだ、決めていません」
そう、答えた。ユウヤさんは「そっか……」と微笑んだ。
「分かった、ボクもこのことは他言しない。本人に言うかは君次第ってことでいいかな?」
「もちろんです。私が言い出したことですし」
そうやって話していた丁度その時、二人が戻ってきた。
「どうだった?」
「ちょっと時間がかかりそうですね……。続きは明日しましょう」
「そうだね、ケイさん達にも伝えないといけないし」
――この瞬間、私とユウヤさんは共犯者になった。
食堂で集まり、情報交換をする。
六階にはあと交番があったらしい。そこでは、ある事件となぜか神話の紙が貼られていたようだ。
「神話……」
「スズエ、詳しいかな?」
レイさんに聞かれ、私は「ある程度は分かりますよ」と答えた。
「どんな話だったんですか?」
「ごめんなさい、そこまではよく……」
「いや、俺が覚えてるよ」
ユミさんが申し訳なさそうにしたが、レイさんが答えた。
「白き巫女……それに、「祈療姫」……」
白き巫女は、恐らく成雲家に伝わっている神話だ。そんなものがあると聞いたことがある。だが、祈療姫は聞き覚えがない。
「きりょうひめってなんだニャ?」
フウが私の膝の上から聞いてくる。
「私もよく分からないが……いわゆる「玉依姫」と呼ばれる女の人のことだろうな」
「玉依姫……?」
「神の言葉を聞く女の人のことだ。神話内では海神の娘だとされているな。昔の巫女さんの話かな?」
まぁ、よくは分からないが。
「うーん……どうやらその祈療姫というのは神の血を引いているって話だ」
「よくある話ですね。巫女さんの家系の私が言うなって話ですが、神なんていないですよ」
私が鼻で笑うと、レイさんは困ったように笑う。
「それがね、なんか、本当のことみたいなんだ。その巫女さんのご遺体は今もなお朽ち果てずどこかにあるみたいなんだ」
「そうなんですか?よくそんなところまで覚えていましたね」
私が首を傾げると、レイさんがしまったというような表情を浮かべた。
「どうしました?何かありました?」
「いや……その……記憶力が、ありすぎて……怖がられないかなって……」
「え?なんで怖がるんですか?そんなことで」
私にはよく分からないのだが。
「えっと……クラスメート達が、気味悪がって……」
「あー……それでか……私も同じ経験がありますよ。人より飛びぬけて記憶力があるぐらいで気味悪がらないでほしいですよね」
あれはさすがに傷ついた。無痛病に失感情症で、さらに頭がよすぎるからと基本的に私は孤立していた。シルヤが輪に入れてくれたからよかったけど。
「スズエも?なんか意外だな、スズエは仲間の中心にいるイメージだった」
「シルヤとか、サチという女友達がいたからですよ。二人がいなかったら私も孤立していましたから」
「……なんか、スズエとは仲良くなれそうだよ」
「そりゃあどうも」
私が笑いながらコーヒーを飲むと、「前から思ってたけど、スズエさん、しぐさが綺麗だね」とレントさんが言ってきた。
「そうですか?」
「うん。なんというか……最近の子じゃない感じがする」
「うーん……昔から、祖父母や憶知家のおばさんが姿勢に厳しかったので、それでですかね?部活も中学の時は剣道部だったので」
「まさに「和」って感じだね」
正座も、他の人から武士かと言われたりしたなー。
「スズ姉ちゃん、おなかすいたニャ……」
「あ、もう遅い時間だもんな。カレーでも作るか」
伸びをしながらそう言うと、フウが「ぼくも手伝うニャ!」と言った。
「なら、野菜を切ってもらおうかな」
「うん!」
確か、スパイスはあったから……と頭で材料を思い浮かべる。
ランとユウヤさんも手伝ってくれて、カレーが出来上がる。
「まさか、スパイスから作り出すとはね……」
「一から作るのが好きなんですよ。あとルーがなかったので」
話をしながら運ぶ。そして、皆でカレーを食べた。
皆が寝静まった後、私は一人部屋でパソコンをいじっていた。
――ギミックは……。
色々と調べていると、一緒の部屋のソファで寝ていたランが目をこすった。
「ん……スズエ、寝ないのか……?」
「まだ起きとく。もう少し寝ていていいぞ」
まだ眠りたかったのだろう、ランは「そうだな……」ともう一度目を閉じた。