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三章 多大なる代償

 しばらくして、落ち着いた私達は探索を再開した。

 その途中、私は一人で調べていると二枚のカードが落ちている……いや、置かれていることに気付いた。それを片方取ると、そこには「鍵番」と書かれていた。

(かぎ、ばん……?)

 もう一つの方は……?と見ようとしたが、どこにもなかった。どこかに飛ばされたのか?

 どういう意図で置かれていたのか分からなかったが、私はそれをポケットに入れた。

 隠し部屋のパソコンをどうにかしようということになり、私達三人は隠し部屋に入る。ユウヤさんがパスワードを適当に打っている間に、私とシルヤは周囲を調べていた。

「カナエ……?」

 ユウヤさんのその言葉に、私は一瞬ビクッとなった。幸い、暗闇だったので誰にも気づかれていないようだった。

「どうしたんですか?」

「どうやら、パスワードが人の名前みたいなんだけど……カナエって、心当たりないよね?」

 貫くような黄色の瞳に、私の心臓は大きく跳ね上がった。何かを知っていそうな、その瞳……。

「……いえ、ないですね」

 しかし、平静を装い答える。彼は「だよねぇ……」と呟きながら、パソコンに向き合った。

 ――久しぶりに聞いた。

 心臓がバクバクとうるさい。なぜ、周囲に聞こえそうなほどにうるさいのだろうか。

「うーん……特に情報はなさそうだね……」

「……では、持っていけばいいのでは?もしかしたら今後、何かに使えるかもしれないので」

「そうだね、そうするよ」

 私は先程手に入れたカードのことを二人には言わなかった。


 最初のところに集まり、これからのことを話し合った。

「そういえば、スズちゃんはモニター室に行ってなかったよね?」

「そうですね」

「それなら、おまわりさんと一緒に行かないかい?」

 ケイさんに言われ、私は少し考えた後に頷く。もしかしたら何か分かるかもしれないと思ったからだ。

「それじゃあ、皆はここにいてくれるかなー?」

 元警察官に言われ、逆らう人はいなかった。

 私はケイさんと一緒にモニター室に向かった。そこにはたくさんのパソコンがあったが、つきそうなのは一台だけだった。

 まずは部屋中を探索する。……見つけたのは、参加者の名前が書かれた紙だった。

珠理 風 小学生

如月 奈子 小学生

佐藤 希菜 中学生

佐藤 菜々美 中学生

秋原 蘭 高校生

憶知 記也 高校生

森岡 涼恵 高校生

霜月 怜 大学生

高比良 ゆみ 大学生

歌川 羽奈 大学生

祈花 佑夜 自営業

七守 恵漣 シェフ

野白 啓 元警察官

三代 孝 ボクサー

梶谷 ゴウ 野球選手

須賀 亜里夏 警察官

神邦 真次 高校教師

松浦 麻実 歌手

松浦 実弘 殺人犯

道新 舞華 パン屋

中松 廉人 会社員

 ……この紙には、二十一人しっかり書かれている。どうやらしっかり個人情報を調べ上げられていたようだ。特に佐藤 菜々美は、私の中学の後輩だった。同じ佐藤、ということはキナはナナミの妹なのだろう。

(……うん?)

 キナに姉がいたことは本人から聞いたので知っている。だが、マミさんとミヒロさんの苗字が同じだ。では、二人は兄妹なのか?

(それに、殺人犯って……)

 道理で囚人服だったわけだ。……だが、普通、そんな人をこんなところに連れてくることが出来るか?服役しているのではないのか?……いろいろと、おかしい。

 それから、ユウヤさん……。

(確か、フリーターって言っていたような……?)

 ……謎は深まるばかりだ。

 それから、ケイさんが見つけたらしいCDをパソコンに読み込んだ。

 一つ目の映像は、焦げ茶色の髪の女性が頭に拳銃を突き付けているところだった。当然だが、泣き叫んでいる。ロシアンルーレットということだろう。

『嫌だよ……!死にたくないよ……!』

 そう懇願する彼女はとても痛々しく、しかし非情にも待ってくれず、いやいやながら震える指で引き金を引いた。

 そして……頭が、貫かれた。

 ――非道だな……。

 ロシアンルーレットは、本来度胸試しとして行われていたものだ。だが、この映像では当然だが度胸試しではなかっただろう。強制されたうえで殺されるとは、何とも残酷なものだ。

 次の映像は、胴体にさらしか包帯を巻いていて、そのおなかが見えるほど短くした学ランを着ている同年代の白髪の男子が映った。彼はカメラを睨んでいた。

(……何か、おかしい)

 無防備なおなかから大量の血が流れている。一見すると彼が事切れる寸前のように見えるだろう。

『あー、クソ……最悪だ。確かに、人生つまんねぇとか思ってたけどよ……死ぬの、今かよ……』

 しかし、私から見たら……違和感があった。いや、人生がつまらないとか、生きていても意味ないのではないかとか、そんな感情があるというのがおかしいと言っているのではない。むしろ、人間生きていたら一度は思うことだろう。

 そうではなく、なんというか……本人ではない気がするというか……。彼と会ったことがないので何とも言えないが、どうしても違和感が拭えない。

(考えすぎか……?)

 いや、しかし、何か裏がある気が……。

「スズちゃん、どうしたのー?」

 ケイさんに声をかけられ、私は現実に戻ってくる。

 このままでは堂々巡りだ。今は皆を守るためにどうするべきか考えなくては。

「見つかったものはこれぐらいだねー」

「そう、ですね。それで、私を連れてきた目的は違いますよね?……ちょっと、待っててくださいね」

 彼の目的について気付いていた私はパソコンをいじる。……どうやらメールは使えるようだ。そして、監視カメラ……やはり、複数個あるらしい。

「……これが、ルイスマが言っていたメインゲーム会場ですかね?」

 監視カメラの一つを画面に映し、ケイさんに聞く。彼は「そうかもねー」と頷いた。

「それにしても、本当にハッキングが得意なんだねー」

 彼にとっては意外な特技だろう。しかし、森岡家ではこれぐらい普通なのだ。

「……もしかしたら今後必要になるかもだから、この映像はスズちゃんに渡しておくねー」

 何を思ったのか、ケイさんは先ほどのCDを私に渡した。

 ――これ、後で解析出来ないかな……。

 パソコンさえあれば、すぐに出来る。私は機械関係には強く、中でも解析やハッキングが一番の特技なのだ。

 皆がいる場所に戻る。そして、監視カメラについて話した。

「それから、あの映像は他の被害者のものだったねー。皆、見なくて正解だったかもー」

 ……私ならいいと言うのか。いや、まぁよほどのことがない限り冷静に考えられる人間ではあるけれど。

「二階もあるから、そっちに行ってみようかー」

 そう言ってケイさんは歩き始める。皆ついていき、私も行こうというところでシルヤに呼び止められた。

「スズ」

「どうした?シルヤ」

 彼が呼び止めるなんて珍しいと思いながら、私は彼の話を聞こうとする。しかし、「……やっぱ、何でもねぇ」と結局何も言ってこなかった。

「そうか?……何かあったら、すぐに言うんだぞ?私はお前の味方だからな」

「ん……ありがと」

 ――思えば、なぜこの時気付かなかったのだろう。これは彼からの、必死のSOSだったのに。

「二人共、どうしたのー?」

 ケイさんが私達を呼んだので、二人で後を追いかけた。

「二人は恋人なのか?」

 ミヒロさんが尋ねてくる。私達は首を傾げ、

「いえ、恋人ではないですよ」

「親友っす」

 いつも通りそう答える。どんな人に聞かれても、私達はそう答えるのだ。

「そうなのか?それにしてはとても仲がいいと思うが……」

 マミさんが疑問符を浮かべていた。まぁ、男女の親友など珍しいかもしれない。私達は生まれた時からの知り合い、言ってしまえば幼馴染以上なのだから。

「姉ちゃん、抱っこしてほしいニャー」

「ん、いいぞ」

 フウが腕を伸ばしてきたので、私は抱き上げた。……こうして見ると、幼き日のシルヤによく似ているな。

 フウは震えていた。先ほど、カナクニ先生が目の前で死んだのだから仕方ないだろう。目の前で人が殺された時ほど、辛いものはない。それが大切な人であるなら、なおさら。

 横目でハナさんを見る。彼女は顔を蒼白させながら歩いていた。恩師があんな殺され方をしたのだ、当然の反応だ。むしろ、よくそこまで冷静でいられると思う。

 私はそこまで冷静でいられなかったからな……。

 祖母の頭部が送られてきた時、祖父が焼け死んだ時、私は泣き叫んだ。幼かったからというのもあるだろうが、やはり堪えたのだ。

「……ニャ?スズ姉ちゃん、首に何かかけてるかニャ?」

 その声が聞こえ、下を見ると、フウが私のシャツを掴んで首を傾げていた。硬いものに当たったのだろう。

「あぁ、ネックレスをつけているんだ。特に隠しているわけでもないから、見てもいいぞ」

「うん!」

 フウが私のネクタイを外して、シャツの下からネックレスを引っ張り出した。

 それは、花をかたどった飾りのついた、シンプルなものだった。

「姉ちゃんも、アクセサリーをつけるのかニャ?」

「シルヤからもらったものだよ。自分では買わないからな」

 胸ポケットの赤い花のアクセサリーも、シルヤからもらったものだ。

「スズ姉ちゃんは、花が好きなのかニャ?」

「そうだな。小さい頃は祖父母の勧めで華道をしていたからな」

 意外かもしれないが、実際少しの間だけシルヤとともに華道をしていた。

「シルヤ兄ちゃんの胸ポケットの犬は?」

「スズからもらったものだぜ!誕生日の時にさ、他の奴が変なものしか渡してこなかったからスズがこれをくれたんだ。この腕輪もスズからもらったんだぜ」

「あー……確かにお前、変なものばっかもらってたな……」

 ちなみに私の場合はなぜかラブレターやらチョコやらもらった。誕生日、バレンタインじゃないんだけど。

「確かに、スズエさんは生け花とか、剣道とかやっているイメージがありますね」

 ハナさんが笑う。キナも「そうですね。スズエさん、背筋とかピンッてしていて、おさむらいさんみたいです」と言った。

「おさむらいって……ただでさえクラスメートから「サムライ女」なんて呼ばれているんだからやめてくれ……」

「事実だろ?」

「事実かもしれないけど」

 その場に、少しではあるが穏やかな空気が流れた気がした。

 二階に着くと、二つの部屋があった。そして、その先には……。

(メインゲームの会場……)

 緊張感が周囲を包んだ。あそこに行けば……誰かが必ず、死んでしまうのだ。

 私達はまず、部屋を調べる。……片方は温泉らしい。なんか変な生き物が「ボク、生きてるよ……」と言っていた気がするが、気のせいということにしておこう、うん。

 もう片方の部屋は……箱の間と書かれていた。その、白い部屋は……どこか、血の匂いがした。

 ――何か、あったのか……?

 最初の試練の場所……?いや、それより前だ。だって、最初の試練ならば、もう少し残っているハズだから。

「スズちゃん、どうしたの?」

 ケイさんが私の肩を叩き、聞いてくる。私は「ここ……誰かが殺されたんでしょうね」と告げた。

「……スズちゃんって、警察になれるかもねー」

「どうしたんですか?」

「普通の人なら気付かないよー。ここで誰かが殺されたなんて」

 まぁ、確かにただの女子高生が分かるわけがないだろう。でも、私にはどうしても分かってしまう。

「……目の前で、死んだ人がいましたからね」

「……森岡 ひとりさんだね」

 その名前に、私は無言で肯定した。そして、あの日のことを思い出す。

「ひとりおじさんは……目の前で、車に飛び込んで……」

「その時のにおいを覚えているんだねー」

 あの時のことを、鮮明に覚えている。車に轢かれ、血に濡れたおじを。あの、鉄のにおいを。

 ケイさんは私の頭を撫でた。

「……忘れるなとは言わないけど、あまり気に病んだら駄目だよー。きつい時は大人に頼ることも大事だからねー」

 きっと酷い顔をしていたのだろう、彼はそう言ってくれた。

 心が苦しいと叫んでいるのは、分かっている。だけど、それを伝える術を、私は知らないのだ。どんな感情を抱いているのか、どう表現すればいいのか、自分で分からない。

「……行こうか」

 その言葉に頷き、部屋を出た。

 しばらく探索を続けていると、放送が流れた。

『メインゲームの時間になりました。参加者の皆様は、各自ご自分の部屋に行かれてください』

 とうとう、始まってしまうのか……。

 私達は顔を見合わせ、自分の名前が書かれた部屋に入った。

 そこには、モニターがあった。ルイスマが映っているが……事前に撮られたものだろう。全く動く様子がない。

『では、ルールを説明させていただきます。

 皆さんに役職が渡ったハズです。役職は「平民」、「賢者」、「鍵番」、「身代」……それから、「怪盗」。今回は「鍵番」か「怪盗」のどちらかがいます。

 平民は、役を持たない人です。

 賢者は、占いのおかげで鍵番が誰かを知っています。

 鍵番は、選ばれたら全滅してしまう役職です。

 身代は、選ばれたら生き残る役職です。裏を返せば、選ばれなければ死んでしまいます。ただし、票数が三票あり、選ばれたら誰か一人と一緒に脱出出来ます。

 怪盗は、誰かの役職を盗むことの出来る唯一の役職です。ただし気を付けていただきたいのは、仮に身代を引いてしまったら票数は一つしかなく、一気に不利になってしまいます。

 全滅を避けつつ、多数決で誰を処刑するか話し合ってくださいね。詳しいことはルールブックを読んでください』

 ……要約すれば、今回は私が選ばれてしまったら皆まとめて処刑されてしまう、ということか……。

 では、あの時見たもう一枚が「怪盗」だったのだろう。

 さて、面倒なことになった。重要な役でなければ私を選べと言えたのだが、そうじゃなくなった。

 ……とにかく、全滅しないように立ち回るしかないかな……。

 そして、身代を選ばないように。……これは相当、慎重に行かなければいけないぞ。

 時間になり、私はメインゲーム会場に足を踏み入れた。

「では、話し合いを開始してください」

 ルイスマが笑顔で開始を宣言した。この人形、楽しんでやがるな……。

 なんて、そんなことを考えている暇はない。

「と、とにかく、鍵番が誰か知らなきゃ……」

 ハナさんがそう言うが、それは得策ではない。

「もしカミングアウトしたところで、その人が本当に鍵番だと証明は出来ませんよ」

「じゃ、賢者を先に……」

「同じ理由で、それもあまり意味がないです。せめて、もう少し話し合いがまとまってからですね」

 私はルールブックを見る。

「……絶対に選んではいけないのは、鍵番と身代……。賢者は誰が鍵番か知っている……。そして、怪盗がいる可能性も、ある」

 まぁ、今回、怪盗はいないが。

「な、なぁ、怪盗が何盗んだかにもよるんじゃないか?」

「シルヤ、それを聞いたところで何になるんだ?」

 シルヤの言葉に私が聞くと、ゴウさんが、

「一つの手がかりにはなるぜよ」

 そう答えた。怪盗がいると仮定して、ねぇ……。

「……では、怪盗は誰のものを盗んだのか教えてくれませんか?」

 もちろん、返事はない。当然だ、盗んでいたところで、言うハズがない。

「まぁ、妥当だよねー」

「言ってしまったら、選ばれてしまう可能性が高いですからね」

 当たり前だ、誰だって死にたくないのだから。

 ――私には、よく分からないけれど。

 死にたくないという、その感情が。今回だって、鍵番じゃなければ私に票が集まるように仕向けるのに。

「ど、どうしたらいいニャン……?」

 フウは不安そうだ。彼が身代を持っている可能性もあるのだ、こんな幼い子を犠牲にしたくない。

 私は考える。この場合、賢者を見つけるのが優先なのかもしれないが……。

(賢者は、ただ鍵番が誰か分かるだけ……うん?)

 そこでふと、私は思いいたる。

「……ルイスマ、質問いいか?」

「なんでしょう?」

「賢者って、何が分かる?」

 なぜそんなことを聞いたのか分からないのだろう、他の人達は首を傾げていた。ルイスマは「いいところに着眼しましたね」と笑った。

「ただ「誰が」鍵番なのか分かるだけです」

「絵柄は?平民とか身代とか、あるのか?」

「えぇ、もちろん」

 平民や身代は絵柄がある……。しかし、鍵番には絵柄なんてない。

「スズちゃんはこの情報をどう使うんですか?」

 ルイスマはただ笑っている。

「……なるほど、使えるな」

「ど、どういう意味?」

 ユウヤさんが聞いてきた。私はただ、不敵に「笑っていた」。

「あとで分かりますよ。

 予定変更です。賢者だという人はカミングアウトしてくれませんか?」

 先程言っていたことと違うことをした私に皆が驚く雰囲気を感じた。

「な、なんで……」

「いいですから」

 これなら、恐らくだが賢者が誰だか割り出せる。

 しばらくして、カミングアウトする人が三人出てきた。

「……私です」

「いや、オレだ」

「……わ、わたしです……」

 エレンさん、キナ、シルヤだ。……ふむ。この中の誰かが、身代の可能性がある。なぜなら、身代は自分を選んでほしいのだから。

 慎重に聞いていかないとな……。

 私はさらに尋ねた。

「じゃあ、絵柄を言ってくれるか?」

「鍵だろ?」

「鍵、です……」

「……………………」

 ……一人だけ、答えられない人がいた。やっぱりか、と私は思う。これで、賢者が誰か分かった。

「なるほど……」

「どうしたんだ?」

「賢者はエレンさんです」

 私が断言すると、「何で分かるんだ?」とミヒロさんに聞かれた。

「私はルイスマに「賢者は何が分かる?」と聞いた。ルイスマは「鍵番が誰か分かるだけ」としか言っていない。つまり……絵柄なんて、分からないんですよ。ついでに言うと、鍵番には絵柄なんてありません」

 そう、ルイスマは絵柄について一言も言及しなかった。なぜなら、賢者は絵柄などわからないし、そもそも鍵番に絵柄はないから。

「なんでそう言いきれるぜよ?」

「だって――鍵番は、私ですから」

 そう言い切ると同時に、私の瞳に、目の前で赤い何かが飛び散っている映像が映った。

 そして、私は気付いた。――気付いてしまった。誰が、身代なのかを。私は、そう言ってしまったことを後悔した。しかし……皆を、助けるためには……。

 なんで、お前は……。

 いや、聞かなくても分かる。私を助けるためだ。あいつは、すごくお人好しだから。

 話し合いが終わる合図が鳴る。

「ど、どうするんだ!?」

「エレンに入れるしかないだろうねー。せっかくスズちゃんが導いてくれた答えだから、信じよう」

 そう、賢者はただ鍵番が分かるだけ。つまり、票を入れても、問題はない。

(……ごめ、ん……ごめん、なさい……)

 私は泣きたくなるのを我慢して、エレンさんに票を、入れた。

 票数は、エレンさんに集まった。

「あはは!では発表しましょう!スズちゃんの言う通り、賢者はエレンさんでしたー!そして鍵番もスズちゃんです!そして、かわいそうな身代は……シルヤ君です!では、二人を処刑しましょうか」

 それを聞いた私は、手を握り締めた。そして、ルイスマに言った。

「……待ってくれ、シルヤの代わりに、私を処刑してくれないか?」

「な、何言ってるニャン!?」

 フウが私の足にしがみつく。ゴウさんも「おぬし、何考えとんじゃ!?」と言われた。ルイスマはただ残酷に私を嗤っていた。

「それは無理な話ですね!もし鍵番であるスズちゃんを処刑するなら、皆死んでしまいますから!」

「……っ」

 それを出されてしまっては、何も言えない。

「それとも、シルヤ君がそんなに大事なんですか?」

「当然だ」

 私は即答する。シルヤは私の命に代えてでも守ってやりたい存在なのだ。だって、シルヤは私の大切な……。

「スズ」

 でも、お前は青い顔で私を呼んだ。

「……シルヤ」

「いい、んだ。お前が負い目を感じなくてもいい」

「で、でも……」

 いつもの、人懐っこい笑顔に私の胸は締め付けられる。

 私、誓ったんだよ。

 お前を、守り切るんだって。命に代えてでも守りたいって。

 だって、普通は死ぬの、怖いんだろ?私なら、怖くない。そんな感情、とっくに消えてしまったんだから。そんな、人形みたいな奴じゃなくて、お前が生き残るべきだろ?

 それなのに、なんでお前は笑っていられるの?

 置いていかないでよ。

 私を一人にしないで。

 涙が溢れ出る。溢れて溢れて、全く止まってくれない。

「うふふっ。そんなスズちゃんに最悪な報告です。

 ――実は、エレンさんはあなたのお兄さんですよ」

「…………えっ……?」

 エレンさんは、俯いている。そして、思い出した。

 ――あの、ストーカー男の正体は、エレンさんで。

『帰っちゃ……ダメだ……!』

 そう、伝えていたことを。

 あぁ、そうだ。エレンさんは……エレン、兄さんは、私達を、助けようとしてくれていた。私はそれに……気付かなかった。

「あはははは!まずはシルヤ君から処刑を開始します!」

「ま、待ってよ!」

 私の叫びなど虚しく、ルイスマの後ろから何かが伸びてきた。

 血を抜くんだ。

 すぐに、気付く。

「シルヤ君の血を全て抜いちゃえー!」

「やめろぉおおおお!」

 私は必死にシルヤを突き飛ばそうとした。だけど……間に合わなかった。

 シルヤの鮮血が私にかかる。

「が、は……!」

 シルヤは血を吐いた。私は必死にその器具を抜こうとするが、滑って掴めない。

「す、ず……」

 苦しいだろうに、痛いだろうに、シルヤは口を動かす。

「そんなに……なくなよ……。おれの……かわり、に……いきてくれよ……。な、すず、ね……」

 今まで、ありがとう。

 そこまで言って、彼は息を引き取った。

「いや……っ!いやぁ……!」

 私はただただ、泣いていた。

「あはははははは!スズちゃんの絶望した顔、かーわいい!それじゃあ、次はお兄さんを処刑しましょう!」

「悪いですが、あなた達の思い通りにはさせません」

 気付けば、兄さんは自分の手首を包丁で切っていた。深く切っているのだろう、出血が止まる様子がない。

「なっ……!貴様……!何して……!」

「スズエ、よく聞きなさい」

 私は兄さんの顔を見る。

 ――あぁ、確かに私と似たような顔立ちをしている。

 私と、同じ力を感じる。

 なんで、それに気付かなかったのだろう?

 エレン兄さんは青い顔で笑っていた。死に逝くというのに、私に笑いかけていた。

「スズエ、あなたに全てを託します。どうか、この残酷なデスゲームを、終わらせてください。兄さんは、あなたを……おまえを、信じているから」

 あぁ、なんて綺麗な散り様だろうか。少なくとも私には、その死に様は美しく見えた。

 兄さんは私に倒れこみ、事切れた。

 私は時間の許される限り、二人を抱きしめて、地面を強くひっかいて、泣き続けた。

「スズちゃん、もう……」

 ケイさんが私の肩に手を置いた。ユウヤさん以外の人達は既にいなくなっていた。

「ケイさん、もう少しそのままにしようよ。スズエさんだって、辛いハズだから……」

「……そうだね」

 二人は泣きじゃくる私の傍にいてくれた。


 やがて、涙が枯れた私はユウヤさんの肩を借りて静かにその場を去った。

「スズ姉ちゃん……」

 フウが私を心配そうに見ている。私は「大丈夫だよ、心配かけてごめんね」とその頭を撫でた。

 ……大丈夫なわけがない。心が軋む。

 シルヤがいない。その事実が酷く、心にのしかかった。兄さんとも、もっと話したかった。でも、もう叶うことはないのだから。

 指から、血が出ていることに気付く。さっき、地面を強くひっかいてしまったからだろう。痛みなどないものだから、全く分からなかった。

「スズエ、その……包帯、巻いてやるよ」

 マミさんが救急箱を持ってきて、私の指に巻いた。別に痛くないからいいのに。

 どちらかと言えば、心に巻く包帯が欲しい。

 心の傷を隠す、そんな包帯が。

 あるわけがないと分かっているけれど、それに縋りたいと思うのだ、弱い私は。

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