本編に入れたかったネタ その二
考えていたけど、入れられなかったネタ。父の容姿に言及されていますが、ここのイメージから少し変わりました。
食堂で図書室から持ってきた本を読みながらうなっていると、レントさんに声をかけられた。
「どうしたんだい?」
「何か謎解きに必要なのかと思って読んでいたんですけど……ダメですね、意味分からないことしか書かれていない。誰だドイツ語の医学書なんて混ぜた大バカ者は」
大方、あの緑サイコパス野郎だろうが。
「ドイツ語って……読み書き出来るのかい?」
レントさんは驚いたように聞いてきた。
「暇だったので覚えただけですよ」
対して興味もなく、私は答える。英語は簡単すぎるし、フランス語やイタリア語などは既に覚えてしまっていた。ちなみに次に覚えようと思っているのはヘブライ語だ。
「うわ……全くわかんね……すげぇな、スズエ」
タカシさんが覗き込み、そう言った。私からしたらこれが普通だが、それは私が「ギフテッド」だからというのは分かっている。
他の本を開くと、世界史関係の内容だった。しかも、よりにもよって全く興味のない時代。本当に誰だこんなもん混ぜた奴。出てこいアイト。
「あの……スズエさん。コーヒーでも淹れようか?少し休憩したら整理出来るかもしれないよ……?」
どうやら理解出来ない内容が出てきたと思われたようだ、レントさんにそう言われる。
「あぁいえ、全く興味のないものが出てきただけですよ。はぁ……なんでよりにもよって世界史の本を持ってきたんだ私……」
「世界史、苦手なのかい?」
「えぇ、恥ずかしながら。興味ないと覚えられなくて……」
「私に出来るか分からないけど、聞いてくれたら教えるよ」
そう言って、レントさんは前の席に座って本を読み出した。
しばらくして、ひときわ理解出来ないところが出てくる。
(これは……)
「あの、お父さ……ん……」
顔をあげ、口から出た言葉を理解するまでに数秒かかった。理解した瞬間、私は両手で顔を覆い隠した。
は、恥ずかしい……!
「気にすんなよ。あれだろ?先生をお母さんと呼んでしまうようなもんだろ?」
「ムリムリムリ恥ずかしさで死ぬというかいっそ殺して」
タカシさんにポンッと肩を置かれる。こんなところで慰められても。
――いくら似ているからって。
レントさんは、見た目だけは父親によく似ている。あんな男とよく似ているなんて、彼もかわいそうではあるけれど。
「気にしなくていいよ、それだけ気を許してくれたということだろう?」
「……レントさんは、あんな奴と全く違いますし」
あの父親と比べるなんて、彼の方がかわいそうだ。
「な、なんかわけがありそうだね……」
……もしかしたら、レントさんは私の理想の父親像だったのかもしれない。こうやって気弱ながら向き合おうとしてくれて、優しく手を差し伸べてくれて……。今まではシルヤしか、それをしてくれなかったから。
兄さん、ユウヤさん、ラン……大切なものが少しずつ増えていく。失ってしまったものも多いけど、その中で残ったもの。
すべて失ってしまわぬように、変わらぬものがここにあるとするならば。
私は、この命に代えてでも守り切って見せよう。それこそが我が血に流れる宿命だから。
(…………?)
なんでそんなことを思ったのだろうか。よく、分からない。