お姉さんです。拾ってあげて下さい
雨の公園でお姉さんを拾った。
段ボールの中で、寒そうに体育座りをしているお姉さんと目が合った僕は、いたたまれずにお姉さんを拾って帰ってしまった。
「くぅ~ん……」
寂しそうに鳴くお姉さんに、給食の残りのパンをあげると、とても嬉しそうに齧った。
「捨ててきなさい!!」
ずぶ濡れのお姉さんを一目見るなり、お母さんがキレた。
騒ぎを聞いたお父さんが、何事かとやって来た。
「……(笑)」
失笑するお父さんに、お姉さんがすり寄った。
「28歳、Gカップです」
お父さんは「まあ、良いんじゃないか?」と、お姉さんを飼うことを許してくれた。
お姉さんと喜びを分かち合う。台所からお父さんの悲鳴が聞こえた。
お姉さんを僕の部屋で飼うことになったので、僕はお姉さんに名前を付けることにした。
「ポチ」
「くぅ~ん……」
「ジョン」
「くぅ~ん……」
「パトリシア」
「しばくぞ」
「お姉さんでいいや」
「ワン!」
お姉さんはビールとタバコとギャンブルと漫画が大好きだ。隙あらばいつも楽しんでいる。そして僕が出掛けている間に、部屋を滅茶苦茶に散らかすのが日課だ。
「ただいまー。あー、またパチンコ行ってきたの?」
「ワン!」
お姉さんが嬉しそうに尻尾をふる。お姉さんの頭をなでて、僕はそっと抱きしめた。
「ワン!」
「ごめんね、もうビール無いんだ……」
寂しそうにお姉さんがベッドの中でうずくまった。
お父さんが帰ってくるまで寝ているのだろう。
「ただいまー……」
「あ、お父さんおかえり!」
お父さんが帰ってくると、お姉さんが起きてお父さんにすり寄った。
「シャツ、借りてます」
「…………」
お父さんが無言でお姉さんにビールをあげる。
お姉さんが僕の部屋に戻ると、台所からお父さんの悲鳴が聞こえた。
僕はお姉さんとずっと一緒だった。
僕が大人になり、一人暮らしをすることになっても、お姉さんを新しい住まいに連れて行った。
「さ、ココが新しい家だよ」
「1LK」
お姉さんも新しい家を気に入ってくれたみたいで、僕はお姉さんと仲良くお酒を飲んだ。休みの日は沢山遊んだ。
「何書いてるの?」
「ネコ」
それから、僕にも彼女が出来て、家に遊びに来てくれた。
「え? そのオバチャンだれ?」
「飼いお姉さんだよ? 昔から一緒なんだ」
「ふぅん……何歳?」
「えーと、もう十五年は一緒だから、人間の歳で言うと、80歳くらいかな?」
「しばくぞオンドリャー」
それから三年、僕は彼女と結婚した。
「はい、あーん」
「あーん」
お姉さんは段々と弱ってきたのか、動くことが少なくなった。
「四十肩ですね。長くはないでしょう」
「そう、ですか……」
「くぅ~ん……」
お姉さんとも、もう二十年を超えた。
そろそろお別れかと思うと、自然と涙がこぼれてきた。
それから三日後、お姉さんは天国に旅立った。
僕はお姉さんと過ごした日々を忘れない。
ありがとう、お姉さん……。
「オギャーッ! オギャーッ!」
僕の子どもが生まれた。女の子だ。
「見て見て。お姉さんみたいな顔してるわよ? きっと生まれ変わりかもね!」
「流石に娘がアレの生まれ変わりとかヤダな」