第4部分 ケース2 サチコの場合
ケース2 サチコの場合
サチコは高校2年生。家族は父母姉本人の4人。入学当初から友人関係に悩んでいる。容姿は10人並みだが運動能力に優れ、部活動はテニス部。気が弱く、何か言われても言い返せないところがあるが、我は強い。
決して豊かとは言えない胸に劣等感を感じている。A型、射手座で占い好き。流行には遅れたくないが、やや金欠気味。好きな食べ物はオムライス、嫌いなのは刺身。理系選択で、趣味としてラジオの自作や電子キットの工作をすることもあり、女子としてはちょっと変わっているかも知れない。ストレスがかかるとリスカしがち。
数か月前に彼氏ができ、ひとときのロマンスに身体を許してしまった結果は見事なビンゴ。ただいま妊娠4ヶ月といったところ。
しかしクリスマス直前の今、カラダ目的だったその彼はすでに離れてしまって相談もできず、すでに数回のリスカを繰り返している。
ああ、元彼に相談しなくちゃ。でもアイツ近頃はアタシを避けてるんだよね。新しいオンナができたみたいだし…。
なけなしの小遣いはたいて買った妊娠検査薬の結果は、見事すぎる陽性反応。まだお腹は目立たないけど、おそらく胎児は恨めしいほど見事に育っているんだろうな…
サチコの家は鉄道のすぐ脇で、飛び込む列車には不自由しない。夜に貨物列車を眺めながら、また深いため息をつく。鉄道はイヤだな、あれヒドイことになるから。そういう立地の関係で、彼女は2つの轢死体を見たことがある。関係者は轢死体を「マグロ」と呼ぶけど、あれにはなりたくない…
おとうさんは… 無理ね…
おかあさんに相談しようかな。やっぱ怒られるよね。期待を裏切ったって。
ともだち… ううん、そんな、信用できない。
センセイ… 無理よ、怒られるだけだわ… ア、あのセンセイなら乗ってくれるかなぁ
ヒロキ…これが元カレだ。元カレ(ヒロキ)… やっぱアイツに相談しよう… アタシはシタのはアイツのだけだから、絶対アイツの精子だもん。勇気を出して、さあ
勇気を出したのに、相談したヒロキは冷たかった。
『俺たちもう別れただろ? 別の男のじゃないのか? オレ金ないしさ、なんとか堕せよ』だって…
もうどうしよう… お金ほしいなぁ… そうね、このままじゃ死んじゃうしか無い、死のう。みんな許して、ごめんなさい。 ヒロキ、あんたは許さないよ、恨むよ…
『サチコ、お風呂入りなさい』と母が階下で告げている。
「はい」
答えて風呂に行く、服を脱いで…鏡の前で自分の身体をつくづく眺めてみる。
胸はココロなしか、大きくなっている。
そして乳首の咲き方が確実に変わってきている。
お腹は… まだ目立つほどではないわね… 高校2年生として気になる外見はまだ大丈夫だわ…
あたしのこのカラダを、ヒロキは食べたんだ…
かかり湯をして、涙も洗って湯舟に浸る。
何度も何度も愛してるって、愛してるって言ってくれたのに。ここをこうして愛してくれたんだ…あと半年くらい経てば、ヒロキが触ってナメて、そしてアタシが受け入れた… ここから赤ちゃんが出てくるんだ。
風呂から出て髪を乾かしながらもなお考えている。
あ、そうだ! 女子には不人気だけど、あの方法なら死神さんに会えそうだわ。
なんでオトコには人気があるっていうのに、女子には不人気なんだろうなぁ
サチコは炬燵用の火災防止用に電源OFF用に使っているタイマーを眺めた。プラグを差し替えると時間が経てば電源ONになる。次に5mの電源延長コードの、穴の開いている側をみた。ここをニッパ(道具の名前)で切り、まとまっている2本のコードを引きはがしてから、ビニールを取って銅線をむき出しにする。
お風呂には少しお塩を入れて… そうだった。救いに来てくれた家族が感電しないように、「通電中!」の看板作らなくちゃ!
それよりタイマーをもうひとつ繋いで、10分くらいで自動で電源OFFさせれば、家族の危険はぐっと減るわね…
ああ、面倒になってきたな。やっぱお母さんに相談しよう、思い切って!
まずはそこからやってみよう。死ぬ気に比べたら、こんなこと打ち明けるくらい大したことではないわ。
アタシ頑張る。勇気を出して…