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死神様に会いたくて  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第3部分 ケース1 ミクの場合

ケース1 ミクの場合


 東京のOL、O型しし座の29歳。高校卒業後に上京してアパレル会社に就職。ややキレイな感じだし、胸からヒップにかけてのラインが秀逸しゅういつでかなりモテる。

 しかしそれがわざわいして今はチャラ男との交際にやや行き詰まりを感じ、また彼に金も貸していることもあって、いっそのこと早く結婚してしまいたいとやや焦り気味だった。


 そこに発覚した彼氏の浮気。上司(実は元カレ)を含めて周囲に言触らしてしまった手前、今さら後にも引けない。田舎には父母、近くの都市に弟と妹。好きな食べ物はマグロのトロとツブ貝。会社の長期休みに合わせて南国行きの船に乗ってはみたものの…


 船のデッキ上でミクは海を見詰めていた。曇り気味の空と少しのもやがかかっていた。やや濁った感じの海の色。デッキに人はまばらだった。追い風のせいか、船の排気ガスの臭いがやや濃い目にただよっている。


 さっきの72%チョコレートの苦い味。つい連想してしまう、どうしようもない彼氏との関係。


 おとうさん、おかあさん元気かな。あたしは無理だよ、もう無理。リスカとかバカバカしいからしないけど、妖精みたいにジュワ~って消えてなくなりたいの。でも魂は消えてもカラダが残って、それが腐って、それをヒトに見られるのがイヤなの。でも死んじゃったらそんなのどうでもいいか。


 いっそこのまま蒸発できたらいいな… そうだよ、やっぱりこのまま死んじゃおう


 ミクはまた深いため息をつく。


 でも、今ここで海にドンブリすると,たぶん気付かれて船が止まり、アタシは濡れネズミで助けられて、ただみっともない思いをするだけ。今は…今はムリだわ。まあ乗船名簿は偽名だけどさ。


 それに、まだ決めてなかったっけ。

遺書は要るか要らないか。

化粧をしとくかこのままか。

下着を替えるかこのままか。

くつを脱ごうかこのままか。

式場の予約キャンセルをしとくべきだったかな。

ちょっと早まったな…


 アタシの命を絶つ方法はね… 底知れない海に身を任せれば、25mしか泳げないアタシはやがて力尽きて… でもやっぱ溺死できしはイヤ、あれって最後は窒息か低体温症でしょ? 

絶対時間がかかるよね…

 

 ラクになりたいんだから、苦しむ時間は短い方が良い。


 あっ、そうか… そうしよう! 


 この場ではこの上ない誘惑だった。私のこのカラダはあの凶暴なおサカナさんが数瞬で食べてくれるから腐る間もないだろうし、自然に還ることができるし。ある意味樹木葬みたいなものだわ… ちょっと我慢すれば… かなり怖いかもだけど… な


 だとすると…

 アタシ忘れものしちゃったみたい。もっと考えて準備すればここで迷うことなかったのに。

アレがあればたぶん… 確実にけると思う。つつくなんてもんじゃないとは思うけどね。たぶん、口いっぱいに頬張ほおばられて… スパっとかじられるんだわ…

 

 もう、それでもいいや。夜を待てれば良いんだけど、その前にあの島に着いてしまう…

ああ、持って来れば、たぶん死神さんが会いに来てくれたのにな。


 そうよ、アタシが忘れたのは、カッター。

下手に助けられてさ、ただの「濡れネズミのメンヘラ」だって思われたくないもん。


 リスカで血を流してから目をつぶってダイブすれば、海の死神様が来てくれると思わない?

目がサメたときには、体が食いちぎられて…たぶんこの世とはサヨナラね。

アタシ、こんなドジだからあんな男に引っ掛かったのね、ほんと、シャークにさわるわ。

仕方ない… 今日は忘れちゃったから、もし今度その気になったら… 


 そうだ… そうよ、帰り途もあるし… ね。

彼女はフカいため息をついた。


 こんなときにオッサンギャグが次々と出て来る自分が怖くなってきた。


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