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死神様に会いたくて  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第2部分 絶命の理論

第2部分 絶命の理論



 生物学的な「生」ってなんだろう? どう? どう? 難しい? …ですよね。


 じゃ、逆に「死」ってなに? こっちは表現しやすくないですか?

そうそう、動かないとか、冷たい(恒温動物なら)とか、息してないとか、そういう反応が一切なくなること。

 ではその裏が「生」の意味だろうか。動く、暖かい、呼吸してるとか。


 では… 生命活動を支えてるのは何?


 そう考えると、かぎ酵素こうそにあることになる。つまり体内の酵素による生命科学的な連鎖反応が「生」の正体で、それらが停止したのが「死」という状態であり、わざわざ死神どのにおいでいただく必要はない。コスト削減の世の中、天国やら地獄やらからの出張旅費もバカになるまい。


 つらつら思うにみんなが怖がるのは「死」そのものではなく、実は「死」までの過程プロセスなのではないのだろうか?


 痛い、苦しい、逃げられない… そういった部分を無視すれば、実はたいしておびえることはないものである気がする。


 なんらかの原因で「気絶や失神」を経験したことがあるヒトにはわかるだろう。気絶している間は意識がまるでないことを… つまり意識を取り戻してからはじめて、気絶していたことに気付くのである。おそらくあのままあの世に行ったとしても、なんの未練ものこらないと確信している。少なくとも自分はそうだったし、大量の下血げけつ、つまり大腸からの出血であの世に行きかかった某さんも同様なことを言っていた。


 どうでもよいハナシであるが、自分の意識が飛んだ経験は今までに4回。このうち3度は大学の武道系サークルでのことだ。一度目は新入生歓迎コンパで飲まされたとき。二度目は柔術でクビを絞められたとき。三度目は棒術の対戦で、六尺の樫の棒で「面」を決められたとき… 防具付けてても一瞬で落ちました。四度目は1年ほど前のこと、夜中の急な腹痛で、二階から一階のトイレに降りる階段の途中で、あ、もうダメと思って座って休んだまま意識が飛んだらしい。実に危なかったけど、あのまま階段から落ちて死ねたら、むしろラッキーだったかと後悔していたりもする。



★★★理屈っぽいのが面倒な方は、次の★★★まで読み飛ばしてください


ここでは生命現象に重要な意味を持つタンパク質「酵素」について触れておきたい。


【タンパク質とは】

酵素の正体はタンパク質である。そしてタンパク質は、アミノ酸が多数結合した巨大な分子である。アミノ酸自体には多くの種類があるが、タンパク質を構成できるアミノ酸は20種類だけで、その数と順序でタンパク質の性質が決まる。例えばインスリンというタンパク質は、アミノ酸が21個並んだ鎖と30個並んだ鎖で構成され、肝臓に「血糖(血液中のブドウ糖濃度)」を減らすように指示する作用がある。アミノ酸の例として、グリシン、グルタミン酸、フェニルアラニン、メチオニン、システイン等がある。

タンパク質はアミノ酸の種類と数、そして立体構造に応じて、様々な生理作用を持つ。筋肉やホルモン、輸送タンパクなどの他、化学反応を触媒(速やかに起こさせる)するものを「酵素」という。


生物によるタンパク質(酵素)の作り方

 ① 核内のDNAの遺伝情報を写しとり(「転写」)、核外に持っていく遺伝情報物質RNAを合成

 ② RNAの遺伝情報をアミノ酸の並びに置き換える「翻訳」作業

 ③ 並んだアミノ酸をリボソームが結合させて、タンパク質を「合成」

 ④ 生じたタンパク質の一部は、化学反応を促進(触媒)する「酵素」として働く

   (他には筋肉などの「構造タンパク」なども生じている)

 ⑤ 酵素が化学反応を一気圧・体温の条件で円滑に行い、遺伝子の「形質発現」

要するに、①転写→②翻訳→③タンパク質→④酵素→⑤形質発現 の関連が大切だ、ということだ。


① 核の中で「転写」

 生物の設計図は細胞の核内のDNAという分子に書いてある(ただしヒトを含む真核生物)。

DNAはデオキシリボ核酸の略号。DNAは「リン酸」、デオキシリボースという「糖」、4種類ある「塩基」が1つずつ結合したヌクレオチドが多数鎖状に結合したヌクレオチド鎖が、さらにもう1本のヌクレオチド鎖と緩く結合して互いに巻き合った「二重らせん構造」になっている。

塩基にはアデニン、シトシン、グアニン、チミンの4種類がある


「二重らせん構造」は、掛けた縄ばしごを下から軽くねじった形で、二本の縄がヌクレオチド鎖、真ん中のはしご段の部分が「2つの塩基」で、必ずシトシンとグアニン、アデニンとチミンが向き合う(相補性という)形になっている分子である。遺伝子の情報は、RNA塩基と同様に「塩基の配列順序」に含まれている。DNAからRNAを合成することを「転写」と言う。

DNAのアデニンは、塩基の相補性に従ってRNAのウラシルに、チミンはアデニンに、シトシンはグアニンに、グアニンはシトシンに核内で「転写」され、このRNAが「翻訳」されてタンパク質が合成される。


「二重らせん構造」の分子モデルを初めて作ったのがワトソン&クリック。

なおクリックは「セントラルドグマ」の提唱者である。


② 核の外で「翻訳」

 核内から、核膜にある微小な穴(核膜孔)から出たRNAは、他のRNAの支援を受けながら設計図どおりのアミノ酸の並びを作り、タンパク質合成の準備をする。アミノ酸の結合までの流れを「翻訳」という。

RNAはリボ核酸の略号。RNAは「リン酸」、リボースという「糖」、4種類ある「塩基」が1つずつ結合したヌクレオチドが多数鎖状に結合したもの。塩基にはアデニン、シトシン、グアニン、ウラシルの4種類があり、この塩基3つの並ぶ順序がアミノ酸1つに対応している。

   例えば、ウラシルが3つ並ぶと、それに「フェニルアラニン」1つが対応し、

アデニン-ウラシル―グアニンの順序だと、「メチオニン(合成開始)」1つが対応する。


③ タンパク質を「合成」

 アミノ酸がタンパク質になるには、お互いに結合し、さらに正しい形に変身する必要がある。

 ⅰ アミノ酸が並び、隣同士で「ペプチド結合」する(一次構造)

 ⅱ ⅰは水溶液中で自動的にジグザグ構造やらせん構造を作る(二次構造)

 ⅲ ⅱの中のアミノ酸「システイン」は別の「システイン」とS―S結合を作る(三次構造)

 ⅳ ⅲで生じた立体的分子(ポリペプチド鎖)がさらに別のポリペプチド鎖と結合する(四次構造)


 さらに分子シャペロンという整形タンパク質が関わることもある。つまりタンパク質は、非常に巨大かつ立体的な分子である。そしてこの立体的分子は、温度やpHの変化で微妙に変形し、強熱や強酸にあうと、この立体構造が不可逆的に変形(変性という)する。分かり易く表現するなら、半透明だった卵の白身が加熱によって白い固体になるようなもの。そしてできた茹で卵を冷却しても、もう生卵には戻らないという、あの感じかな。


④ 「酵素」

 タンパク質のうち、化学反応速度に影響を及ぼすものを「酵素」という。酵素は化学反応に必要なエネルギー(活性化エネルギー)を下げるので、普段起こり難い反応でも1気圧・体温程度の条件でも起こりやすくなる。例:酵素カタラーゼ1個は、1秒間で過酸化水素分子500万分子を分解できる。

つまり酵素はそれなしでの生命活動が考えられないくらい大切な役目を持っている。


⑤ 遺伝子の「形質発現」

 遺伝子は「ある」だけでは不十分で、実際に生き物の「形質」になって初めて意味がある。たとえば「肌を黒くして太陽の紫外線から体を守る」ためには以下の遺伝子と酵素がすべて必要である。

 ⅰ 食物や体のタンパク質を分解する酵素A    ← 酵素Aの設計図である遺伝子A

 ⅱ フェニルアラニンからチロシンを作る酵素B  ← 酵素Bの設計図である遺伝子B

 ⅲ チロシンからメラニン(黒色素)を作る酵素C ← 酵素Cの設計図である遺伝子C


 通常の人間界でおこなわせる化学反応は、加熱や加圧や強酸等などによってようやく起きるのが普通だが、専用の酵素は一気圧・体温程度の条件で難なく反応させてしまう能力を持っている。そのかわり1つの化学反応にしか効果がない(基質特異性という)のも酵素の特性である。その理由は、これから反応を受ける物質(これが基質)と酵素とは、いったんピタリと結合(酵素基質複合体という)したその瞬間に化学反応が起きるからである。物質(基質も)はそれぞれ形が異なる。それに結合する酵素もそれぞれ形が異なることが当然で、1つの酵素は1つの化学反応にしか関わることはできないのだ。



★★★ ★★★



 つまり生命とは、「連続する酵素反応の連鎖」である。この鎖をどこかで断ち切れば、生命は終わる。ではどこでどうやって終わるか… そこが問題だ。ここまでを一度まとめてみよう。


酵素はタンパク質であり、働きかける物質(基質)の温度、濃度、pHの影響に敏感であるので、

 ⅰ タンパク質を合成させない(転写や翻訳の阻害、リボソームの阻害):毒薬など

 ⅱ タンパク質を変性させる(強熱、強酸、強塩基):過熱、強酸、強塩基

 ⅲ タンパク質を微妙に変化させる(酸、(中性) 塩基):この程度では酵素反応を阻害できない

 ⅳ タンパク質を微妙に変化させる(冷、温):0℃に近い温度、42~60℃程度の温度

 ⅴ 反応の場となる水を奪う:冷凍(氷)、塩漬け、砂糖漬け

 ⅵ 酵素に基質を与えない(阻害物質):部位の切断、毒薬、酸素を断つなど

 ⅶ 細胞膜の膜電位を乱す、または細胞間の神経の連絡を絶つ(電気):電気(直流、交流、パルス)


 ちょっと特殊なのが ⅶ の電気だろうか。ちなみにアメリカで電気椅子による死刑を実施していた頃の話として、始めは2000ボルト程度、後に8アンペアの電流になるように降圧して数分ほど通電すると、内臓は致命的なダメージを受けると同時に、温度は60℃近くまで上がっていた可能性があったという。ヒトの体温は42℃が限界と言われているので、電流というよりも実は高温のせいで死に至っていたのかも知れない。

 上のような条件(ⅲを除く)を与えると、酵素反応は止まる。つまり命は終わることになる。


 あとは… いかに恐怖感を軽減させるか、苦痛を減らすか、時間を短縮できるか…

いやいや、残された方々のことを考えれば綺麗に死にたいし、始末にカネがかからないようにもしたい。

二次災害を産まないような配慮も不可欠だ… とか意外に面倒くさいことがわかってきたりもする。


 やっぱりセルフよりも死神様においでいただく方が気分的にはラクなんだなって思ったりもする。

あああ、早く来てくれないかなぁ…


 お願いですから!



 次はいくつかのケースを想定して、サティならどの方法を選ぶか… 頭の中でシミュレーションを試みてみます。結局なかなか思い切れないものですね、ははは


第3部分から第9部分までは、仮想的自殺手段の羅列例になります。不要な方は第10部分へどうぞ。

また死神様マドレーヌが登場するのは第16部分になります。理屈が好きでない方はそこまでジャンプしてください。


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