第1部分 早く、早く迎えに来てください… お願いします!
第1部分 死にたいなら…
プロローグ 死神召喚
今、小説を書き始めている。これから小説家デビューを目指すのだ。私の記念すべき第1作は「死神に会いたくて」
なぜこのテーマを選んだか。それは…今自分が死にたくなっているからである。
死神さまに会いたい… よし、死神召喚だ!
デビューを目指すのに、死にたいとはどういうことか。
妙な話だがどちらも本心である。敢えていうなら、もし小説家として売れたなら、たぶん死にたくなくなってるだろうなぁ… とは思うけど。
小学校の頃、私の夢を聞いてくれた先生はこう言った。
『書きたいことを書きたいように書けば良いの… 自分に素直にね』
と。
今日まで忘れていたコトバだけど、本当にそれで良いのか試してみたくなったよ、先生。それで本当に売れるのか。売れなかったら、私は死のうかと思う。9割本気で… 願います。
第1節 能書き
死神に遭遇したヒトはいるだろうか?
居たとしても、それならもう死んでるさ、と冷笑する声が聞こえる気がする。
まず死神とは… 英語では「リーパー」(Grim Reaper)と呼ばれる。まもなく死を迎えるヒトに、死の「告知」や「勧誘」にくるのか、「お迎え」に来るのか、実際に生命の「収穫」にやってくるのかは、実ははっきり記録されていない。
一般的に流布されている姿は、多くの場合象徴的に「大鎌」を所持しており、現世では銃刀法違反の常習者になってしまうが、この大鎌は伊達眼鏡的な象徴なのか、実用する商売道具なのかは、これまた判然としない。
その姿… 絵画等のなかでは、しばしば「ローブ」を着用した骸骨またはミイラが、これも白骨化した馬に乗ったりしていて、激しい筋肉運動はできそうな気がしない。それどころかまともに、いや、ほんのちょっとだけでも動けるのだろうか? 筋肉なしで動けるならば、間違いなく特許が取れる技術をその身体に内包していることになる。
どんな姿であれ、今の私以外には歓迎はされない存在だろうが、要するに「死」を司る神、または死の管理者なのである。死神がどういう経緯でその権限を持ち、この一見損な役目を引き受けることになったのかについては寡聞にして聞いたことがない。役得でもあるのだろうか。
キリスト教などの一神教では「死神」などという「神」などは存在を許されるワケもなく、この嫌われ者的な役は「天使」が引き受けさせられている。また輪廻転生を信じる宗教では、死は生と裏腹の関係にあるので「死と再生」の両方に結びつけられている。結局99%の人間は「死」が怖いので、だからこそ「宗教」というココロの拠り所が流行るのだろう。
死神のお役目を務めることによる報酬や賞罰についても不明である。想像だが神ならば無償、悪魔の一族なら「魂」とか「亡骸」なのではないだろうか。間もなく死ぬ人の名簿作成者などについては、何らかの取引で適当な代役を立てたというエピソードもあったりする一方で、生れつき決まっているという説もある。そそっかしい死神がヒトを誤って召喚してしまう昔話なども、世界の各地に点在している。
同様な例は、結婚でなら中国は唐の頃の「定婚店」奇譚などが典型的なものであるだろう。もし決まっていて変えられないならば、死神の仕事は大変ではない。運命を調べて先回りすれば良いからだ。これなら大鎌を持った「死の配送業者さん」と言っても良いくらいの任務に過ぎない。しかしちょっとでも変わり得るものだすると、これはかなりの重労働になる。そのかわり遣り甲斐も大いにあるし、たまには誰かの運命を変えてみたくもなるだろう。
少し話が逸れることをお許し願いたい。
子どもの頃から幾度も天国や地獄の想像図を見せられてきた。天国は、ハスの池に花鳥風月、毎日をノホホンと暮らせるイメージがある。完全介護付きの老人ホームみたいなものだろうか。むしろ至れり尽くせり状態だと毎日ヒマすぎて困りそうな気がしていた。
これって本当にシアワセなんだろうか?
みなさまはどう思いますか? ちょっとくらいならストレスや刺激があった方が、生き甲斐を感じるのではありませんか?
それに比べると地獄は毎日の責め苦があって、むしろ精神的には充実しているのかも知れない。しかし刑期は膨大に長く(後述)、しかもこれ以上は死ねない(後述)というやるせなさ。
ところで… 昔から昔から気になっていたのが「天国や地獄というところの運営費」である。
地獄絵図から想像すると、天国も地獄も、現代社会で近似するのは「テーマパーク」であると思う。ハスの池も、火の山、針の山、B型肝炎だのエイズだのといった感染症が怖い誰の血だかわからない血の池も、運営費が無料ということはないだろう。土地代、照明費、燃料費、破損や消耗に伴う減価償却費、雇用しているキャスト…いや鬼の「鬼」件費などはいったい誰が払うのだ?
もし燃料が重油や石炭といった燃料系だとすると、その燃料を掘削、精製、輸送、小売といった産業が地獄にもあることになるし、鬼が持つ道具や罪人を茹でる釜を作る製造業、針の山を設計し建設する設計、建築、修繕などの業種も存在する必要がある。コストだの採算だの… えええい、これじゃまるで人間界じゃん!
そもそも鬼は何のために死んだ人間(の魂)を痛めつけるのだ?
どんな法律や慣習を根拠にして、どんな得があってそういうお役を真面目に勤めているのだろうか。
これこそは死神の件ともモロ被りする事案である。
物理法則に拠らずとも、何かをするには「カネやエネルギーや労力」がかかるはずで、だから少なくとも無料ではない気がする。有償ボランティアであったとしても、相当お給金を頂かないと成り手がいないし、経営も成り立たないのではないだろうか。
日本における死後の世界のルールによれば、人間は死んだあとに三途の川を渡り、閻魔大王の裁きを受ける。そして生前の行いによって、天国行きか地獄行きかを判定されるのだという。
特に女性には厳しすぎる。
なぜかって? だって「生理」があったらもう地獄行きが確実になるのだとか… こんなのどう見ても女性蔑視の名残りでしかなく、とんでもない理不尽さを孕んでいる。
ヒトはみんな女性のおなかの切れ目から産まれるんだぞ!
ああ、帝王切開のヒトもいるか… いや、そういう問題じゃない…
では男性は安泰なのか? いやいやとんでもない、小さな虫一匹でも殺した者は即地獄行きが決定する。蚊が私を刺したから、手で潰し… いや殺虫剤を撒きました、などと言ってもまるで無駄である。
そんなことより、これでは成人男女全員が地獄行きになってしまう。閻魔大王の判決前に「心からの懺悔をする」、または「遺族が追善供養を行う」かで、罪が軽くなることがあるらしいけど、基本全員地獄行きだと思っていれば間違いない。
あれっ? それじゃぁ天国要らないじゃん…
やがてみなさまも訪れることになる地獄とは… すごいところである。
地獄は人間界の地下に八層に分かれて存在するとされ、最も罪が軽い罪人は最も浅い「等活地獄」に墜とされる。罪状は殺生だけど、小さな虫だったとか一匹だけという言い訳は通用しない。獄卒と呼ばれる鬼たちが金棒を振り回し、容赦なく罪人を痛めつけている。給与体系が時給なのか月給なのか年俸制なのか、賞与は出るのか、有給休暇はあるのかなど、肝腎な雇用条件はどの資料のどこにも語られてはいない。
もし罪人がそういった虐待で死んだとしても、獄卒が「活々(かつかつ)」、つまり「生きよ 生きよ」と唱えれば、罪人は赤子の姿で蘇り、再び拷問が始まるという。
えっ、そんな、地獄じゃん…
ああそうだ、その地獄のお話だった。
地獄の特徴はその恐るべき偏執性である。日々同じことを延々と繰り返すのだ。最も軽い罪状の、この「等活地獄」でさえ、なんと500年。
しかし地獄の時間制度は一筋縄ではまとめきれない。
「じつは… 地獄時間は人間時間にするとどうちゃらこうちゃら…」
という複雑で怪しい換算を経ると、たちまち人間界時間換算で実質1兆6653億1250万年に跳ね上がるのだ。
この計算マジ怖い。
ぼったくりバーでさえコレはないだろ… 行ったことないけど。
もう一度繰り返すが、ここが一番軽くて短い刑罰の地獄なのである。第2~7の地獄を経て、それでも許されない極悪人は、最下層の「無間地獄」に堕ちるという。ここまで「落ちる」だけの時間で2000年も掛かるというが… いったいどんだけ高いとこにあるんじゃ?
そして釈放までは349京年…(1京は1兆の1万倍)以上というから、ビッグバンもビックリのレベルである。ちなみに宇宙のビッグバンから現在まで、およそ140億年前と計算されているから、宇宙の年齢の、実に2億5000万倍のお勤めをするとようやく許していただけるシステムらしい。
しかし… 誰だろう、これを見てきて、話して聞かせたのは?
地獄うんぬんよりも、私はコイツを信じない。
仏教を信仰する人々は本当にこれを信じているのだろうか? 騙されているんじゃないのだろうか?
たくさんの信者を持つあの宗教では、処女が子を身籠ったという。そんな話も同様に眉唾だと、私は思う。
なんでこんな話を信じられるのか、私には到底理解ができないのだが…
余談が過ぎた。日本のおける「死神」的存在は、イザナミや閻魔、牛頭馬頭、縊鬼、餓鬼憑き、七人ミサキなどで、死を管理したり裁いたりする役の他にも、ヒトを死に誘う役を分担しているようだ。
現世で有名なのはタロットカードの「死神」であろう。言うまでもなくタロットカードはトランプの原型であり、今でも占いに使われている。その「大アカルナの13番目」のカードが「死神」であり、損失や停止、やり直しや再生の意味を持つことが多い。意味が異なるのは、カードの「向き」を重視するタロットカードの特性によるものだ。
洋の東西を問わず、死神的な存在は例が多く、名称も様々である。
これだけ語られるからには、おそらく実在し、今日も仕事を頑張っているに違いない。今回死神についてを執筆するきっかけは、まさに「死神に会いたいから」である。筆者はただいま信じていた人間に裏切られて失意のどん底にある。しかし現世でヨメ子供の生計を支えねばならない。
そう、今は
「ああ、死にたい… 死神さん来てくれないかな」
とかなり本気モードで考えているからなのこそ、会いたいのだ。
実は今死ぬと、保険金のリターンが最も大きいのに、夜明けとともに生きて、しかも元気に目が覚めてしまい、ああ、今日も健康に生きるのか、と憂鬱で悲しい朝を迎えている毎日なのである。
私が死神様に対してちょっと揶揄したり挑発的なコトバを吐くのは、怒った死神さまが今すぐにでも来てくれることを真剣に念じているからなのだ。
ただ、できるならお願いします。素直に逝きますから、苦痛だけは勘弁してください。
この文では個別の死神論よりも、「死」を通じてその裏腹にある「生」の方も考え直してみたいと思っている。もしこの本が売れれば、もう少し生きてみよう。もし売れなければ、こちらから捜して会いに行かねばなるまい。「死神」さま、お会いしたかったです、と喚きながら。
さて… 世界の「死神」の名称の一覧を調べてみた。今調べるなって言われそうだけど、まもなく死にゆく筆者としては、そんなのどうでも良いことだ。日本語と英語の他は知っているはずがないと思ったが、そうでもなかった。
例えばエジプト神話のアヌビスやギリシア神話のタナトス、北欧神話のワルキューレなどだ。おお、キミは死神さまだったのか… みたいな、新しい発見である。
このうち比較的なじみがありそうなのはアヌビスだろうか。ほら、あのピラミッドの中の絵画やミイラの近くにいるイヌ(本当はジャッカルかオオカミらしい)みたいな顔で腰布を巻いたヒト型のアレだ。自分の母がその兄と不倫してできたアヌビスは、ミイラ製造に携わり、冥界の神とされていただけでなく、「ラーの天秤」を用いて死者の罪を量る役目も担っていたという。ちなみにラーは太陽神である。
古代エジプトでは、王族は神そのものであり、下賤な一般ピープルとの交雑を嫌っていた。勢い、次世代は神同士で製造するハメになり…それが近親相姦の実態である。上では不倫と書いたが、不倫といえば不倫だらけ、むしろそれこそが神としての正統な王族一家の存続儀式であったのだろう。一族であるがゆえに、何らかの劣性(潜性)遺伝子は相手の劣性遺伝子と出会う確率が高く、多くの遺伝病が現出したことだろうし、その証拠はミイラにも残っている。
日本では古事記のイザナミノミコトがもっとも有名かも知れない。イザナミは天地開闢のときイザナギノミコトと共に産まれ、多くの日本国土とたくさんの神々を産んだ。しかし火の神を産んだ時の陰部のヤケドがもとでやがて死ぬ。念を押すが、「神なのに死ぬ」、しかも「下腹部のヤケド」が原因で死ぬのだ。
夫イザナギノミコトは彼女に会いに黄泉の国に会いにいくが、イザナミノミコトは腐敗した遺体を見られて怒り、夫を追いかける。あれ、死体が追いかけるのかい?
夫は黄泉比良坂を大きな岩で塞ぎ追跡を阻む。そりゃ無理もない、腐敗した遺体がこちらに走ってきたら、大抵のヒトは夢中で逃げるだろう。
「わぁぁぁぁ、ゾンビだっ!」と叫ぶ余裕も無いに違いないが…
しかしイザナミは夫にむかって「愛しい人よ、こんなことをするなら1日に1000の人間を殺してやる」と叫ぶ。でもさぁ、普通驚くってば! わかってあげてよ…
夫は夫で「なら私は1日に1500の子どもを産ませよう」と言い返す。待て待て、1500人産ませるってことは何千人とノーヘルで交接するつもりなのだ、イザナギさんよ…
それ聞いた相手は嫉妬に燃えるだけでしょ!
それに… せめて同数の1000人にしとけってば…
どっちもどっちだ。
そりゃ当然だろ、という離縁をしたあと、イザナミは黄泉の主宰神となり、黄泉津大神、道敷大神と呼ばれるようになったという。むむ、昔の神様ってずいぶん人間ぽいなぁ。
ちなみに数代の後、二人の子孫同士のペアから神武天皇が産まれたことになっているので、二人は皇室の祖だと言える神々である。