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姫雫  作者: 赤坂秀一
第二章 不穏
7/20

7 八代目決定!

お待たせしました第7話を更新しました!


やっと八代目が決まるようです。って八代目は決まってなかったかな? それが正式に決まったって事ですか?

お楽しみください!


 私と叔母は、次の日の夕方酒蔵へ戻りました。私は最後まで戻る事を拒みましたが…… 叔母に無理矢理連れて行かれたのです。

「兄さん、姉さんこんにちは!」

恵子(けいこ)さん、郁美(いくみ)は?」

「私の後ろにいますよ!」

 私は叔母さんの背後から不機嫌そうに顔を出します。

「郁美、戻って来てくれたんだな」

 父はそう言いますけど……

「兄さん、もう郁美さんを解放してあげてください」

「解放ってなんだ!」

 やっぱり父は解っていません。

「あなた、郁美が何故家を出たか解らないの?」

「もう、戻って来たんだろう! 良いじゃないか」

 やっぱり駄目です。話になりません。

「郁美さん、帰りましょう。話にならないわ!」

 叔母さんがそう言った時でした。

「こんにちは、お邪魔しますよ」

 清君(きよくん)のお母さんの由香里(ゆかり)さんです。もちろん清君も一緒です。

「お父さん、今日は承諾を頂きにきました。郁美さんと結婚させてください」

 清君は突然かなりストレートに話します。

清政(きよまさ)君、それじゃ八代目を継いでくれるんだな!」

「だから、酒蔵を継ぐつもりはありません。昨日も言ったでしょう」

「それなら郁美はやれん!」

 お父さん何言ってるの!

「お父さん、八代目は私が継ぐ事で話は出来てるでしょう」

「いや、女には無理だ! 蔵元はそんなに甘いものじゃない」

 やっぱり父は何でもかんでも自分の思い通りにしたいようです。

「お父さん、もういい加減にして、私はやっぱりここを出て行くから、もうここの蔵もお父さんの代で終わりだからね……」

 私がそう言った時でした。

「解りました! それじゃ清政を八代目にしましょう」

 いきなり清君のお母さんがそんな事を……

「母さん、何を言うの! 僕は何も知らないのに、蔵元の仕事なんて出来ないよ」

「清政君のお母さんは話が分かるようだ」

「ただし、養子には出しませんからね! 郁美さんには北御門(きたみかど)家に嫁に来てもらいますからね」

「えっ! ちょっと待ってくださいよ、うちの八代目を継ぐのなら婿養子になるという事でしょう」

 父はやっぱり自分勝手です。このままだと話は平行線です。これってどうなるんだろう……

「なに言ってるんですか! 八代目は継ぐとこっちは妥協しているんです。だから、そちらも妥協案を出してください」

 清君のお母さんも負けていませんが、父の我儘にどこまで通用するでしょうか……

「何を言ってるんですか! そちらが勝手に妥協してるだけじゃないですか」

 もう駄目です。うちの父は何を言っても解ってくれません。

「お父さん、どうしても解ってもらえないようなので私は郁美さんを連れて帰ります。もちろん八代目の話も無しです。郁美、行こう」

「なんだと!」

 清君がそう言って私の手を握り外へ出ようとした時です。

「もう、いい加減にしなさい!」

 母が大声を出しました。ずっと我慢していた様です。

「あなたはさっきから何を言っているんですか? このままだと蔵はおろか郁美もいなくなりますよ! それでもいいんですか!」

 母は痺れを切らして父を怒鳴りつけています。

「だって、おまえ……」

「郁美がいなくなっても良いんですね! 蔵があなたの代で終わっても良いんですね! 孫の顔が見れなくても良いんですね!」

 この声を訊いて杜氏(とうじ)(かしら)追い廻し(おいまわし)の人達まで顔を出します。

「蔵元、うちの蔵はもう終わりなんですかい……」

 父は顔を顰めて考え込んでいます。

「お父さん、私はこのまま北御門家にお嫁に行きます。もう二度とこの家の敷居は跨ぎませんので…… 行こう清政さん」

 私がそう言って家を出ようとした瞬間……

「解った! それで良い」

 父は諦めたように言い切り黙ってしまいました。

「八代目は継ぎますけど婿養子には入らない! それで良いんですね」

「ああ、それで良い…… だから郁美、戻って来てくれ…… 頼む……」

 なんとも情け無い父です。しかし、これでまた一歩私の結婚が近づいたかも!

「お父さん、今度は嘘じゃ無いよね、もし妙な事をしたら問答無用で出て行くからね!」

「おまえは俺の事が信用出来ないのか?」

「出来る訳ないでしょう。何言ってるの」

「蔵元、それじゃ木村酒造は安泰ですね!」

 どうやら杜氏の永島(ながしま)さんや酛師(もとし)三浦(みうら)さん、(かしら)石原(いしはら)さん、追い廻しの職人さんもうちの蔵がなくなるんじゃないかと不安だったようです。まあ、父の言っている事も解らないではないのですけど、杜氏さんや頭さん、酛師さんに追い廻しの職人さんの事も考えてあげて欲しいものです。

 その日は取り敢えず話は終わり恵子叔母さんも安心して帰って行きました。私と清君は夕食を軽く済ませようと清君のお母さんと三人で杏子へやって来ました。

「郁美ちゃんいらっしゃい! 鬱陶しいのも来てるよ」

 マスター鬱陶しいって言っちゃ駄目! 分かるけど……

「郁美さん、ここはあなたの行きつけなの」

「あっ、はい。場所を変えますか?」

「ううん、雰囲気の良いところね、気に入ったわ!」

 清君のお母さんはこういうところが好きみたいです。

「郁美、一緒に飲まない?」

「えっ」

「郁美さん、お友達?」

「はい」

「あら、そうなの? 初めまして私は郁美さんの義理の母の北御門由香里と言います」

 えっ、そういう紹介は、この二人にはまずいんですけど……

「えっ、それって郁美、結婚したの?」

 まあ、ああ言われるとそうなるよね……

「ううん、まだ結婚もしてないし、籍も入れてないけど、いずれはそうなるでしょうという事」

「へえ、そうなんだ! おめでとう」

「だから、ちょっと気が早いんだって!」

「こちらがご主人さんなの?」

 明奈、もういいから…… まったくもう。

「あっ、北御門清政です」

「あっ、平泉明奈(ひらいずみあきな)です」

「私は山川瀬菜(やまかわせな)です。まえにカフェで会いましたよね」

「あっ、あの時の」

「あれからどこに行ったんですか?」

「えっ、あれからは……」

「はい、そこまで!」

 まったく、この二人は油断も隙も無いんだから……

「ちょっと良いじゃない」

「よくない」

 まったく、清君も誘導尋問に引っ掛かりすぎ。

「あら、あなた達上手いのね! 私もその続きは聞きたかったけど……」

「母さん、もう良いでしょう! 郁美が困っているから」

 元はと言えば清君の隙が多すぎるのよ!

「あら、人に言えないようなところに行ったの?」

「そんな事ないよ! 母さんふざけてるでしょう」

 清君のお母さんってそんな人だっけ……

「はい、お待たせしました姫雫の冷酒です」

 マスターが冷酒を持って来ました。ってマスターが300mmlの空ビンを二本片付けてますけど…… いつの間に…… 酔っ払ってますよね? それにしても、ひとりでいつの間にか二本も飲んでるの?

「母さん、ペースが早いよ」

「良いじゃない、今日はあなた達の婚約が成立したんだから」

「やっぱり郁美、結婚が決まったんじゃない」

 ハア、もう駄目だ…… 誰か助けて!

「清君のお母さんってこんななの?」

「うん、酒が入るとダメなんだ」

「郁美ちゃん、これ結婚祝いね、冷酒飲んでってね!」

「マスター有難う」

 でも、これ家にもいっぱいあるんだけどね!


 清君とお母さんと杏子で別れたあと、家に戻ります。すると父が何か準備をしています。

「なにやってるの?」

「来週の土日は田植えだからな」

「田植え? いつから農業始めたの?」

「何言ってんだ、毎年種蒔き、田植え、稲刈りと俺が行ってるだろう」

 そういえば父は毎年今の時期は出掛けてましたけど……

「郁美、清政君にも言っといてね! 八代目に本当になるのなら契約農家さんのところに手伝いに行かないといけないから」

 母がそう言います。今までは父がずっと手伝いに行っていたけど、八代目になれば清君が行かないといけないのか…… これは早めに清君に連絡しておかないと、私は早速メールでその事を連絡しました。まだ既読が付いていないので解って無いと思うけど…… 読んだらビックリしてたぶん電話が掛かって来るだろうな……

 でも、田植えと稲刈りはなんとなく想像出来るけど、種蒔きってどうするの? 確か田植えは機械で苗を植えて行くんだよね! まあ、その苗を作るという事だろうけど…… その時、私のスマホが鳴りました。

「もしもし、清君?」

『郁美、田植えってどうしたら良いの? 農業なんてやった事ないから解らないよ』

「うん、私も解らないけど、ちゃんと教えてもらえるから」

『郁美も行くよね?』

 あっ、それを聞いてなかったけど、私も行かなきゃいけないよね……

「清君、私も行くから一緒に頑張ろうね」

 そう言って取り敢えず連絡は終わりです。その後、私は母のところへ行きいろいろ訊く事にしました。

「お母さん」

「あら、どうしたの?」

「田植えって何をしたら良いの?」

「あら、あなたも行くの?」

「だって清君だけに任せられないでしょう! いきなり成り行きで八代目にさせられて、しかも来週は田植えだからなんて言われても」

「まあ、そうね! それじゃ一緒に行って彼を支えてあげなさい」

「うん! それで何をすれば良いの?」

 母は、にこやかに微笑みながら……

「苗床から田んぼに苗を運ぶだけよ! まあ、それが地味にきついんだけどね……」

「お母さんもやったの?」

「ええ、やりましたよ! ここに嫁ぐのが決まったときに種蒔きも田植えも稲刈りも手伝いましたよ」

「やっぱりきつかった?」

「まあね、でもあの人と一緒だったから楽しかったかな…… 後からがかなり疲れたけどね」

 そうか、でもお酒を作る為には必要だもんね。

「あなたも、清政さんとならきっとやって行けますよ」

 母にそう言われなんとなく自信がついた気がした私でした。




八代目が成り行きで決まってしまいましたが、これで良かったのかな? でも、これで二人の結婚は少し近づいたかな……

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