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犬に論語が通じるか

 目覚ましはいつもセットしていない。学校に行かなくなったあの日から、目覚ましは時を止めたまま。戒めとして、私は朝が嫌いになった。

 けれど、朝というものは必ず私のもとへやってきて、こう言うのだ。


 ーーあなたはまだ、私が嫌いかい


 だから私はこう答える。


 ーーああ、大嫌いだと


 すると朝の問いかけも収まり、私は静かに夜に眠る。温かな日の光に包まれながら、私はゆっくりと目を開けた。

 私が毎日起きる時刻は十時ぐらい。だが時計を見れば短針が差していたのは7という数字であった。


「私も早起きできるようになったじゃないか」


 私は軽い伸びをしながら日の光へ向かって足を進めた。

 階段を降り、庭に繋がる扉を開けてサンダルを履く。犬小屋へ足を進めると、まだ静かに眠っているワン公がいた。ワン公の横で、ヘビ太はぐっすりと眠りについている。

 いつの間にか仲の良い彼らを見て、私は微笑ましく思う。


 早起きも悪くはないものだ。

 いつからかそう思うようになっていた。


 ワン公たちが起きるまで、私は庭にある大きな石に腰かけることにした。しばらく空を眺めてボーッとしていると、足音が近づいてくるのが分かった。

 足音から察するに一人だけ。それもこの庭へ向かってきているようだ。

 まさか、泥棒……そんなはずはない。とは思いつつも、私は足音がする方へ視線を向け、睨み付ける。


 そんな私の視界へ、一人の男が少しずつ映り始めた。指先、腕、体と少しずつ私の前へと姿を現したのは、見覚えのない恐らく初対面の男であった。

 身長も高く、二十歳くらいだろうか。そんな男が庭へ一体何の用で来たのだろうか。

 まるで探偵にでもなっているかのような気分を味わい、私の前で足を止めた彼へ問う。


「どちら様でしょうか」


「これは失礼致しました。初めまして、四季春妃さん。私はある博士の助手をしております、橋本と申す者です」


 彼は礼儀正しくそう私へ自己紹介をしてみせた。

 だが疑問はあった。なぜ私の名前を知っているのか。そしてその博士という者の名前を隠すということは私の知り合いであるのだろうか。


 それについて質問をしようとした時、彼は言った。


「見破られていましたか」


 明らかの話の流れとは別のことを言ったその男の発言に、私は非科学的なある疑念が浮かぶ。


 まさかこの男、私の心を読んだのではないか。

 だとすれば、先ほどの発言は博士という者の正体が私の知り合いフェあるということに肯定したのだろうか。


「その通りです。私はあなたの心を読んでいます」


「気持ち悪いな。超能力者か何かか?」


「いえいえ。そんなものではありません。ヒントならば既にあなたは一度見ていると思いますよ。どうやら、庭に大きな穴も掘られている跡があるようですし」


「まさか、それも謎の発明の力か?」


「その通りです。博士は人々を驚かせるような発明ばかりするのですよ。動物の言葉が分かる首輪も、全て博士が作ったのですよ」


「それで、首輪を回収しに来たのか?」


「私がここへ来た理由ですか。それはですね」


 どこか怪しい雰囲気を漂わせながら、彼は口もとへ人差し指を当てた。それはまるで子供がよくやる静かにしての合図のようだ。

 この男、まさか……


「それじゃ春妃さん、」


 男が胸元から取り出したのは拳銃、それも弾が何発か装填されている。

 この男、なぜか分からないが私を殺すつもりか。

 逃げる間もなく、引き金は引かれた。それとともに放たれたものは私の頬へ当たる。だが、それは弾丸ではない。まるでクリームのような……というか生クリームだ。

 このにおい、そして触った感触、生クリームじゃねーか。


「誕生日おめでとうございます」


「は!?どういうこと?」


「そのままの意味です。ただあなたの誕生日を祝いに来たのですよ、おめでとうございます」


 誕生日を祝われる。

 今まで私は誕生日を祝われて幸せを感じなかったことはない。だが今だけはそれを感じない。

 回りくどい、そう私は思っていた。


「すまない。方法を間違えてしまったらしい」


 間違いどころか大間違いだ。

 危うく撃たれる前に舌を噛み千切ろうとしていたところだ。


「そういえば春妃、君の両親が帰ってくるのは遅くなるらしい。だから冷蔵庫に入っているものでも食べて、だってさ」


「なぜ見ず知らずのお前がそんなことを?」


「シークレット。それだけは秘密さ。ただ強いて言うのなら、Mとその他、私は今の言伝てをその人に頼まれた。ヒントはそれだけ」


 男は一度犬小屋へへ目を向け、私へ背を向けた。


「ではまたな」


 謎の言葉を残し、男は去っていく。だが数秒後、すぐに戻ってきた。


「一つ言い忘れていた。君はもうすぐ大切なものを失ってしまうだろう。その苦しみに、君は耐えられるか?」


 何を言っているか、私には理解できない。男は私へ不思議な気持ちだけを与え、去っていく。

 Mとその他、そういえば土に埋まっていた箱の中に入っていた手紙にもそう書かれていた気もするが。


 あれ?というか、今日は私の誕生日じゃなかった気もするが……。

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