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犬の扱いには用心棒

 ワンワンと、甲高い声が私へ強く訴えかけてくる。

 ーー私はここにいる、私の声を聞いてくれ。

 そう言っているのかと私は妄想に更ける。しかし彼が私に何を伝えようとしているのか、それは人間である以上、私には到底理解できないだろう。

 心はきっと繋がっている、けれど言葉で繋がることはできない彼と私。


「ねえ、あなたは何て言っているの?」


 ワンワン、彼は再びそう吠えた。

 彼が何と言っているのか、やはり私には分からない。たまには誰かと会話がしてみたい。

 ひとりぼっちの私には、それが叶うこともない。


「ああ。寂しいな」


 私はいつだってそう愚痴を溢し続ける。

 これからも、きっと死ぬ時も。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 月曜日がやってきた。

 私はいつものように家でごろごろと寝転んで眩しい朝日に目を痛めた。日常茶飯事の小さなトラブルに私はあくびをする。

 時計を見れば九時を既に回っている。私は十四歳、普通ならば学校にでも通っているのだろうが、私は決して真面目ちゃんなどではないし、学校に行かないからといって不良ちゃんなわけでもない。ただ学校に退屈しただけの、けなげな可愛い女の子なのだ。

 と自分でも言うのは恥ずかしいのだが、大方合っているのだから否定する必要もないだろう。


 これ以上過去を思い出したくはない。

 私は一度頭をリセットするために洗面所で顔を洗う。日の光を浴びようと外へ出ると、愛犬のワン公はいつものように私に目覚まし代わりの鳴き声を浴びせてくる。それにより防御力が少し低下しただろうか。

 そんなことを思いつつ、私は庭の石垣に腰かけると、なぜかワン公が地面を掘り進め始めた。今までそんな行動をしてこなかったワン公に驚きつつも、私はその様子を覗き込む。


「なあワン公。何してるんだ?」


 当然返答はない。

 ワン公が地面を掘っている様子を見ていると、私はある童話のことを思い出していた。

 それは花咲かじいさんという童話の一場面であり、かなり有名な様子のここ掘れワンワンというものであった。ワン公がまるであの童話のように掘り進めるものだから、私は長年封印されていた倉庫からスコップを取り出し、ワン公の掘っている場所を掘り進める。


 三十分ほど掘った頃だろうか、既に穴は私の身長ほども深くなっており、もう少しで掘れなかったら諦めようとしていた。その矢先、スコップが固いものへ当たった。


「まさか……。いやいやまさかな」


 さすがに私は驚いた。

 正直掘って何かが出てくるなんて思いもしてなかったのだから。だがまだただの石という可能性もある。だから私は固い部分の周りを掘り、そしてその正体を掘り出した。

 錆びてはいるが、正方形の鉄製の箱。それを地面に置き、いつの間にか穴の中へ降りてきていたワン公とともにその箱の蓋を開けた。中に入っていたのは何年か前の写真がすぐに紙として印刷されるタイプのカメラと、首輪のようなもの。箱の下には土を被った一枚の封筒が置かれている。

 封筒を開け、私はその中に入っていた手紙に目を通し、朗読する。


「この箱を開けた君へ。きっと何年も先の未来に発掘されるだろう。その思いを込めて、私はこの箱を地面深くに埋めました。この箱を見つけたのだから、一応説明はしておかないとね。そこに入っている首輪をつければ動物の言葉が私たちの言葉へ変換されます。つまり動物が言っていることが分かるのです」


 私は一度ワン公へ視線を移した。

 動物の言葉が分かる。それはつまりワン公の言葉も分かるということなのだろうか。だとすれば……


「たくさんの動物と人とが繋がれますように。私はそう願い、未来へこれらを送ります。そしてあなた方が過ごした思い出を、どうかそのカメラに刻んでください。Mとその他より」


 そこでその手紙の内容は途切れていた。

 正直違和感は幾つもあった。昔、という割には手紙は土を被ってはいるが古さを感じず、むしろ新しさを感じるくらいだ。

 違和感を感じてはいたものの、私は試しにその首輪をワン公の首へつけてみることにした。装着はしたものの、本当に人の言葉へ変換されるのか疑いの目は向けていた。

 それもそのはず、見ず知らずの人間から百万を渡されても怖いだけだ。それを何の躊躇いもなく使えるものはいないだろう。


 怖くなりワン公へつけた首輪を外そうとした瞬間、


「何で首輪二つもはめさせらてんのや」


「え!?」


 私は耳を疑った。

 今の声は明らかに、ワン公の声であったことは間違いない。それに周りにはワン公しかいない。

 考えられる答えは一つしかない。だがその答えは信じがたいものであり、はっきりと聞いても尚私は空耳ではないのかと疑った。


「まさか……。そんなまさかがあり得るのか……!?」


「何か自分で喋っている言葉が理解不能なんだがどういうことやねん。なんや、まさか首につけられているこの首輪のせいか」


「ワン公、お前……」


「どうした?まるでわしの言葉を理解しているようじゃ……って、もしかしてさ、わしの言葉、全部分かったりする?」


「ああ。全部聞こえてたけど……」


「そ、そうか……」


 気まずい空気が流れ、無言の時間が刻まれた。

 場を和ますためにワン公は人間のような咳をし、説教する前のような先生のように落ち着いたトーンで言うのであった。


「とりあえず、ゆっくり話でもしよか」

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