砂糖の味
その日は今の等身大の気持ちをぶつけて、相手から何が返ってくるのかを色々考えているうちに時間が経過していた。
仕事も終わって帰路に着き、用意していたセットアップに着替えてお化粧直しもして、そこで少しはみ出した口紅をこすった。念の為トイレに行って手を洗って、きちんと鏡の前で身だしなみを整えた。
ここまで行儀良く女の子の型に入ったのは何日ぶりだろうか、そんなことを考えて上手くいったアイラインをもう一度確認してローヒールのパンプスを履いて部屋を出た。
「わーっ!」
また頭の中に妄想が吹き荒れそうになったため、頬をぺしりと叩いて気持ちを正した。
落ち着いて、相手の目を見て喋るだけだというのに、いつにも増して緊張感が膨張している。
こんな調子で大丈夫だろうかと考えて、イヤフォンを耳の中にねじ込み歩き出した。
流れ出したJ-POPのサビを口ずさんだりして駅に着いた。
「待った?」
先に着いていた相手に確認したら、首を横に振られた。
ユカリちゃんは幼少期からの親友だ。幼稚園も、小学校も中学や高校だって一緒の大親友。時々ケンカだってすることもあったけれど、それも今や大事な思い出なのだ。
「へへ、アカリ相変わらず可愛いねぇ」
ユカリちゃんは私よりも背が高くて、色白でぼーいっしゅってやつでかっこいい。王子さまみたいで、いつも私のことを可愛いとか褒めてくれる。
「ゆっユカリちゃんこそ!」
ポンポンとあやすように頭を撫でられて、私は反射的にそう返した。耳まで熱を帯びそうになっているが、そんな場合じゃない。
今日はユカリちゃんに大事なことを伝えなくちゃならない使命があって、今ここにいるのだから。
「じゃ、行こっか」
改札を抜けて電車に乗った。電車の中でスマートフォンを触り出したユカリちゃんに合わせて、私も負けじと触り始める。本当は会話とかしたいのだけれど。ニコニコしてたまに可愛いネコちゃんの画像を見せてくれるから、それもまぁいいかと思って微笑み返した。
目的の駅に着くと、ユカリちゃんがエスコートを開始した。私達の住んでいる田舎とは違って都会は人の往来が激しい。身長が低くてすぐ迷子になる私のために、ユカリちゃんはいつも手を繋いでくれる。
途中、人に押し潰されそうになったがどうにか目的の喫茶店まで来た。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2名で」
ユカリちゃんが喫茶店の扉を開けると同時に手が離れた。すぐに優しそうな店員さんが席まで案内してくれて、私はいよいよ来たイベントに胸を高鳴らせた。
私がショートケーキと紅茶のセットを頼んだ後に、ユカリちゃんはチーズケーキ とオレンジジュースのセットを頼んだ。
「紅茶飲めるの、いいなぁ。アカリって大人って感じするね」
「ふふふ…ユカリちゃんは大袈裟だよ。ユカリちゃんのが大人って感じするよ」
「そう?へへっ嬉しい」
私の返事に満更でも無いような感じで照れ笑いをするユカリちゃん。顔のエクボが愛らしく見えて、ついつい口角が上がるのを抑えた。
「でね、アカリに話があるって言ったじゃん。大した話じゃないんだけどね」
窓から入る夕日で、ユカリちゃんはいつにも増して綺麗に見えた。
お互い別々の大学に入ってからも遊んだりしていたのだけれど、最近のユカリちゃんは香水付けたりアクセサリーを付けたりとおめかしをして遊ぶことが増えた。もちろん私としては嬉しいからすぐ気付いては似合ってるね、なんて褒めていた。
「うん。なになに?別にいつも大した話じゃなくても喋るじゃん」
そんな時にユカリちゃんから相談したいことがあるなんてメッセージが届いた。これは多分、いやもしかしてもしかしなくてもそうなのだろう。
「えっと……あのね?」
私はうんうんと頷いた。そんな肝心な時にケーキセットが届いて、お互いそわそわしながら店員さんの言ったことに頷いては皿を受け取った。店員さんが去っていった後、少し咳払いしてユカリちゃんが切り出した。
「実はね。好きな人ができたの」
へぇーっと少しだけオーバーにリアクションして、私は紅茶を一口飲んだ。ここまでは想定内だから、次に続く言葉を待つ。
「で、相手は?」
「うんとね。私のことよく分かってくれててね。いつも大事にしてくれてる人で」
思い出しながら語っているようで、ユカリちゃんはずっと口元が緩んでいた。それを見てまた頷いてケーキを口に入れた。甘いクリームの味が広がる。
「で、付き合いたいなって思ったんだけどね」
「そうなんだ。じゃあ告白してみれば?」
「…うーん」
「ほ、ほらその案外オッケーとか貰えるかもだし」
捲し立てるようについ早口になってしまった。私は頭の中の妄想を止めるべくまた紅茶を飲んだ。ユカリちゃんも緊張しているのか、オレンジジュースをストローで飲む。可愛らしい。
「だからさ、告白したら?」
「や、ええっと…その。昨日ね、されたの」
「…え」
店内にかかる音楽にかき消される程度の声は、ユカリちゃんの耳には届かなかった。
ユカリちゃんはお相手の男性のことをひたすらに褒めていた。私は適当に相槌を打ったり同意したり笑顔を取り繕ったりしてケーキを食べていたけれど、味はしなかった。
キラキラした宝石のような苺をいつ食べたか、会計はいつしたかとか全部忘れてしまった。
自分の家に入ってから泣きじゃくって、ひどく虚しい気持ちに支配されたことは覚えていた。
私の大好きなユカリちゃんは、私のことを好きだと告白してくれた幼稚園のときのままだと私は思っていた。
いつか迎えに来てくれる王子さまはきっとユカリちゃんのことなのだと思っていた。ユカリちゃんがお相手の男性のことを話している時、いつにもましてユカリちゃんは綺麗だった。
『私のことを女の子として、可愛いって言ってくれたんだ。へへ…そんな人いるかよって思ってたんだけどさ。覚えてるかな?小さい時にアカリが王子さまが迎えに来てくれる話を聞かせてくれたじゃん』
私がいつもかっこいいと恋焦がれていた王子さまだった。きっとユカリちゃんは私と結ばれるのだと疑いもしなかった。
『私にとってあの人は王子さまだって気づいたの。きっと付き合えることになったのはアカリのおかげだよ!』
ああ、どうして気付かなかったんだろう。ユカリちゃんだって女の子だというのに。私はユカリちゃんにとっては親友だったということに。それ以上でもそれ以下でもなくて、ただただずっとお茶を飲んでお喋りし合う仲だということに。
そのまま夜になっても、私は化粧が崩れてぐちゃぐちゃになった顔を鏡越しに眺めていた。
カーテンの合間から漏れる月の明かりだけが、時間が過ぎていることを伝えていた。
頭の中がうるさくてバテてしまったので書き出しました。拙い文章で申し訳ありませんn(_)n
ここまで読んで頂きありがとうございました。




