心の平等
結局、まといは炭弥に車で自宅マンションまで送られた。
時間はもう深夜0時30分を回っていた。
碧はマンションの前で待っていた。
炭弥の車を見つけるなり近づいてきて、まといが助手席から出てくるのを見てホッと息をついたが、まといが頭に包帯を巻いているものだから、目を大きく見開き、『どういうことなのっ???』と説明を求めてきた。
炭弥は、2人の間に割って入り、こう説明した。
「自粛ウォーカーに殴られたんや。難癖付けられてな」
「んもうっ!まといちゃんっ!!これだから夜道は出歩いちゃだめだって言ってるでしょっ!!」
「……………うん。あと、ごめんなさい。私が全部悪かった」
「……………まといちゃん………」
「あとね、わたし、もっと碧さんの前では伸び伸びしていきたいなって思ってる。自立する事ばかりに目が行って、孤立してちゃバカだと思うし……」
「…………いいよ、うれしいな。うん、うれしいよ」
「ホント?ありがとうっ!!」
まといはパッと明るい笑顔を見せ、碧を両手で深く抱きしめたのだった。
そんなまといに、碧はというと…………。
「アハハハハ、ウへへへへへ」
まといの両胸が自分の胸に圧力を加えている感触に対し、動揺と喜びの入り混じった表情を浮かべていた。
炭弥はというと、そんな2人を鼻で笑い、何も言わずに去っていった。
これにて一件落着である。
碧はリビングにて麦茶をゴクゴクと飲み始めた。
「ねえ碧さん、今日一緒に寝ていい?」
そして碧は麦茶を勢いよく噴き出した。
「どうせ碧さん、明日も、朝早く出ていっちゃうでしょ。だから寂しくて……。ね?いいでしょ??」
いや、待て待て待て。
いつか夢見たゴールインではあるが、それに至るまではやはり過程が存在するわけで。
それとも過程はしっかり踏んでいたけど、無自覚のままここまで進んでしまっただけとか?
いやいやいや、そこまで鈍感じゃない。というより、鈍感なのはまといの方だとずっと思っていたくらいである。
それでも、一緒に寝たいと言ってくれるのなら、喜んでと言うしかないわけで……。
「じゃあまといちゃん、シャワー浴びてくるから私の部屋で待ってて」
問題なのは、ソッチ方面の行為に対し、知識はあっても経験が皆無だという事。ここでしくじったら終わりである。鼻で笑われてしまう。
碧はシャワーを浴びながら、無難な攻めにしておくべきか、それとも大博打に打って出るべきか、色々なパターンを頭の中で駆け巡らせたりもした。
なんにせよ、今日の夜を持っていよいよゴールインなわけだが……。
ゴクリ。
碧は、なんとか今のうちに心の準備を整えようとするが、なかなか緊張が収まろうとはしなかった。
それでも、あんまり待たせてもあれなので、心の準備がまだのまま浴室から出て、着替え、碧は自分の部屋へと向かったのだった。
もしかして全裸待機してくれているのかと思いながら扉を開けると………。
「あれ?」
まといはベッドのうえで寝ていた。しかも、しっかりとパジャマのシャツに着替えたままだ。
そして、いつ買ったんだかわからないもっちりひげクマくんのぬいぐるみを胸に抱きながら、スヤスヤと寝息を立てている。
でも、問題はそこじゃない。
碧がベッドのうえで寝る隙間などいっさい残さないように、綺麗なほどに斜めに彼女は寝ていたのである。ひげクマくんのぬいぐるみさえなければ、なんとか無理やりにでも一緒に寝れたかもしれないが………。
どうやらまといの方は、いかがわしい方の行為をする気はいっさいなく、ただ単純に一緒に寝たかっただけのようだ。
なんというか、こう考え方の違いを見せつけられると、自分がいかに汚らわしい考えをした人間か、痛いほど思い知らされるというか………。
「まあ……まあいいや。地べたで寝よう」
寂しいとさっきまといが言っていたので、まといの部屋のベッドまで行って代わりにそこで寝るのはためらわれた。だから碧は適当なシーツを床に敷いて、寝る事にしたのだった。