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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第七章 蜃気楼のような人
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よけいなお世話2



 数日後の4月1日。AM9時。



 喫茶店CAMELに、今度は風椿碧がやって来た。

 碧は最近忙しさに追われる日々が続いており、会うのはわりと2週間ぶりくらいである。

 店内にはまだ、他に客はいない。 


 「ヤッホー」


 彼女は相変わらず明るかったが、


 「どうしたん?悩み事でもあるん?」


 「ん?やっぱりわかっちゃう?」


 「あかるく演じていても、声に微妙な震えがあるように聞こえたから…」


 「そっか……じゃあ、わたしはまだまだ女優としての修行が足りないのね」

 

 「それは違うやろ。ここは舞台じゃないんだから、あんたは風椿碧のままでええんよ。明るい完璧人間を演じなくてええ」


 「……そうだね」


 「で、なんで悩んでるん?」


 「まといちゃんと………まといちゃんとケンカしちゃって……」


 「…………碧ちゃんもめったには怒らんけど、あの子もあの子で、よっぽどカンに触らない限りは怒りそうにないけどな?なにがあったん」


 

 とりあえず炭弥は、碧の好きなミルクティーを提供し、話を聞く体勢に入った。

 すると碧はこう事情を話した。



 「まといちゃんのカメラがね、修理不可能なくらいに壊れてダメになっちゃったのよ。まあ、そのカメラ自体は、私は見てはいないんだけど……。で、まといちゃん、いままでにないくらいに落ち込んじゃって……」


 「まあ、高そうなカメラやったし」


 

 その割には、子猫を助ける際には乱暴に放り投げてはいたが、それでもあのカメラは大事だったようだ。



 「でね、そのせいで写真のバイトも出来なくなっちゃって、また派遣のバイトを始めたんだけど、簡単な梱包作業だから大丈夫って言ってたはずなのに、また体壊しちゃって……」


 「まあ、派遣なんてそんなものやろ。簡単なシール貼りの作業ですなんてネットの募集記事に載っていても、フタを開けてみるとそうじゃない。隣の県まで行かされる事もあるしな。だから、仕事場に行くだけでも相当な体力は持っていかれる。交通費も出ないところも多い」


 「だから私………カメラ代を出すって言っちゃったんだよね……。そしたら、よけいな事しないでって怒鳴られちゃった」


 

 炭弥は深いため息をついた。まといが何で怒ったのか、今の言葉で100を理解したからである。

 


 「どっちが悪いとか俺は言うつもりないけど、自立心のある人間にそれを言うたらあかんで。まといちゃんはなるべく自分の力でお金を貯めようとしていた。マンガ喫茶生活を自分に強いてもなお続けてたくらいだから、売春だけには手を染めたくないっていう確固たる意志が存在していたはずや」


 「……つまりは、私はそれに水を差しちゃったってわけか……」


 「でも、碧ちゃんの方が悪いとも限らない。だってまた体調を崩し始めてるんやろ。だから、ケンカする事を恐れないでちゃんと叱ってやらないと、同じことの繰り返しになる」


 「…………そのせいで仲がこじれても?」


 「守りたいんやろ、彼女の事を。だったらそんなよけいな事考えんなや」


 「………………………」

 

 「それに、あの子はそこらへんのバカな女とちゃう。今頃ちゃんと反省してるやろ」


 「…………………うん」


 「なんだったら、俺のところでバイトをさせたっていい。まあ、短時間シフトくらいしか組めへんけど」


 「ホントっ???あっ、でも……それもまたよけいなお世話になっちゃうかも」


 「………なら、俺の方からそれとなく言っとくわ。まあ、断られるかもしれへんけどな」


 「うん、断られたらまあそれは仕方のない事だよ。まといちゃんは誰かに頼るのあんまり好きじゃないしね」


 

 だからこそ放っておけないのである。

 深い事情は知らないが、彼女の背負っている肩の荷があまりにも重そうに見えるから、なるべく目を離したくないと思ってる。

 ケンカもあまりしたくはない。だけど、炭弥の言う通り、時には厳しく言って悟らせないと気づいてくれない事だってある。

 

 「炭弥さん、今日はありがとね。私、信じてみる。この程度でまといちゃんとの関係は終わらないって」


 碧は元気を取り戻し、そして喫茶店CAMELを出て行った。 

 客がひとりもいなくなった店内にて炭弥は1人、こうつぶやいた。





 「…………やれやれ、俺も焼きがまわったな」





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