死の教室
翌日の朝。
大崎望の死を悲しむ者は、この教室内には品川かなめ以外誰もいなかった。
というより、田端翔が死んだ喜びの方が勝っているといった感じで、『田端のせいで大崎は死んだ』と口を揃えて言うだけだった。
大崎と品川かなめはこっそりつきあっていた。
いじめのターゲットが大崎に移ってしまった事もあり、大崎は気を使って、彼女から距離を取ったのである。
でも、それは間違いだった。
もっと早く大崎のために動いていれば、さいあく、彼だけは助かったかもしれない。
そう、彼を殺したのは自分自身でもあり、田端翔のせいでもあり、このクラスメイト達でもあった。
それなのに彼らは、もう終息ムードといった感じで、笑っている者すらいた。
死ね。死ね死ね死ね。
こいつらは人間じゃない。
そう、バケモノである。人間の皮を被った汚い生き物である。
お願いします。フォーカスモンスター様。
どうかこいつらを殺してください。
なんなら私もついでに殺してくれて構わない。
スマホが、軽く振動した。
マナーモードにしていたので着信メロディはならなかったが、『大崎』と画面に表示されていたので、品川かなめはためらわずにそのメールを開いたのだった。
そのメールにはこう書かれてあった。
『今日は3限目に視聴覚室で授業があるはず。時限式で硫化水素が発生するよう仕掛けておいた。前と後ろの出入口の近くと、天井の換気扇の中にもひとつセットしてある。でもお前はその授業には出るな。これはそう、復讐だ。田端が死んでも、うやむやになんてさせない。俺は1人残らず許したりはしない』
大崎望はもう死んだはずである。
いや、もしかしたら彼は幽霊とナッテ、自分の事を見守ってクレているのかもしれナイ。
そうだ、そうに決まっテル。
デナケレバ、死んだもなお、こうしてメールなんて届いタリハしない。
ソウダ、ソウダ。絶対ソウダ。
品川かなめは1時限目の授業が終わってすぐ視聴覚室へと行って、硫化水素爆弾が本当にセットされているかどうか確認した。
するとあった。
ツマリ、アノメールの送信主は、ホントウに大崎くんカラダッタノダ。
品川かなめはニヤリと笑みを浮かべた。
でもすぐに視聴覚室を出た。2限目は別の組の生徒が使う予定だったからである。
すると加賀城密季から品川かなめのスマホに電話がかかってきた。加賀城はよく気がつく人間である。大崎の死を唯一悲しんでいる彼女の事を心配して連絡してきたのだろう。
品川かなめは『お昼に会いたいです』とだけ言って、電話を切った。
「……………………」
これでいい。これでよけいな邪魔は入らない。
自分の教室で2限目を終えた品川かなめは職員室にて担任に『気持ち悪いので保健室で休む』とだけ言って、視聴覚室のカギをこっそり盗んだ。
そして校舎裏で適当に時間をつぶし、3限目の途中の時間を狙って視聴覚室へと近づき、外から、前と後ろの出入り口の鍵をそっと閉めたのだった。