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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第六章 そしてあなたになる
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死の当日 前編

 


 それは今日の朝から始まった。

 田端のスマホに、謎の送信主からメールが届いたのである。



 『お前はもうじきフォーカスモンスターに殺される』



 最初田端は、その文面を見てギョッとした。でもすぐに怒りが湧いた。

 なぜなら、田端のメアドを知っている人間は限られていたからだ。

 クラスメイトのうちの誰かである。


 タチが悪いのは、被害者を1人に絞れる決定的証拠がでないタイプのイタズラだという事。

 それに、昨日はみんな”いつも通り”だった。

 大崎もただただ精神的に参っているといった感じで、こんな事をする心の余裕はないように感じた。


 だが、確実にクラスメイトのうちの誰かではある。

 みんなに動機がある……。

 それに、フォーカスモンスターが自分を殺しに来るなんてありえない。

 だってあの人は、自分を救ってくれたヒーローだからだ。

 

 田端は無理やりそう思い込むようにし、今日もまたいつも通りに家を出たのだが………。

 

 家の前のちょっとした段差には油が塗りたくられていて、田端は足を滑らせ、思いきり尻もちをついてしまった。

 そしてまたスマホが振動する。



 『お前はもうじきフォーカスモンスターに殺される』



 まるで近くで様子を窺っているようなタイミングだったのですぐに起き上がって辺りを見渡したが、誰もいなかった。

 

 「……………」


 これはもう、かわいいイタズラ程度では済まない。

 だって、場合によっては後頭部を打ちつけて死んでいたかもしれないのだから。


 犯人は誰だ?

 わからない。わからない。わからない。

 





 今の時点ではどうする事もできなかったので、田端はそのまま登校したのだった。

 だけど、下駄箱から上履きを取り出してぎょっとした。つま先から靴の裏にかけて、油が塗りたくられていたからである。これでは転びやすくなってしまうではないか。

 だが、これは決定的な証拠だった。

 担任に言えば、犯人を捜してもらえるはずだ。



 と思ったが無駄だった。

 いじめをしている側のお前が何をいうとでも言わんばかりに睨まれ、適当に話を流されて終わってしまった。

 先生なんて頼るべきものではないと再び思い知らされたのだった。

 不良達が生きていたあの頃だって、『そうだね』『大変だったね』『なんとか話してみるよ』というだけで、結局なにも状況は変わったりしなかった。



 

 そして田端は、クラスメイトに対する疑心を抱いたまま教室へと入ったが、みんないつも通りだった。

 クラスメイト達は、例の陰口を録った音声データをネットに流されたくないのに必死で、ニヤニヤと笑みを浮かべながらすり寄ってきた。その際、大崎の席へとすれ違いざまにわざとぶつかったりして、彼に精神的苦痛を味わわせる事を忘れなかった。


 そう、いつも通りだったのだ。


 大崎は、机のうえで両掌を組み、必死に耐えているようだった。

 田端のスマホが振動する。

 

 『お前はクズに成り下がった。もうじきフォーカスモンスターに殺される』


 どうやら、犯人は大崎ではないらしい。

 ならいったい誰かなのか。

 この、ゴマすりに必死な連中のうちの1人なのか。

 

 わからない。みんなやりそうな気がする。

 でも、みんな恐れているはずである。

 フォーカスモンスターと知り合いなのではと疑っているからこそ、今のこの支配体制が構築されたのだ。

 だからこそみんな、手を出してはこない。

 ならいったい誰なのだ。わからない。わからない。


 

 田端は授業中も、その事ばかり考えていた。

 夕桐高校はDランクよりのCランクという事もあってか、100%の勤勉タイプの生徒はなく、みんな適当に先生の話を聞き流したり、スマホをいじったりしていた。


 すると、またスマホが振動した。


 『お前は取返しのつかない罪を犯した。フォーカスモンスターに殺される』


 現在、スマホをいじっているクラスメイトは4人ほどいた。だけど、彼らにはアドレスを教えてはいない。

 もしかして、犯人はこの中にはいない?

 いや、違う。絶対にいるはずである。動機があるのはこの教室内にいる連中しかいないのだから。 

 だけど、ここでもし『お前らの中にいたずらメール流したやついるだろ』なんて言おうものなら、白い目で見られるのは確実である。

 証拠がない以上は言いがかりでしかないのだ。行き過ぎると名誉棄損にまで発展しかねない。そうなっては、この支配体制が終わるどころか、またいじめのターゲットにされかねない。

 

 大丈夫。フォーカスモンスターは自分の元には現れない。

 大丈夫だ。きっと大丈夫。




 いや………本当に大丈夫か?

 


 


 授業が終わり、次の体育の授業のために体育館履きを袋から取り出すと、うっすらと靴底に油が塗られているのに気づいた。

 

 「……………………」


 犯人はやはり、クラスメイトの中の誰かしか考えられなかった。上履きの件もそうである。登校前の時間を狙って塗りたくったに違いない。

 でも、犯人が誰かわからない。


 犯人がわからない以上は、みんなの前で公開処刑もできない。

 いったいどうすればいいのだ。





 誰かが自分を殺そうとしている。

 





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