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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第六章 そしてあなたになる
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3日目前編

 


 3日目の早朝。



 ようやく平熱が安定してきたまといは、目玉焼きを今2人分作っていた。ジュゥといった香ばしい匂いが蓋の閉じたフライパンの隙間から鼻へと通っていく。

 脱衣所の方からは、洗濯機のガタガタという音が現在進行形で聞こえている。


 そんなまといの背中を、碧は眉間にしわを刻みながら眺めていた。

 別にまといの事が嫌いになったからという理由で眉間にしわを寄せているのではない。

 

 実は一昨日、そう、熱さまシートをまといの部屋に届けたあの時に、アレを見てしまったのである。

  

 そう、下チチである。


 ちょうどまといはその時、パジャマのシャツを頭にかぶっている途中だったので、上半分は隠れた状態だった。

 

 でも破壊力は充分ある。

 あと、まといがノーブラで寝るタイプだという事がわかった。さすがにマンガ喫茶暮らし時代の時には、いちいちブラを外して寝たりはしなかっただろうが。


 ラッキースケベという言葉が存在するが、まともな恋愛をしてこなかった身としては、免疫力がない分、心臓がドキドキしてしまって仕方がないのである。

 今でもまだ鮮明に覚えてる。



 「碧さんは今日は夜からだっけ?」

  

 まといは、テーブルのうえに目玉焼きの載った皿を置いた。

  

 「そだよ。バラエティ番組でドラマの番宣があるの。だから夕方頃に出かける。あと、もうすぐまたいそがしくなる。月9でゲスト出演する予定も入ってるし、薔薇の麗人の続編が決まったから」


 

 薔薇の麗人。

 ただの連続殺人ものと思いきや、SFものだった…といった真実が明かされ、続編を匂わせて終わったドラマである。そのため、評価の分だけ批判も出た問題作である。




 「そっか。じゃあ、碧さんには頼めないか」


 「ん、どうしたの」


 「スマホを買おうかなって思って」


 「…………………えっ?」


 「だから、スマホを買おうかなって思って」


 「…………………まといちゃん、ひょっとして、まだ熱ある?」


 「ないけど?そんなにおかしい?私がスマホを持つ事が」

 

 「ううん、そうじゃないの。うん、いいと思うよ。連絡が取りやすくなるわけだし」



 節約の権化だったはずの彼女にいったいどんな心境の変化が訪れたのか気になるところだが、あえて聞かないでおこう。


 まといが言うには、どんなスマホにしていいかわからないから、相談に乗ってほしいそうだ。


 

 「いいよ、夕方までまだまだ充分時間はあるしね。任せて」


 「ほんと?」


 「それにね、初心者が予備知識なしにひとりでケータイショップに飛び込むのは危ない。1980円って書いてあってもね、1980円で済まない事が多い」


 「そっ、そうなんだ……」


 「まあ、コツはね、必要最小限のオプションしかつけない事かな。スマホでしょっちゅう動画を見ない人には、30ギガも必要ないしね」

 

 「私は電話とメールが使えればいいかな。あとは、時々地図アプリとか使えたら」


 「なるほどね、じゃあ、ネットで料金シミュレーションもできるから、格安スマホの方のサイトで見てみようか」


 

 碧はノートパソコンをリビングテーブルの上に置き、格安スマホを売っているサイトをいくつか開いてみた。

 でも、実際に買うのはまといなわけなので一緒にひとつの画面をかなりの至近距離で隣り合って見なければならず、肩と肩が時々触れては、そこから伝わってくる生暖かい感触に、心がかき乱される碧なのであった。



 なんだかんだで1時間、2時間と経過していったが、それでもまだ午前中だったので、スマホのアクセサリを買いに赤橋駅近くの電気量販店まで2人で出かけた。

 もちろんカメラは家に置いて出かけた。特に何かを撮る予定もなかったので…。




 碧によると、スマホの端末はデリケートなので、画面に保護用のフィルムを貼った方がいいらしい。あと、手帳型スマホケースは、スマホ本体を前からも後ろからも保護してくれるので、よりいいそうだ。まあそれでも、壊れる時は壊れてしまうのだが。

 

 でも、保護フィルムひとつだけでも色々と種類があり、まといは早々に目がチカチカしてしまう。

 

 「はいはい、まといちゃん、ちょっと待っててね。こういうのはね、そんなに考え込まなくてもいいの。完璧なものなんて存在しないんだから。はい、これ。私もこれ使ってるよ」



 碧はさっと商品を選び、商品名の書かれたパッケージをまといに渡した。

 まといはそのパッケージを見て、うんうんと首を頷かせるのだった。


 「へえ、これは反射光にも強いタイプなんだね」


 「そう、太陽の光にも強いタイプ。値段も1480円だしこれにしなよ」


 「うん」


 「スマホカバーは何色がいい?」


 「無地でいいけど、色は碧さんが選んで。私、こういうのもすぐに選べないから」


 「じゃあ、青でいいんじゃない。まといちゃんの苗字も蒼だし」


 「うん」


 まといはにっこりと笑みを浮かべ、碧が選んでくれた手帳型スマホケースを受け取り、保護用フィルムと一緒にお会計をした。


 とはいえ、スマホ本体自体はついさっきネットで頼んだあとなので、いま手元にはないが。




 まだ時間は11時過ぎだったが、近くの和食処で昼ご飯を食べる事にした。

 時間帯もあってか客の入りは少なく、奥のテーブル席へと案内された。

 まといは手打ちうどんを頼み、碧はネギトロ丼を頼んだ。


 「まといちゃんはさ、いままで誰かとつきあった事とかあるの?」

 

 「えっ???」


 まといはぎょっとした。 

 ずっと恐れていた女子トーク関連の話題を振られてしまったからである。

 女子トーク関連はやはり苦手だ。だって、ここで『別に…』の一言で済ませようものなら、興ざめする女子だっているはずだからである。彼女達が期待するようなエピソードをひとつでも持っていなければ、つまらない女認定される事だってある。場合によってはグループから外される事も………。


 いや、もうやめよう……。碧はそんな人ではない。 


 

 「ないけど……」


 「ほんとっ。ふーん。そうなんだ。じゃあさ、好みのタイプとかはいるの?」


 「………そういうのもあまり考えた事ないかな。それに、イケメンの有名人とかも詳しくはないし」


 「恋愛とかはしたいとは思わないの?」


 「思った事はないよ。今は自分の事でせいいっぱい」


 「そっかー。そうだよね。じゃあ、イケメンが近づいても、まといちゃんはときめかないんだね」


 「ごめんね、面白い恋愛エピソードとか持ってなくて」


 「えっ。別に謝らなくていいよ。というより私も誰ともつきあった事ないから」


 「えっ!!!元カレが100人くらいいそうな見た目なのに???」


 「………あの、まといちゃんさ………私の事なんだと思ってるの?」


 「えっ、私と違って人生経験豊富な完璧人間かと……」


 「はっはっは。そんな馬鹿な事あるわけないじゃん。私もイケメンとかには興味ないし、合コンとかもしないしね。あと家でのんびりしてる方が好きだったりする」


 「そうなんだ」


 「そうだ。ゲーム機買って、休みの日とか家でパーティーゲームとか一緒にしようよ。1人でやるのは寂しいから据え置き機とかは今まで買わなかったけれど、きっと楽しいよ」


 「いいの?ゲームとか好きなの?」


 「するよ。まといちゃんはどう」


 「うん、好き。レースゲームとか昔してた。親友と一緒に」


 「じゃあ、お昼を食べ終わったら買いに行こうか。ソフト選びとかしよう」


 

 という事で、お昼ご飯を食べ終わってすぐに2人は、家電量販店のゲーム売り場の階へと移動したのだった。





 レジには行列ができていた。

 どうやら今日は、人気ゲームの発売日らしい。

 整理券を片手に、色んな年代の人達がうれしそうな顔をしている。

 その中には中学、高校生くらいの制服を着た男子もいた。

 でも今は平日の木曜日である。まだまだ授業がある時間帯だ。

 


 「どうしたの、まといちゃん。ああ、行列ができてるね。数量限定特典もついてるらしいから、転売屋の人もいるかもしれないね。ゲームの中でしか使えないアイテムのシリアルコードもついてるっぽいし。でもRPGだし私達には関係ないか」


 「うん………」


 「ん?あの男の子が気になるの?まといちゃんのタイプなの?」


 「……違うよ。ただ、妙だなって思って………。だって、欲しいゲームのために並んでいるはずなのに、思いつめてる表情をしてる」


 「そう?行列にイライラしてるだけじゃないの?」


 「そうだと……いいんだけどね」



 これはもう、根拠のない予感のようなものである。

 カメラさえ持っていなければ、不幸な運命の人に引き寄せられる事もないと思っていたのに、胸騒ぎを感じるのである。

 

 だけど、この男の子に関わっている心の余裕はない。

 風椿碧を狙う存在について、まだ何もわかっていないのである。


 

 これ以上のトラブルは抱え込むべきではなかった。





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