2日目中編
朝の10時。
加賀城は精神科警課フロアの自分の席にて、パソコンのキーボードを叩きながらデータを整理していた。
加賀城の活躍により、フォーカスモンスターの代弁者6名の件は解決こそはしたが、フォーカスモンスターを支持する人の数は減らない。
月曜日の午後には、悪質動画配信者5名が無人大型トラックによって無残にもひき殺されている。
このトラックの実際の運転手は薬物使用の常習者で、数年前にも、エンジンをかけっぱなしのままコンビニに酒を買いに行ったりして、ガードレールにトラックを突っ込ませている。
つまりは、たまたま不運が重なってこの5名はトラックの餌食になってしまったわけだが、ネットではフォーカスモンスターの仕業と騒がれている。
「………………………」
トモイ&アラキ両名からの報告によると、フォーカスモンスターが生きている可能性はやはり、かなり高いらしい。
あの時確実に殺しておけば、少なくともこの5名は死ななかったはずだ。
悪人だから死ぬべきだという考え方の蔓延こそが危険なのである。
実際、この5人が死んで、悲しむ人よりも自業自得と思った人の方が圧倒的だ。
この考え方が定着してしまうと、自分の頭の中の物差しだけで正義か悪か測ろうとする人が日常的にもっと増える事になる。
100%純粋な正義なんて存在しない。
気に入らない相手に対し、徹底的なまでに理由付けをして悪人にしたがる人だって出てくるという意味でもある。
上辺亮もその結果死んだのだ。
はたして彼は100%純粋な悪だったかどうか、聞くまでもない事だろうが……。
やはり直接フォーカスモンスター本人をどうにかしないといけない。
それに、警察庁爆破の件を機に、用心すべき事が1つ判明した。
警察庁の最上階で亡くなったのは、加賀城にフォーカスモンスターの殺害を依頼してきたあの彼ら達だったのである。現在意識不明で死の淵を彷徨っている者もその中に含まれていた。
しかし、このテロの犯人はフォーカスモンスターではないはずだ。
なぜなら、カメラひとつで地震すら味方につけられる存在に、爆弾という手間は必要ないからである。
そもそも、あのタイミングでターゲット達が最上階にいる事を把握できていないと犯行は無理だ。
はたして、警察関係者以外の人間に、ここまでの事が出来るのか……。
つまり、フォーカスモンスター以外にも最低でも1人以上、この件に関わっている人間がいる。
だとしたら、この件は少し後回しにした方がいい。
内通者が誰かによっては、こちらの行動を簡単に把握されるケースもあり得る。
テロはとりあえず、公安の人間に一任した方がいいだろう。
なら、郷田六郎の件を調べるべきか否かについて。
郷田六郎のせいで御影テンマの花屋がなくなってしまったわけだが、この件も少しやっかいな部分があった。
どうやってあの場所で火事が起きたかについてはこの際もう右に置いておくとして、郷田六郎が死ぬ前に取ったある行動について放置されたままだ。
そう、郷田六郎は死ぬ直前、電話をかけている。
そして、児童養護施設跡前で亡くなった男子高校生の友達数名がいまだに行方不明のままである。
フォーカスモンスターの仕業なら、どこかで事故に遭い、もうすでに死んでいるはずだ。
それならなぜ、死体すらあがってきていないのか。
センシビリティ・アタッカーの力で残留思念を捉える事ができたなら、そこから推理して、あるいは見つける事はできたかもしれないが………。
直江寺からやって来た住職のせいで、すべてかき消されてしまっている。
故意でないのなら、この住職に1度くぎを刺しておくべきかもしれないが、故意でやっていたのだとしたら、直江寺を訪れるとよけいにこじれる可能性がある。
センシビリティ・アタッカーの能力は、この住職とは非常に相性が悪い。
同じ理由で、児童養護施設跡周辺を嗅ぎまわるのはしばらくやめておいた方がいい。あそこがいまだに取り壊されていない事を考えると、27人もの人間が死んでもなお、土地の権利を所持している者がいるという事にもなるが、現時点でもその人物についての情報は入ってきていないので、背後に、権力を持った別の人間がいるはずである。
警察庁爆破の件で、より一層その権力者は、警戒を強めるはずだ。
時とタイミングを考えて動かないと、右に行こうが左へ動こうが、真実にたどり着く前に道は閉ざされてしまう。
1番理想なのは、フォーカスモンスターのみが関わっているとされる事件を、さりげなく調査する事である。
上辺美鈴はまだ話が聞ける状態ではないし、あの時、あの噴水の近くにいた野次馬達は上辺亮の遺体の写真を撮るのに必死で、不審者がいたという話は出てきていない。
それならば、あの動画配信者5名についてか。
それとも、コンドウ・ルイの件についてか………。