2日目前編
今、取調室には4人の人間がいる。
キツネ目の男が1人と、やたら眼光の鋭い男がもう1人。そして、そんな彼らに取り調べされている男がもう1人いる。あと何気に、隅の方のパイプ椅子に腰をかけている男がもう1人いる。
取調室の全面可視化が義務付けられてからというもの、自白の強要を避けるため、表向きは録音録画が徹底しているように見せているが、まだまだ警察組織の古い体質は存在する。
それを空気で感じ取っているからなのか、取り調べを受けている方の男は、もう完全に怯え切っていた。
特に、今彼の目の前にいるこのキツネ目の男がやたらと怖いのである。
陽気な顔のようでいて、能面のようなねっとりとした得体のしれない不気味さがあった。
糸目に見えるが、かすかに開いた瞳が、こちらを捉えて放そうとしない。
暴行は受けてはいない。だがこのままでは、暴行よりも恐ろしいナニかが降りかかるような気がした。
このキツネ目の男の名は友井仲道という。
やたらと眼光の鋭い男の方は荒木優吾という。
トモイはニッコリと笑みを浮かべながら、目の前の男に対しこう言った。
「とにかくね、君の家から、警察庁を爆破したモノと同じタイプの爆弾がでてきちゃってるのよ」
「知りません。信じてください。お願いします………」
「上辺亮を殺した時は、あんなにイキってたはずなのにねぇ。どうしたものかねぇ」
「知りません………。俺達じゃないんです…………」
「逮捕されたとたんに、罪を軽くしようと弁護士と結託して必死になるだなんてねぇ。拍子抜けしちゃうよねぇ」
「お願いします………。俺達が殺したのはたった1人なんです」
「だ・か・ら?1人だろうが4人だろうが、罪の重さはおんなじだろ。まあ、意識不明の重傷者があと何名かいるから、もっと死者は増えるかもしれないけど」
「それでも俺達じゃないんです………俺達はただ、この腐った世の中を変えようとしてただけで………」
「はいはい。しゃらくせえ。しゃらくせえよ。自分の頭の中にしかない短い物差しでしか正義を測れない人間って、ほんとゴミだな」
「おい、トモイ。言葉が過ぎるぞ」
アラキはトモイに対し、睨みを利かせる。
「はいはい。どーもすみません。まあ本当に知らないみたいだし、もういいわ」
トモイは取調室を退室した。
アラキも後を追うようにして退室する。
廊下には今、誰もいない。
「おい、トモイ。取調室は録音、録画してあるって言ったよな?」
「ああ、聞いたよ。でもいざとなったらもみ消せるだろ。今は特に緊急事態なんだし」
「それだと、お前が大っ嫌いなあの連中達とおんなじになっちまうぞ?」
「………それは仕方のない事だと思うよ。正攻法で出来る事は限られてる。100%純粋な正義なんてないんだよ」
「だがな……」
「事はそう単純じゃないんだよ。時とタイミングを1ミリでも違えばもっと人が死ぬ。その中には密季嬢だって含まれているかもしれない」
「だけどお前は密季嬢には信頼されてない」
「知ってるよ。密季嬢の能力には大きな弱点があるしね。彼女の力では、殺意なき殺人は予知できない」
「たとえば………お前とか?」
「どーだかね」
廊下の奥から人がやって来たので、トモイは軽く笑みだけ浮かべて、アラキのもとから去った。