表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第六章 そしてあなたになる
70/487

1日目前編



 風椿碧が赤橋駅のホームに降り立ったのは、夜の20時過ぎだった。


 本当ならもっと早い時間には着けた。

 でも、急に妹に会いに行かなければならない用事ができたので、埼玉でいったん特急列車を出て別の電車に乗ったのである。


  

 用事の方は1時間もしないうちに済んだ。

 相変わらず妹の、こちらを見る目つきはドロドロとしていたが……。

 

 「……はあ」


 風椿碧は深いため息をついた。

 赤橋駅を東口から出ると、背の高い家電量販店の壁面に埋め込まれた大きなテレビにて、警察庁の最上階が爆破されたというニュースが流れていた。

 怪我をしたのは20人ほどらしい。正確な人数については現在確認調査中である。

 爆発のせいで最上階の床が抜け、そのせいで両足を折ってしまった人もいるそうだ。

 

 確実に死んだのは3名である。

 この事件が起こったのは14時47分らしいが、現時点においても、その死亡者の名前についてはニュース上では1度も流れていないそうだ。


 

 いずれにせよ、これはテロである。



 この事件をきっかけに治安が崩壊するような事になれば、対岸の火事として物事を見がちな人間であっても、日本にいる限り、無関心ではいられないだろう。

 その証拠に、近くでニュースを見ていた通行人達は、いつもとは違うざわつきを見せていた。

 


 碧はタクシー乗り場へと向かった。

 警察庁の件についてはこれからも不安は続くだろうが、碧を含め、ただの一般人にはどうする事もできない。解決はすべて警察に任せ、何も変わらぬ毎日を送るしかないのだ。


 

 碧は足を止めなかった。

 遠くの方で、ちょうど客待ちをしていたタクシーが見えたのでそれに乗ろうと歩く速度を速めた。


 「ん?」


 でも、寸でのところで碧は足を止め、体を130度別の方向へと素早く向けた。


 少し離れたところに、不気味なローブを身にまとったいつぞやの占い師がこちらを見ている。

 碧は占い師の元へと歩いていった。


 「……………………」



 そう、以前、運命の人について碧が占ってもらったあの占い師である。

 もう2度と会えないものだと思っていた。

 まあでも、よくよく考えたら、この人が幽霊だったとしても、あんな不吉な事だけ言い残して成仏だなんておかしい話なので、まだ現世に未練があるのかもしれないが。



 「ねえ占い師さん。私の運命の人って……まといちゃんの事だよね。タイミング的に考えても彼女以外に思い当たらない」


 「……………………」


 「じゃあさ、不幸にならないように私が努力すれば、恋が実る未来だって………」



 

  

 




 「あなたに未来なんてない………」






 

 占い師が言い放ったその言葉は、碧のポジティブな考え方の介入をいっさい許さないくらいに、とても乾ききっていた。

 さすがにそこまで言われてしまうと、愛想笑いもできそうにない。



 「どうして?どうしてそんな事を言うの?」


 「……だって、進んでしまった人間関係はいまさらなかった事にはできないから。蒼野まといの事を忘れろって言っても、あなたは忘れないでしょ?」


 「……あなたは彼女の何を知っているの?」


 「すべては知らない。でも、ろくな事にならないのだけは知ってる……」


 「…………それは、私の今の問いに対する正確な答えにはなってない。私はね、彼女とは友達になったの。あの子はまだまだ完全には体が回復してない。それなのに今、家から放り出したらどうなるか。あの子はね、誰かがちゃんと近くで見ていないとダメなんだよ」


 「……この世界には野垂れ死んでる人なんてたくさんいる。彼女1人が死んだところで、それがなに?」


 「あなたには………人の心ってものがないの?」


 「…………人の心ってそんなに重要?しょせんはみんな、自分勝手に生きてる。表面上はまっとうな人間を演じていても、人の非はやたらと攻め立てるクセに、自分の事になるととたんに甘くなる。人の心ってその程度の価値しかない」


 「だったら、その程度でしかない私の事なんて放っておけばいいんじゃないの?」


 「私はその選択肢だけは絶対に選ばない。あなたにどう思われようとも」


 「それはなぜ?」


 「…………私は、必要最小限の事しか言えない。よけいにこじれるくらいならね」





 そしてその占い師は風椿碧のもとから去っていった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ