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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第一章 はじまり
7/487

ミチルとワカコ5



 1



 次の日。珍しく朝早く登校したミチルは、ワカコを廊下の隅の方で見かけた。

 彼女のとなりには男子生徒がいた。

 さらに、その男子生徒は、ワカコを校舎裏へと連れて行こうとしていた。


 ワカコがモテているのは知っていた。別にそれはいいのである。

 でも、たまに逆上する男子もいるので、少し心配だった。

 だからミチルは、校舎裏までこっそりついていった。そして……。



 「ワカコさん、好きです」


 

 相手の男子はかなりのイケメンだった。

 でもワカコはその告白を断った。



 「いまは受験勉強に集中したいの」



 でも、その男子生徒は食い下がる。 



 「なら、受験が終わってからでいいです。僕の気持ちは本物です」



 まあ…………、そう言いたくなる気持ちもわからなくはない。

 でも、ワカコにその気があるのだったら、受験勉強があろうがなかろうが関係ないわけで、当たり障りなく断りたいという気持ちを察してあげられるかどうかである。


 案の定、ワカコはほんの少しだけ煩わしそうな表情をした。

 それでも声を荒げたりはしないのは、別に相手に対して敵意を持っているわけではないし、なるべく傷つけたくはないと思っているからである。


 でも、ワカコは覚悟した。傷つけなければ自分の気持ちを通せないことだってあるから。


 

 「恋って、将来のためになります?」


 

 「えっ?」



 「1か月で別れる人だっているし、3年もったとしても結局別れてしまったら、時間は無駄なわけでしょ。だったら堅実な将来を築くために勉強を優先した方が価値があると思うんです」



 「いや……えっと、でも、一緒に映画とかライブとかに行くの、楽しいよ」



 「そういうのも将来のためにはならないと私は思います。将来のためにならないライブとかにチケット代費やすのも無駄だと思うし……」




 「………………」



 「だから、本当にごめんなさい」




 将来のためにはならない。

 その言葉は、物陰に隠れていたミチルに深く突き刺さった。

 それがワカコの本当の気持ちだというのなら尊重したいとは思うが、芸能界デビューは自分の夢でもあったので、冷静でいられることができず、ミチルはその場を離れた。


 すると、校舎へと入ったところでルイと遭遇した。

 ルイはやたらとニヤニヤとしていた。

 もしもミチ&ワカが解散なんて事になったら、彼女に渡していた製作費も打ち切りとなってしまうわけだが。



 「おっ、ミチル。もしかしてあなた、ワカコちゃんの告白シーン覗き見してたとか?」

 


 「まあ、そんなところかな」



 「これで何人目フッタのかな。てゆうか、ワカコちゃんの男の好みが知りたい。だって、ことごとくイケメンが玉砕されてるわけよ。ミステリーじゃん。もしかしてオジサマ好きとか?」



 「ワカコも気の毒だと思うよ。ワカコはまだ、恋愛に興味を持つ時期じゃなかっただけなんだよ。それなのに、相手の事をフリ続けなければいけないでしょ?そういうのも結構ストレスだと思う。それに、ほかの女子からの(ねた)(そね)みも微妙にあるしね。ワカコは悪くないんだよ」



 「ふうん、ミチルはできた親友なんだね」



 

 そうだ。そうなのだ。

 なにも迷う必要なんてないのだ。

 親友が悩んでいるのに、続ける必要がどこにあるのか。




 「ルイ、ありがとね。ようやく決意したわ、私」


 

 「えっ、なになに、どういうこと?」



 よし、だったらなるべく早い方がいい。家に帰ったらさっそく電話してみよう。




 

 2



 夕方、ワカコの家に電話がかかってくる。

 ミチルからの電話だ。

 


 「もしもしミチル、どうしたの?」


 『もう大学受験の年じゃない? だから、大切な話があるんだけど』


 「わかりやすい参考書、教えてあげようか?」


 『ミチ&ワカの活動についてなんだけどね……』



 グサリ。

 ワカコの心に、重たい石のようなものが圧し掛かった。

 ついに見限られる時が来たのかと思った。

 でも違った。



 『あえて夢を叶えないのもありなんじゃないかなって思った』



 「えっ?」



 『楽しかった。でもね、このまま行けば、ワカコは不特定多数の人達の前に晒される事になる。私の親友がストレスにさらされる事になるのよ』



 「それってつまり……解散って事? ミチルはほかの人と組むの?」



 『それもしないかな』



 「なんで?」



 『……教えない』



 「ちょ、ちょっと待ってよ。私頑張るからさ」



 『無理しないでいいんだよ?』



 「違うの。ねえ、違うんだよ。そうだ、いまから面と向かって話そう?いつものファミレスでいいよね?私待ってるからっ」



 『………………………』



 「お願いっ。私まだ本当の事、ミチルに言ってないっ。だから……」




 このままでいいわけがなかった。

 ミチルの、歌に対する情熱は知っている。だから、かわりのボーカルを探すつもりすらないだなんて、そんなの納得できるはずがなかった。

 

 するとミチルは、ワカコに対し、こう言った。



 『………わかった。そうだね。そうしようか。あそこのファミレス、パスモも使えるしね』



 「よかった、じゃあ電話切るからね」





 

 ワカコは安堵のため息をついた。


 

 そう、こんな事、いいわけがないのである。

 自分のせいで彼女の夢が終わる事だけは、あってはならないのだ。

 親友を不幸になんてしたくはないのだから。


 

 だからワカコは家を急いで出た。

 空は、オレンジ色がすっかりと退いてしまっていて夜になりつつあったが、気にせずファミレスを目指したのだった。



 途中、カメラを持った女性とぶつかったが、ワカコは気にせず先を目指した。



 そして…………。



 




 彼女は死んだ……。






 遺体が発見されたのは深夜1時すぎだったので、彼女の両親は深夜2時頃に、その悲報を聞く事になった。

 その悲報を聞いて母親の方は、滝のように涙を流したが、父親の方は必死に怒りを堪え、自分がしっかりしなければといった感じで、刑事の話に耳を傾けていた。



 事件の詳細については以下の通りである。 


 夜、彼女は、友達に会いに行くと言って上着を着て家を出たわけだが、犯人に待ち伏せされていたらしく、かなり遠い場所まで逃げて物陰に隠れたが、ナイフでめった刺しにされた。

 惨いことに、彼女が遺体になったあとも、犯人はその体を残酷に辱めたとみられる。



 死亡推定時刻は19時から20時。



 遺体の発見が遅れたのは、時間帯が夜だったので、見えにくかったためだ。

 でも地面には点々と血の跡があったので、ようやくそれに気づいた第一発見者が、彼女の遺体を発見した。



 犯人はすぐに捕まった。

 刑事が取調室にて犯行動機について聞くと、犯人はこう供述した。




 『ワカ様に会いたかったから』



 現場には彼女のものと思われる遺留品が何もなかった。でも、彼女の両親の話によると、彼女は自宅を出る際、スマホと、パスモ。USB型ウォークマンを、上着のポケットに入れていたそうだ。


 でも、犯人のポケットからは、USB型ウォークマンしかでてこなかった。

 まさか、逃げる途中で、2つも持ち物を偶然落としたとでもいうのだろうか。


 そもそもの謎は、近所の人達の誰も、彼女の『悲鳴』を聞いていないのである。それに、家にとんぼ返りすれば、まだ助かる可能性はあっただろうに。





 来栖ミチルは、なぜそれをしなかったのだろうか。



 



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