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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第五章 狭間の狩人
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いつも見ている


 今日は碧が帰ってくる日だ。

 15時以降との事なので、オファーのあった写真の仕事を朝早くに撮り終え、昼からご馳走の下ごしらえを始めた。14時30分にはひと通り終える事ができた。完成したケーキは冷蔵庫に入れてある。


 こんないい部屋にタダで住まわせてもらっている最後のお礼も含め、なんとか形にしたかったのだ。


 明日には、警察に出頭しようと思う。

 もう30人近くは軽く殺しているわけだから、法の下に裁かれ、刑務所で一生を終える事になれば、上辺美鈴の件のようなしわ寄せをこれ以上出さなくて済む。

 お墓は人数分作ってあげたかったが、もう仕方がない。

 お金はそれなりには貯める事ができたので、少し大きめのお墓を買って、そこにみんなで入ってもらうしかない。宗政にはすでに話はつけてある。窮屈な思いをさせてしまう事にはなるが、自分の犯した罪をなかった事にしてまで続ける気にはもうなれなかった。


 突然、流しに置いていたガラスのコップがひとりでに割れた。



 「怒ってるの?サラ………」


 

 まといは眉間に深くしわを刻んだ。

 すると電話がかかってくる。

 非通知だったのでそのまま取らずに放っておいたら1度切れたのだが、1分もしないうちにまたかかってきた。

 今度は、まといの担当医からの電話番号だった。


 それでもまといは少しだけ取るのをためらった。

 心療内科に通うようまた勧められるのはいやだし、警察へ出頭すると決めたので、この電話を取る意味はなかった。


 すると今度は、いつも写真の仕事をくれる別の方の漫画家さんから電話がかかってきた。


 「………………………」


 ここに来てようやく、まといは得体のしれない何かを感じ取ったのだった。

 偶然は時に、どんなにパーセンテージが低かろうが重なってしまうものだが、こう立て続けに来られると、何者かの意志があるような気がしてならなかった。


 だからまといは電話を取った。できればこれがただの偶然である事を願いながら……。

 


 「………もしもし」


 「…………………」


 「………写真の仕事なら、もう受けません。諸事情でもう2度としないと決めましたから」


 「………………そうか」



 不安的中。その声はボイスチェンジャーが使われており、低いくぐもった声をしていた。

 だとすると、さきほどの担当医からの電話も、この人物の可能性が出てくる。どうやってあの電話番号を使えたかは謎だが。

 この謎の人物はさらに、まといにこんな事を言ってくる。



 

 「…………私はお前の心のうちは知らない。だから、写真の仕事とやらを2度としないにしろ、素知らぬ顔でこれからもこの表の世界で生き続けていくつもりなら、別になんだって構わない。だが、自ら命を絶ったり、警察に出頭するのだけはやめてもらいたい」


 「……………なぜあなたにそんな事を強要されなければならないんですか?」


 「立場をわきまえろ。お前には事情を聞く権利はない」


 「ならあなたにも、私にそんな事をさせる権利はないんじゃないんですか?」


 「蕪山を巻き込んだくせに、なにをいまさら………」


 

 まといは眉間に深くしわを刻んだ。



 「つまりあなたは、私と蕪山さんとの関係を知っている…という事ですね」


 「………………………」


 「もしかして殺したのはあなたですか?」


 「…………答えるつもりはない。だが、目的のためなら誰であろうと殺すのはためらわない。そう、たとえば、風椿碧とか……」


 「…………………………」


 「今から、警察庁の最上階から花火を打ち上げる。あんたがいつも使ってるパソコンを開いてみろ」


 「………………………」


 

 

 この謎の人物の指示通りに動くのは癪に感じたが、まといは言われたとおりパソコンを開いた。

 すると、デスクトップが表示されるとともに自動的にメディアプレイヤーが開いて、警察庁の建物が映ったライブ動画が始まったのだった

 だがすぐに、画面がはげしく縦に、そして横に何度も揺れた。

 

 

 同時に、警察庁の最上階の一部が大きく爆発した。



 オレンジ色の爆発とともにコンクリートの破片が降り注ぎ、地面へと衝突して、2つ、4つへとその破片は細かく砕け、四方八方へとバウンドしていく。

 画面上には、警察庁付近を歩いていた通行人が映ってはいなかった。しかし画面外から、パソコンのスピーカーを通して、叫び声が幾重にも重なって聞こえた。

 

 まといは眉間のしわをさらに深く刻んだ。



 

 「…………どうだ。俺の本気がわかっただろ?」


 「花火を打ち上げたいんだったら、勝手に自分の庭で打ち上げてればいいじゃないですか。誰かを巻き込む必要なんてない」


 「巻き込んではいないさ。その画面には映ってはいないが、警察庁の下で叫んでる通行人達はただ単に驚いて声をあげただけ。無傷だよ。まあ、最上階のフロアにいたヤツラは確実に死んだだろうけど」


 「これを私に見せてどうしろと?」


 「風椿碧が爆死する可能性もあるとアンタに示しただけだ。まあ、狙撃しても構わないけれど……」


 「彼女は関係ない」


 「そんなのどうでもいい。ようは、アンタが俺の要求に従うかどうかだ」


 「……………………」


 「自殺も許さないし、警察に出頭する事も認めない。従わなければ彼女を殺す。そう、必ずね」


 「……………………」


 「おれはいつだってアンタを見ている。せいぜい普通の人生を楽しめよ。じゃあな」





 そこで電話は切れたのだった。

 

 

 


 

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