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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第四章 死ぬべき基準
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自分が招いた種


 夜。


 上辺美鈴は警察の事情聴取からようやく解放され、1人、心あらずの状態のままアパートの一室に帰宅した。


 美鈴の両親は高校卒業と同時に死んでしまった。そしてその直後に美鈴は重い病気を患ってしまったのである。

 美鈴の兄は、その時にはすでに社会人として働いていた。給料もそれなりに出る企業に勤めていたので、何とか手術代を払える事ができたのだ。



 そんな優しい兄が、何故殺されてしまったのか。



 コンコン。



 玄関の扉を叩く音がした。

 

 「…………………」


 重たい扉を開けると、蒼野まといの姿がそこにあった。

 美鈴はまといを中へと招いてから、ちゃぶ台の近くへと座った。


 まといは、ここまで来てみたはいいが、美鈴にかける言葉を持っていなかった。

 

 だって彼女は、ついに1人ぼっちになってしまったから。

 取返しなんてつかない。



 「ねえ、蒼野さん…………」



 美鈴は、床に落ちていたボールペンを拾った。そしてそれをカチカチし、ちゃぶ台の上を思いきりボールペンでギギギ…と引っ掻いたのだった。


 

 「兄貴を殺したの…………絶対アイツ…………」


 「…………………………」


 「実際に殺したのはフォーカスモンスターの代弁者とかいうクソどもだけど、私知ってるんだ。兄貴の事、やたらと悪く言い始めた友達がいた事…………」


 「…………………………」


 「あいつ、色んな人達に兄貴の悪口言ってたの。兄貴を悪者に仕立て上げようとしてたのよ。でも失敗した。皆、兄貴がいい人だってわかってたから、真に受ける人はいなかった」


 「…………………………」


 「そう、そうよ。絶対にそう。それしか考えられない。あいつが、あいつのせいで兄貴は死んだ」


 「…………………………」


 「殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。私は誰の手も借りない。この手で、この手であいつの体を兄貴みたいにボロボロにしてから殺してやる」


 

 美鈴は、ちゃぶ台の上を何度もボールペンで引っ掻き、ボロボロにした。

 彼女の目には確かな殺意が宿っていた。

 

 このままだと本当に彼女は殺人を成し遂げるだろう。


 刑期を終えて出所したところで、彼女に幸せな未来なんてない。

 いや、そもそも、人殺しをしようがしまいが、もう彼女が救われる事なんてないのかもしれないが………。



 まといにはわかっていた。これは自分が招いてしまった事だと。

 フォーカスモンスターの存在が大きくなってしまったせいで、ダークヒーローにあこがれた狂信者が生まれてしまったのだ。

 

 もちろんまといは、自分が今までしてきた事を正しいと思った事は1度だってない。言い訳だってするつもりはない。

 でも、本当の意味では分かっていなかったのかもしれない。

 人殺しはやはり、悲劇しか生まないのだ。

 

 死んだ方がいいと思って殺しても、そこに悪循環が生じ、罪のない人を巻き込んでしまう。



 彼女を不幸にしてしまったのは自分自身。

 もう取返しなんてつかない。



 彼女のためにできる唯一の事と言えば、彼女が立ち直れる奇跡を信じ………………。





 

 彼女の代わりに、あの人を手にかける事くらいしかできない。

 







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