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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十五章 The next life without the focus
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まといが選んだ道


 あの時まといが宗政に何も言えなかったのは、あの場にかけつけたまといの姿を見つけた時の“彼”が、とても救われたような表情を浮かべていたからである。


 

 そう、彼は最初からわかっていたのだ。

 完璧な復讐を成し遂げたところで、その先には(・・・・・)なにもない(・・・・・)のだと。

 あの時まといと加賀城が伯父から宗政の居場所を聞き出せずに、サークルのメンバーのみならずBECKに囚われていた人達が死んだとして、彼の残した爪痕がなんらかの形で世の中の考え方に影響を及ぼしたとしても、復讐に何もかも捧げてしまった彼自身には何も残りはしなかったのは確かだ。


 でも彼はやめる事ができなかった。

 自らの手を汚してでも復讐を成し遂げないと、罪悪感を抱こうともしない人達があまりにも多すぎたから。



 そんな彼に対し、まといは以前こんな事を言ってしまった。



 『誰かを恨んでも何にもならない。どんなに不条理だと感じても、憎しみに身を委ねてしまっては、それこそ、私を信じてくれる友人の想いを、踏みにじってしまう事にもつながるから……』


 あと、彼に対し、こんな事も言ってしまった。



 『もう2年前の事で、誰の事も恨んだりはしない。憎しみよりも大切なモノがあるって気づいたから』

 


 そのまといの言葉を聞いて宗政は、あの時どんな気持ちを抱いたのか。



 大切な人の想いをこれ以上踏みにじりたくなくて復讐からも憎しみからも決別したはずなのに、結局自分の事で頭がいっぱいで、彼の苦しみや心の内を考えてやろうともしなかった。


 いつも、彼には頼ってばかりだった。


 

 だからこそBECKのあの部屋にかけつけたあの時、彼にはなにも言えなかったのだ。

 あまりにも気づくのが遅すぎた自分に対し、彼はいっさい不満も抱かず、満足した表情を浮かべていたから、もうしわけない気持ちで胸がいっぱいになってしまったのだ。


 彼が、マドカの恰好ではなく宗政の恰好でいたのも、そういう気持ちがあったからかもしれない。

 復讐の鬼と化してしまったマドカとしての顔を、見せたくはなかったのかもしれない。

 最後まで蒼野まといの友人でいたかったのかもしれない。



 彼には………なにもしてあげられなかったというのに…………。




 だからこそひとりで日本を出たのだ。もっと孤独でいるべきだと思ったからだ。

 碧がまだ伯父と一緒に病院にいるうちに荷物を全部手にし、空港へと向かった。



 「どこに行くんですか?」



 すると、搭乗ゲートへと向かう途中で後ろから加賀城に話しかけられる。


 まといは足を止め、後ろを振り返った。



 「加賀城さん………」


 「あっ、引き留めるつもりはありません。ただ、あなたにはまだ言いたい事があって」


 

 加賀城は首に応急処置を施されてはいたが、顔色が悪かった。

 止血剤を事前に呑んでいたとはいえ、いいかげんもう病院に行くべきだったが、それを後回しにしてでも、いったいまといに何を言いたいのか……。



 「私1度、トンネルの中であなたを撃ちましたよね。たぶんあの時も、無意識ではありますが、罪悪感と向き合うのがいやで、わざと急所を外したのだと思います」


 「…………そうですか……」


 「でも、それに関しては、正解かどうかは私にはわからないんです。あなたを生かした事で死んでしまった命はあるけれど、救われた命も決して少なくはないから……」


 「……………………………」


 「早々に悪人だと決めつけ、切り捨てる事はできるけれど、あなたのように自身の罪と向き合おうとする人もいる。それならば、やっぱり、殺すよりも生きて罪は償わせたい」


 「……………………………」


 「だから…………償いの意味(・・・・・)をはき違えないでくださいね」


 「えっ?」


 「たしかにあなたは苦しむべきです。しかし、足踏みばかりで前へと進めないようなら、結局どこへいようが、それは決して償いになんてならないって事です」


 「…………………」


 「青空のもとでこれからも生活を続ける以上は、どんなに逃げようとしても、人と人との縁はどこまでもあなたにつきまとうでしょう。あなたを慕う者だって現れるはずです。だから、時にはちゃんと周りにも目を向けないと、あなたはきっと後悔する」


 「…………………」


 「だから、罪を償うだけではなく、そんな人達の“心”も守れるような人間になってください」


 「………こころ…………」


 「おそらく直江宗政は、あなたにはそれができるとわかっていたからこそ、自分だけ身代わりになったのだと思います」


 「………………………」


 「そして彼はきっと、知りたいんだと思います。復讐を途中で“放り投げた”者が、いったいどんな未来を掴むのか」


 「………………………」


 「それではごきげんよう」



 加賀城はまといのもとから去っていった。





 そしてまといは飛行機に乗ってスペインへと渡った。

 ボランティアに参加しながら、これから自分が何をすべきなのか探そうとしていたちょうどその頃に、いかつい男達に絡まれているサーシャと出会ったのだった。


 彼女はスペインに出稼ぎに来ていた。

 肌は褐色だったが顔つきは日本人寄りの金髪の女性だった。

 でも、生まれはアフリカ大陸出身といった変わった子でもあった。


 スペインに出稼ぎに行かないと故郷に金も食料も送る事ができないうえに、彼女の故郷周辺の治安状態は決して良くはなく、安心して毎日を過ごす事ができないというのが、今の彼女だった。

 彼女と同郷の若者たちも何人かいて、彼らもサーシャ同様に嘆いていた。


 だからこそまといはサーシャ達に提案したのだ。


 その故郷が、平和で豊かな“街”に発展できるための手伝いがしたいと。 

 





 最初は大変だった。

 適当なバリケードを作るのにも、資材運搬のための安全なルートを開拓しなければいけなかったからだ。

 

 なのでまといは、サーシャ達にばれないようにカメラのチカラをこっそりと何度も何度も使い、よからぬ輩が近づけないように奔走したというわけである。



 でもサーシャ達はなんとなく気づいてはいた。

 まといが来てから、不思議なくらいに、故郷周辺で起こっていた紛争が急激に減っていったからだ。

 

 だからこそサーシャ達は心配だった。

 まといが微熱で苦しむ日が、月日を追う毎に週に1回だったのが3.4回と続くようになっていったからだ。 





 そして………。

 まといが日本を発ってから1年経過したある日………。

 

 思わぬ人物がまといのもとへと現れたのだった。



 炭弥だった。



 ベッドで休んでいたまといがふと目を開けると、そこに炭弥がいたのである。



 「………もしかして、ゾンビですか?」

 

 「ひさしぶりに会うたというのに、なんやねん」


 「あなた死んだんじゃ…………」


 「……あのままやと徳川の秘書の眼田が殺されそうやったから、眼田と一緒にとりあえず死ぬ事にしたというわけや。眼田は色々と情報も持っていたから、勿体ないと思うてな」


 「……………そうなんだ………」


 「でも、むりやりあの階からパラシュート使って飛び降りたから、骨がパックリ割れてしもうて。どのみちアンタに連絡なんて無理やった」


 「じゃあ………炭弥さんはこれからどうするつもりなんですか?」


 「俺の復讐はもう終わったから、ほかに何もする予定はないな。でも、喫茶店CAMELは後輩に取られてしもうたから、いまは気ままな1人旅……かな?」


 「…………………」


 「でも、あんたを見てよくわかったよ。結局1人だと限界があるってね」


 「………えっ……」


 「サーシャさんもそうやけど、他の人達もあんたの事心配しとったで」


 「…………………」


 「このままだとあんた、あの時と同じになるで。あの時は碧ちゃんが手を差し伸べてくれたからいいけど、ここにはまだちゃんとした医者がいいひん。取り返しがつかなくなる」


 「…………………」


 「原因はわかっとる。結局は1人で抱え込みすぎちゃってるからこのザマなわけやろ?」


 「でも(・・)……………」


 「でも(・・)って言葉、これ以上は禁止な」


 「………………………………」


 「罪滅ぼしがしたくてここに留まってんやろ?それなのになんやねん?みんなが心配してんのに、あんた、自分の事しか考えてへんな」


 「えっ………」


 「罪滅ぼしのためなら、あんたを慕ってくれている人たちの想いを踏みにじってもええんか?」


 「……………」


 「そうやないやろ?だったらもっと強くならなあかん。自分の罪にばかり目を向けてたら、ずっとその場で足踏みをしたまま、前に進む事だってできやしない」


 「……………」


 「両方できる(・・・・・)くらいに強くなれや、蒼野まとい」


 「…………でも、私1人のチカラなんて、たかが知れてるし」


 「またでも(・・)って言ってる………」


 「あっ、ごめっ…………」


 「1人じゃなにもできないのは当たり前や。俺がこうして生きているのだって、後輩に手を貸してもらったからであって、1人じゃきっと死んでた」


 「……………………」


 「それに……直江宗政だって、だからこそあんたにこうして青空のもとで生きてほしかったんやないのか?」


 「……………………」


 「だから、足踏みはこれ以上するな。足踏みするくらいだったら、やっぱりあんたは誰かを頼った方がええ」


 「……………………」


 「じゃあ、俺はもう行くから」


 「えっ、次はどこに行くんですか?」


 「いいや、どこにもいかん。でも寝る場所がないからテント建てて来る」


 「あっ、そうか。いまからこの町を出ると、夜盗に遭遇して危ないし、その方がいいかもですね」


 「いいや。俺はここにレストランを建てるつもりや。今決めたから」


 「えっ」

 

 「じゃあな」



 そして炭弥は今度こそ出て行ったのだった。


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