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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十五章 The next life without the focus
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終焉と2年前の謎と彼女の答え



 警視総監室から出てきた城士松を待っていたのは、トモイだった。


 まだPMの16時だ。



 「どうしたトモイ?」


 「ねえ、適当な場所でちょっと話さない?」


 「夕食にはまだ早い時間だが」


 「まあいいじゃん。俺達みたいなのは特に、規則正しい生活とは無縁なわけだし…」


 「だが、まだ俺は仕事が残ってる。バーガー1個しか食べんぞ」


 「それで充分だよ♪」


 

 なのでトモイと城士松は仲良くファーストフード店へと入り、期間限定のあぶりチキンバーガーを買って、赤橋署の屋上へと移動した。

 


 「で、何の用だ?」


 「あの明智(・・・・)が逮捕された決め手は、とある証拠が明るみになったからだそうだ」


 「明智。ああ、そんなやつもいたな」


 城士松は深いため息をついた。

 トモイは構わず話を続ける。



 「その決め手となった証拠が、眼田経由から流れてきたとしても、まだ興味ない?」


 「眼田……ああ、徳川の秘書ね…………」


 「な、気になるだろ?」


 「いや、明智がそれで逮捕されたんだったら、それ以上の事は俺には興味ないよ」


 「つれないねぇ」


 「あえて何かを言うとしたらこうだ。直江宗政や右田常信とは違って、テロという手段はとらずに眼田をあえて助けた者がいた。ただそれだけの話だよ」


 「……なら、追う気はないと?」

 

 「追って何になる?遠藤炭弥もまた、円城寺サラを見殺しにしてしまった1人かもしれんが、彼はいままで、誰の事も殺してはいないんだよ。まあ、違法行為は何度もしてきたかもしれないけどね」


 「……………ふうん、寛容だねぇ城士松さんは。じゃあさ、もうひとつの謎(・・・・・・・)についてはどう考えているの?」


 「もうひとつの謎?なんだ?」


 「なんで2年前、加賀城密季が助かったのかについてだよ」


 「…………ああ、それか(・・・)


 「普通、それなりの高さから落ちたら死ぬよね?しかも、あの駐車場ビルの屋上から地上までの高さ、結構あったのに………」


 「……………………………」


 「城士松さんはあの日、あの時、現場に駆けつけたはずだよね?本当はいったい何があったの?」


 「……………1台の大型貨物トラックが停まっていたんだよ。宅配業者でよく見る1番大きなサイズくらいはあったな。でもそのトラックの荷台はボックスタイプではなく、直にモノを置くタイプのむき出しの荷台だった。そして、その荷台には、ブルーシートに包まれた長方形の分厚い“なにか”が積んであったんだよ」


 「その荷台にはいったい何が積んであったの?」


 「マットだよ。救助の時に使われるタイプの大型のね。だからこそ彼女はあの程度の骨折で済んだんだ」


 「なら、そのトラックを運転してきたのは、加賀城密季に好意的な人間って事?」


 「わからない。俺が到着した時にはもうその運転手は姿を消していたからね」


 

 1番疑わしいのは二野前洋子だ。

 彼女は、2年前、駐車場ビルで何が起こったのか知っている風な口ぶりだった。

 

 それにあの時の彼女は、たしかな殺意を城士松へと向けていた。

 

 彼女が何者かいかんによっては、この先の日本はさらなる破滅の一途を辿る可能性すらあった。

 なぜなら、この件での1番の勝ち組は彼女だからである。

 政界や警察組織のトップにこびりついていた“膿”は、近衛孝三郎の功績もあって、ある程度はそぎ落とす事が出来たモノの、二野前派はさらなる勢いを増し続けている。


 これがただの杞憂で終わってくれるのならまだいいが……。



 

 「そういえば城士松さん、近衛孝三郎はどうしているの?」


 「知らん。1度別の病院に再入院したところまでは耳には入っているがな」


 「彼も1度は、王李の罪に目を背けたわけだよね?」


 「ああ、近衛孝三郎が犯した罪は簡単に帳消しになんてならないだろう。だからこそ許斐川警視総監は、これからの日本を支えるという形で彼に罪を償わせようとしている。だから、彼が刑務所に入る事は、あと10年くらいはなさそうだな」


 「城士松さんはそれでいいの?なんかさ、許斐川警視総監は、自分にとって都合の悪いタイプの罪に関しては、結構都合よく目を瞑っちゃっているよね?」


 「……………それが100%正しいとは思わない。しかしそうせざるを得ない時もあるのは確かだ。このまま日本が他国に食いつぶされてしまうくらいならな」


 「………………じゃあ、加賀城密季の選択肢も、100%ではなくても、間違いではなかったと?」


 「蒼野まといまで逮捕していたら、いつかは直江宗政の言う通りになっていたはずだ。もしそんな事になったら、また信奉者が何人も現れ、殺人依頼がSNS上で蔓延していただろう」


 「…………ふうん。しゃらくせえな」


 「たしかに“しゃらくせえ”けど、いつまでも過ぎ去った事に関して考えるよりかは前に進むべきだと俺は思う」


 「…………そう……だね」


 そしてトモイは城士松のもとから去っていった。

 



 城士松が精神科警課へと顔を出すと、加賀城が近寄って来て、城士松の手首を掴んで奥の部屋へと無理やり連れこんだ。


 そして加賀城は、話の途中で誰かが入ってこないように内側からカギもかけた。



 

 「どうした、密季」


 「私もこうして退院したわけですし、あの時の答えを伝えようかなと思って」


 「答え…………ね」


 「ずっと考えていました。そして、あるひとつの答えを見つけました」


 「………で、その答えというのは?」


 「私はアセクシュアルです」


 「は?」


 「恋愛感情を抱けないタイプの人間……という事です」


 「えっ?」


 「あっ、もちろん、あなたには色々と感謝もしてますし、強い絆で繋がっているような(・・・)気もしなくもありません。でも、それとこれとはベツモノです。私はデートにも興味がありませんし、あなたとペアルックしたいとも思いません。海辺で一緒に走りながら、アハハハハと笑い声をあげたいとも思いません」

 

 「えっ……………」


 「なので悪い事は言いません。別の女性と恋愛をした方があなたのためです。私は草葉の陰からあなたの幸せを願う事にします」


 「…………ぇ……」


 「それでは私は仕事に戻りますね。あ、でも、勘違いしないでください。これからも、私とあなたはズッ友です」


 「は?」



 

 そして加賀城はその部屋から出て行ってしまった。


 

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