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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十五章 The next life without the focus
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右田邸の真実2


 7月24日のPM21時過ぎ。福富神子からなんと、まといのもとへと電話がかかってくる。


 まといは慌てて、部屋の外に碧がいないか確認してから通話ボタンをオンにした。




 「もっ………もしもしっ」


 『おひさしぶり…………』


 「よっ、よかった。生きてたんですね」


 『ええ。そしてそれはたぶん……あなたのおかげだと思う』


 「えっ、それはどういう………」


 『あの時あなたに私の写真を撮ってもらったから、本当は死ぬはずだったのに、偶然(・・)が色々と積み重なったって事よ』


 

 でなければ、川の奥から流れてきた不法投棄の家具があんな風に福富神子を避けたりはしないはずだからだ。


 でも、福富神子が死んだ未来も確かに存在していたみたいなので、まといに写真を撮られても100%不死身になるというわけではないらしい。



 「とにかく、福富さんが生きていてくれてよかったです」

 

 『でも、私はこれでリタイアさせてもらう。黒幕はいま、私が死んだものだと思っているはずだから、ことが収まるまでは、もう蒼野さんとは会わないつもり』


 「そうですか…………。でも、その方がいいのかもしれないですね。死ぬよりかは」


 『でも、あなたには特大のお土産(・・・・・・)があるの。あっ、言っておくけど、島根の特産品じゃないから、おいしいものは期待しないでね』


 「えっ………そのお土産ってなんですか?」


 『右田邸の事件の時の、防犯カメラの映像よ………』


 「……………えっ……………」


 『これを見れば、あなたもある程度(・・・・)は真実が見えてくると思うの』


 「それってどういう…………」


 『あの時あなたに、物事を客観的に捉える冷静さがあったならば、そのいくつかの(・・・・・)不審な点(・・・・)に、すぐに気づけていたと思う』


 「えっ」


 『でも、あなたが気づけなかったのは仕方のない事でもある。たとえ私があなたでも、きっと気づかなかったはずだから………』


 「……………………」


 『いや、気づきたくなかった………の間違いかな?』


 「……………………」


 『とにかく、あなたのノートパソコンのほうのメアドに映像を添付して送るわね』


 

 まといは通話状態を持続させたまま、ノートパソコンの電源を入れ、メールアプリを開いた。

 すると見覚えのないアドレスから、件名に『福富です』と書かれた添付付きのメールが届いていた。



 まといはいったんその添付動画をパソコン上にダウンロードしてからマイドキュメントに移動させ、そして視聴をはじめたのだった。




 「………………」



 その動画には、右田邸にいたガードマンの人達がまだ生きていた時の様子や、死ぬ寸前の一部始終が映っていた。


 そのガードマン達がみんな死んだあと、しばらくして、静まり返った廊下へと姿を現した宗政とまといと六文太弥勒。

 彼らは、右田常信に会うために階段へと一直線に歩いていたところで、王李が突然階段の目の前にあった部屋の扉から出てきて、まといはその王李の攻撃を受けて、気を失った。


 気を失った状態のまといを右田常信がウィンチェスターの銃で助け、そして彼女を2階の書斎へと運んだ。



 そのとたん、防犯カメラの映像が暗転し、それ以降、何も映らなくなってしまった。

 たぶんそのあとに、宗政と右田常信が殺されてしまったのだろう。



 そして動画はそこで終了してしまった。



 まといはスマホを手に持ったまま福富神子にこう問いかけた。



 「あっ………あの……これのいったいどこに不審な点が」


 『建物の中にいたガードマンも1人残らず死に、建物の外にいたガードマンもひとり残らず死んでしまった。そう、ほとんど同時刻にね。普通にデジタルカメラを持った状態のまま、外に出るだけでもそれなりの時間はかかってしまうから、特殊な手段を用いて、このガードマン達はほぼいっせいに殺されたという事になる』


 「あっ…………もしかして防犯カメラですか」


 あの加賀城密季も同じ事を言っていた。

 あの時の犯人は、防犯カメラを使ったのではないかと。


 福富神子はさらにこんな事を言った。



 『そういう事。でも、問題はその“手段”ではなく、いつシャッターを切ったかという点よ』


 「私が右田邸の3階にある1番奥の部屋に軟禁されている時に、急に銃声が聞こえたんです。もしかしたら多分その時かもしれません。犯人がシャッター(・・・・・)を押したのは」


 『そしてその犯人は、防犯カメラが取り付けられていない部屋からシャッターを切った。これは間違いないと思う』


 「えっ……じゃあ、この防犯カメラには、シャッターを切った様子が映ってないという事ですか?」


 『そうよ。でも、犯人はもうわかってる。いま、添付付きのメールをもうひとつ送ったから、開いてみて』



 するとすぐに受信メールの欄にもう1件メールが追加された。



 まといはさっそくそのメールをクリックし、添付画像を開いてみた。



 「あっ」



 まといは、その画像に映っている“女性”の顔を見て、思わず声を漏らしてしまった。


 この女性の顔に見覚えがあったからだ。


 夢の中に出てきた、サラに似た“あの女性”にそっくりだった。



 夢だと思っていたのに、そうではなかったという事なのだろうか。

 この彼女があの時自分を、建物の外へと運んだから、あの場所で自分は目を覚ました……のか。



 でも……。



 まといは福富神子にこう言った。



 

 「この映像を見る限りだと、この女性、ガードマン達がまだ生きている時も、どこにも映ってないですよね。たまに40代のメイドさんとか廊下へ出てきたりはしてますけど……」


 『でも確実にいたはずよ。だってこの女性がフォーカスモンスターなのは間違いがないから』


 

 これはいったいどういう事なのか。

 

 防犯カメラを使ってガードマン達を殺したという事は、防犯カメラに触れられる権限を持った人物。


 つまりは、“右田常信の関係者”という事にもなる。それなら、この女性は右田邸ではどういった立ち位置だったのか。



 そして福富神子はまといにこんな事を言った。




 『あとひとり……あなたは疑うべき人間がいるわ』


 「えっ?」


 『なんであの人(・・・)は、あなたを早々に建物の外へと運ばなかったのか……という点について考えるべきだと思う』


 「えっ…………」


 『だっておかしいでしょ?応急処置をしなければならないほどの深い傷をあなたが負っていたとかだったらまだわかる。いったん傷口を塞ぎ、出血の量を抑えないと、せっかく救急車が到着しても手遅れかもしれないしね。でもあの時のあなたは骨すら折れてはいなかった。せいぜい脳震盪の心配があった程度(・・・・・)でしかなかった。だったら、さっさとあなたを病院につれていくか、予定通り、あなたを海外行きの船に乗せた方が、よけいな事にあなたを巻き込まずに済む。でも……あの人はそれをしていない』

 

 「………………」


 『そして直江宗政が死に、右田常信も死んだ。その時にね、誰か(・・)が右田常信の銃を使って発砲したらしいんだけど、かなり大きい銃声だったのに、あなたはこの時点ではまだ目を覚ましてはいないわよね』


 「………ええ。私が目を覚ましたのは建物の外なので」


 『それってつまり、誰か(・・)があなたの耳を塞いでいたか、ノイズキャンセリング付きのヘッドホンをかぶせたか、薬を盛ったかのどれかだと思う』


 「は?」


 神経質な人間も、そうでない人間も、騒音のする場所ではなかなか安眠できないものだ。

 しかしまといは起きなかった。たいして重症でもなかったのに。

 

 そう、大きな音を立てたらまといが起きるかもしれないという可能性も、黒幕はちゃんと考えたはずなのである。


 福富神子はさらにこう言葉を続けた。



 『なんで黒幕がそんな事をしたかという理由については………最小限のリスクで六文太弥勒を殺したかったからなのかもしれないわね。だってあの時、六文太弥勒も拳銃を所持していたから』


 「……………」


 『だからこそいったん、彼をあの部屋から追い出した。そして、あえてまたすぐに発砲し、彼をまたあの部屋へとおびき出そうとした』


 「……………」


 『……………これが右田邸で発生した一部始終についてよ』


 「……………それって………でも………なんで?」


 『理由は簡単。あの人には動機があったから………』


 「……………でも、だとしてもおかしいですよね」


 『そうね。あなたしか生き残ってないわけだしね。でも、いまだにね、どの遺体が誰なのか警察側もすべて把握しきれていないらしいわ』


 「………………」


 『つまりはそういう事よ。だからこそ、ああいう形で事件を起こす必要があったのよ』

 

 「………………」


 『でも、警察もバカばっかりじゃないから、時間はかかっても必ず、どの遺体が誰なのかすべてつきとめるでしょうね。だけど、それだけの時間があれば、もしかしたら、あの人にとって(・・・・・・・)は充分なのかもしれない』


 「………………」


 『気をつけてね。もうそろそろあちら側も、この復讐に終止符を打とうとしているから。たぶん、あなたをいよいよ殺そうとするでしょうね。そうすれば、御影テンマは殺し損ねても、風椿碧を苦しめるのには充分過ぎるはずだから』


 「………………」


 『でも、それはあなたにとってのチャンスでもある。御影テンマを逃してしまった以上、向こう側も、ちゃんとあなたが死んだかどうか絶対に確認しに来ると思うから』


 「…………そう……ですか」


 『あと、今送ったメールを下へとスライドさせると隅っこの方にQRコードがあるから』


 「えっ」



 まといはマウスのホイールの部分をくるくると回し、画面を下へとスライドさせた。

 

 福富神子はQRコードについてこう説明した。


 『そのQRコードをスマホのカメラで撮れば、福神出版へと自由に出入りできるアプリがすぐにインストールされるから、なにか必要なものがあれば、自由に持って行っていいからね。あそこ、そのアプリがないとカギを開ける事ができないから』


 「わかりました………」


 『………頑張ってね。そして答えをぜひいつか聞かせてちょうだい。そう、あなたの考える罪滅ぼしの形とやらをね』



 そして福富神子はそこで電話を切ったのだった。




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