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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十五章 The next life without the focus
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2つの選択肢


 そして再び7月24日。


 タンクローリーによる爆発の被害をまといはフォーカスモンスターの能力を使って最小限(・・・)に留めたのだが、その時の瞬間をよりにもよって加賀城に撮られてしまった。


 だけど加賀城はそれ以上は何も言おうとはせずに、まだ車の中で動けない状態の人達のために救助活動に参加したのだった。


 まといもまた、加賀城と同様に、満足に歩けない人には肩を貸し、出血がひどい人に対しては、自分の衣服を破って包帯代わりにするのを、決してためらわなかった。



 そうこうしているうちに救急車が何台か到着し、緊急な処置が必要な者を優先的に病院へと運び、その場での処置が可能な者に関しては、救命救急士と一緒に救急車から出て来た医者が、その場で処置を施した。


 

 惨事にはなってしまったものの“この程度”で済んだのはまといのおかげだった。



 近くにいた誰かがこんな事を言った。




 「おっ、おかしいよな。俺達何もしてないのに……。でも、これはただの事故じゃないのはたしかなはず」


 「そっ、そうだよ。ただの事故だったら、あんな形で高架線の一部が崩れたりしないはずだしなっ」


 「じゃあ、ここにいる“誰かのせい”で俺たちまで巻き添えを喰らったって事かっ」


 「絶対そうだよ。この近くにきっといるはずなんだよ。フォーカスモンスターにターゲットにされたクズがっ!!」


 「クソっ、なんでそんなクズのせいで俺達までこんなケガを負わなきゃなんねーんだよ」


 「ああ、そうだ。死ぬべきなのはその“クズのみ”のはず。ホント許せねーよな」


 「じゃあさ、いますぐ、この近くにいる連中達の写真をスマホで撮りまくってさ、ネットに晒してみねーか。この中にいる誰かのせいで、俺たちまでケガをしましたってコメントを打つの」


 「ああ、それいいかもしんねーな。そしたら何か情報が集まるかもしんねーし」



 といって、軽いケガで済んだ男のうちの1人がスマホを取り出したところで、遠くからその様子を見ていたつむぎくんが彼のもとへと近づき、そんなことはすべきではないと注意した。



 そしたら男はすぐに逆ギレをしだし、つむぎくんの体を思いきり蹴り飛ばそうとしたのである。



 「うわっ!!」


 でも、横から加賀城が割り込んできて、男が放った蹴りの軌道を片足のみで軽く別の方向へとバシッとはじいてから、今度は片手のみで男の体を後ろ手に拘束したのだった。


 そしてこう言った。



 「モザイクなしでSNSにそんな画像アップしたら、裁判沙汰になってもあなたに勝ち目はありませんよ。というより、自分がされていやな事は、相手にすべきではないと思いますけど?」


 「いつっ、いつつつつつっ」


 「それともあなたは、SNSにモザイクなしで自分の顔写真が他人の手によってアップされても、たいしていやではないんですか?たとえそのせいで、よからぬ輩があなたの家までやって来るようになっても、相手を決して責めたりはしない寛容さを持ち続ける事ができるんですか?」


 「はっ、はなせっ!!」


 「まあ、SNSに他人の写真をアップしようと考えている時点で、あなたには寛容さなんて皆無だとは思いますけどね」


 

 加賀城は男の拘束を解き、軽く、その体を突き飛ばしたのだった。




 「くっ、クソがっ。俺達はなにも悪い事してないのにっ」


 「小学生を今蹴ろうとしてましたよね?それなのにあなたは悪人ではないと?」


 「…………………チッ、言葉狩りの(・・・・・)オンナ(・・・)のクセに、えらそーに」


 

 と、その男は加賀城に対して悪態を吐いたのだが、力で勝てないのはあきらかだったので、その場から去っていったのだった。その男の後を追うようにして別の男もその場から立ち去っていった。



 すると、つむぎくんが後ろの方でボソッとこんな事を言った。



 

 「フォーカスモンスターは悪くないのに…………」


 「えっ」


 

 加賀城はすぐに後ろを振り向き、どういう事なのかとつむぎくんに問いかける。

 


 「えっ?ぼく、いま、変な事でも言ったかな?」


 「言いました。フォーカスモンスターがどうのこうのって」


 「そっ、そうかな………」


 「もしかして………覚えてない(・・・・・)んですか?(・・・・・)



 ありえる。

 たいていの人間は“例の現象”によって、フォーカスモンスターの記憶が頭から抜け落ちてしまったりもする。


 加賀城がかろうじて蒼野まといについて覚えていられるのは、センシビリティ・アタッカーの能力者だからにすぎない。



 だから、いまさっき自分が言った事をつむぎくんが忘れてしまっても、別に不思議でもなんでもなかった。



 だけど、つむぎくんの近くでずっと黙ったままだった彼の同級生の笹島はこんな事を口にした。



 

 「俺もフォーカスモンスターの事はそんなに覚えてないけど、今にして思えば、罪を自覚させたかっただけなのかなって……」


 「というと?」


 「罪悪感に訴えかけて、反省させたかったてきな感じ……」


 「……………」


 「やろうと思えば、俺をもっと早くに殺せたはずなんだよ。でも、あの(・・)フォーカスモンスターはそれをしなかった。それってつまりさ、あの人だけは、俺の中の可能性をちゃんと最後まで信じようとしてくれてたって事だと思う」


 「……………」


 「だから、この惨劇を引き起こしたのは、別の方のフォーカスモンスターなんじゃないかって思うよ。だって、あの人が犯人なら、つむぎまで巻き込もうとは思わないはずだから」



 もう顔はそんなに覚えていないけれど、2度も笹島の元へと現れ、忠告をしてきたのだ。

 そんな優しい人(・・・・)が、無関係な人をこんなにも巻き込んだりはしないはず。


 だからこそつむぎくんもさっき、あんな事を言ったのである。



 「……………………」



 加賀城もそれには気づいていた。

 あの時、加賀城の気配に気づいて後ろを振り向いたまといのあの表情に、殺意なんてひとかけらも感じなかったからだ。


 それはつまり、殺すのが目的ではなく、つむぎくんを含めた複数人の人達を救おうとしてカメラのシャッターボタンを押した事にほかならない。 


 もしかしたらあの時も、美加登を殺す気なんて彼女にはなかったのかもしれない。

 かつての比留間と同じように、何らかの形で制裁を加えようとしてただけの可能性すらある。


 それでも、ただの一般人が自分の頭の中の物差しだけで制裁を加えようと判断してしまったわけだから、許されない事ではある。



 「…………………」



 さっきスマホで撮ったのは画像ではなく動画だ。

 みようによっては、蒼野まといがこの惨事を引き起こしたように判断できるので、大きな切り札にはなるだろう。



 さてどうすべきか?

 こんな卑劣な形で彼女を逮捕したくないという気持ちはあるが、なるべく早くフォーカスモンスターの事件を解決しないと、さらなる事態の悪化を招くのはあきらかだ。



 もうそろそろ、蒼野まといに引導を渡すべきか否かだった。



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