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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第四章 死ぬべき基準
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不穏の拡大2

 


 加賀城は赤橋署を正面玄関から出る。



 その時点ですでにいやな予感はしていた。

 でも、正面玄関にはいつも誰かしら立っているので、逆に近づきにくいと思ったのである。



 そう、目的が殺しの場合は特に………。 



 するとスッと横から、ある人物が近づいてきて加賀城の正面へと立った。

 ポニーテールの背の高い女性である。


 そう、福富神子である。



 「こんにちわ加賀城密季さん。お会いできて光栄です」



 加賀城は片眉をピクリと動かした。

 


 「………………マスコミの人ですか」



 面倒だなと、加賀城は思った。

 彼女がマスコミだからというわけではない。あえてアポを取らずに、人目を気にせず近づいてきたその理由がとても面倒くさそうだった。

 だって、総理大臣と会うのとはわけが違うのである。アポさえとってしまえば、待ち伏せなんてしないで、中で直接話ができるのだ。時間を無駄にしないで済む。でも彼女はそれをしていない。


 今さらながら、裏口から出ていけばよかったと後悔した。




 「で、何の用ですか?こんなところで話をしたくはないのですが」


 「あら、話がスムーズで助かるわ。そうだ、お昼はもう食べた?おごるわよ」


 「……………お任せします」




 とにかく、物陰から誰かが見ていないとも限らない。加賀城は福富神子のあとを追って、とあるキャバクラの個室の中へと移動したのだった。


 その室内は、壁も床も真っ黒で、昼白色(ちゅうはくしょく)の弱めの電球が1つあるだけである。

 


 お昼ご飯をおごってくれるとの事だが、それはお断りした。

 さっさと本題に入ってもらいたかったからだ。

 



 「で、何の用ですか?精神科警課の活動にご興味があるようには見えませんが?」


 「あら、その言い方はあんまりね。芸能人のバカみたいな不倫ニュースよりも1万倍くらいの価値はあると思うけど?」


 「それでも、あなたの目的は別にある」


 「その通り」


 「で、何の用ですか?」


 「………………………」



 福富神子は、ニヤリと笑みを浮かべている。

 用があるのは福富神子の方なのに、何故なかなか本題に入ろうとしないのか。

 それについては、加賀城はこんな事を福富神子に対して言った。



 「………私が墓穴を掘るのを待ってます?」


 「あら、どういう事?」


 「典型的な手ですね。私がもし短気なタイプなら、あなたの本題を聞かずに怒って出ていくところですが、あなたは、私がそういったタイプでないのを知っているからこそ、なかなか本題に入らない。そして、私から必要以上の情報を得ようとしている」


 「…………ふうん」


 「たとえば、あなたの本題が何かを、私が推理するのを待っている。そしてあなたは私を巻き込もうとしている」


 

 福富神子の顔から笑みがフッと消えた。

 加賀城はさらに言葉を続ける。


 

 「鮫山組の事ですね」


 「…………ええ、そうよ」


 「残念ですが、必要最小限の事しか話そうとはしないあなたに、話すべきネタは持っていませんね」


 「なら正直に言うわ。都合の悪い人間を意図的にネガティブキャンペーンで貶めている連中を潰したいの」


 「ネガティブキャンペーンですか………」


 「印象操作とも言うわね」



 印象操作については次の通りである。

 マスコミ側が、意図的に総理大臣の支持率を上げたいと思っているとする。

 その方法としては、視聴者が好感を抱きそうな文面や構成にしたり、口のうまいコメンテーターにアレコレ言わせたりもする。




 「つまり、ネガティブキャンペーンと鮫山組は繋がっていると?」


 「ええ、確実にね。まあ、鮫山組は使い捨ての駒みたいだったけれど………」



 

 だからこそ福富神子は、こうして加賀城に会いに来たのだ。

 



 「残念ですが、特別私も何も掴んではいません。まあ、藪蛇はつついてしまったみたいですが………」


 「でも、あなたはセンシビリティ・アタッカーの能力者でしょう?」


 「…………なるほど、すでに調べ済みですか……」


 「センシビリティ・アタッカーは、相手の喜怒哀楽の感情をその目で見る事ができ、相手の感情に直接アクセスする事も可能。その能力を応用して、一時的なめまいを引き起こさせる事もできる。属性は電気。だから、スマホの充電が切れた時も充電もできる」


 「ですがテレパシーとは違います。相手が何か企んでいるのは見抜けても、その内容まではわかりません」

 

 「でも、人と人との間に強いつながりがあれば、あなたにはそれが糸のように人の体に繋がって見えるのよね」


 「人の感情はそう単純ではない。利益優先で組んでいるだけでしかない仲だった場合は、つねにつながった状態では見えません。なぜなら、たいして相手の事を強く想ってはいないからです」


 

 でも、純粋な想いで常に繋がっている同士なら、加賀城の力でなら追える。たとえば、御影テンマのケースがそれに当てはまる。


 だから、センシビリティ・アタッカーの能力は万能ではないのだ。

 それに、脳への疲労が大きいので、長時間は使えない。

 



 福富神子はそれを聞いて、眉間にしわを刻んだ。

 やはり彼女の狙いはセンシビリティ・アタッカーの力だったらしい。この力で黒幕の正体でも加賀城に暴いてもらおうとでも思っていたのか…。

 

 どちらにせよ、彼女の目論見に乗るつもりはない。精神科警課の活動から大きくそれてしまいそうな気がするからだ。



 「それでは福富神子さん。私、もう行きますね」


 「あら、そっけないのね。もう行っちゃうなんて」


 「この件にはあまり関わりたくないんです。私は精神科警課の課長。心を守るために動くのが仕事です」


 「フォーカスモンスターもこの件と繋がっているのに?」


 「……………………………………」


 「私知ってるのよ。例のネットでの殺人依頼が横行しているせいで、変ないじめも流行っているそうね。たとえば、してもいない殺人依頼をでっちあげられて、クラス中に言いふらされたせいで、みじめな想いをしている子も……。かわいそうね」


 「…………………………………」


 「どのみちあなたは巻き込まれる運命なのよ」




 

 そして加賀城は部屋から出て行った。

 

 



 

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