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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第四章 死ぬべき基準
44/487

不穏の拡大1

 


 精神科警課は加賀城密季を含め、4人しかいない。

 精神科警課がなにかもう1度説明すると、自殺対策のための課である。


 日本人が自殺する理由としてよくテレビで報じられているのは、イジメを苦にした自殺かもしれないが、男女関係によるものや、病気を苦にした自殺も存在している。

 

 また、ブラック企業による長時間労働も自殺の原因となっている。

 対策としては、労働基準監督署の人間に動いてもらい、是正勧告(ぜせいかんこく)を出してもらう事もある。それでもなお職場環境が改善されなかったり、残業代が不当に支払われなかった場合は、弁護士にも動いてもらうよう、精神科警課側で手続きをしたりもする。


 なので精神科警課は意外とデスクワークが多いのだ。

 本当は5人目が欲しいところだが、精神科警課への異動イコール島流しだと警察署全体で思われているので、誘っても断られてしまう場合が多い。





 今日は加賀城も精神科警課のフロア内にいた。

 少し離れたデスクから、城士松和麿が目を光らせている。




 

 電話が鳴ったので加賀城はすぐに取った。

 電話の相手は、心の相談室からだった。

 

 心の相談室ついては、細かい説明をするまでもなく、心の問題について電話で相談するところなわけだが、臨床心理士などが直接相談に乗ってくれる点では精神科警課とは大きく違っている。でも相談者に対しては心理療法によるカウンセリングが主なので、借金についての相談をしても、借金がゼロになるようなアイディアはもちろん出せないし、対応外である。



 そんな心の相談室から、なぜ精神科警課に電話がかかってきたのかというと…………。





 「フォーカスモンスター………ですか……」




 加賀城は深いため息をついた。

 電話の内容については以下の通りである。

 

 フォーカスモンスターの存在が大きくなり始めた影響のせいで、ネットに殺人依頼を書き込む人が増えたらしい。

 もちろん『○○を殺してくれ』などの直接的な表現はしない。たとえば『死ねとは思わないけど○○さんが誰もいないところに引っ越してくれた方が世の中のためだよな~』や『○○がいると毎日が苦しい。フォーカスモンスター様、どうか忖度(そんたく)してください』などの書き込みもあるらしい。


 まあ、殺せという表現を引っ越しや忖度云々に置き換えたところで、悪意たっぷりなのは変わりないわけだが…。


 問題なのは、ネットに殺人依頼した旨を、いちいち本人にばらして、『お前もうじき殺されるから』と言って精神的に追い詰めていくケースも増えたという事。

 

 それでもフォーカスモンスター自体が存在しないのであれば、殺される事もないので、不安がる必要もないわけだが…………。

 人の心はそう単純ではない。オカルトを信じる信じないは人それぞれだし、『お前殺されるから』とやたらしつこく言われたら、鬱陶しいし、かなりのストレスだ。

 

 すると、電話越しからカウンセラーの女性がこんな事を言ってきた。



 

 『近藤ルイもフォーカスモンスターに殺されたらしいです』



 「コンドウ・ルイさんですか………」




 近藤ルイの名前は知っていた。ミチ&ワカの蔵本ワカコと同じ高校に通っていた、女子高生だった子である。

 彼女は、来栖ミチルが死んでからそう日も経たないうちに電車に轢かれて亡くなった。

 加賀城は、来栖ミチルの母親の心のケアのために、この事件には間接的ではあるが関わっていた。

 そして見抜いていた。近藤ルイがあんな事をしたせいで、来栖ミチルが死んだという事を………。



 しかし近藤ルイの死は殺人ではない。目撃者もいる。彼女は1人で踏切の遮断棒をくぐり、線路へと入って死んだのだ。


 でも、死ぬ直前に奇声を発していたという点では、児童養護施設跡前で死んだあの高校生と共通している。

 

 ならこの2人は、何が要因で、そこまで狂ってしまったのか………。

  

 フォーカスモンスター………。

 このフォーカスモンスターには、人を狂わせる力もある?

 そもそも人なのか、バケモノなのか…………。



 「…………………………」



 加賀城は超常的なものを信じないタイプではない。なぜなら、加賀城自身もまたその中の1人だからだ。

 

 どうやら、このままこの件に対し見ざる聞かざるを続けても、状況は悪化するだけだと察した。だって、殺人としていまだに事件になってすらいないのだから。



 「…………やれやれ」



 少し離れたデスクから、城士松和麿がまた目を光らせている。

 もちろん、加賀城への監視と並行して、事務仕事もキッチリとこなしている。



 加賀城はブラックコーヒーを飲んで一息ついてから、あるポスターを作成し、赤橋署内の廊下にぺたりと張った。



 

 精神科警課の事務募集。

 ①サービス残業無し。

 ②パワハラ、モラハラ、セクハラもありません。私が許しません。

 ③お茶汲みなし。仕事中の水分補給OK。

 ④出世には向いてないかもしれませんが、優しい職場環境である事は保証します。

 ご希望の方はぜひ。




 まあ、こんなポスターで簡単に集まったら苦労はしないのだが、やらないよりかはマシである。



 スマホで時間を確認すると12時40分を回っていた。

 このまま精神科警課のフロアに戻ってしまうと、強制的に城士松が加賀城の分の出前も取ってしまうので、赤橋署を出る機会を逃してしまう。



 なので加賀城は、外へお昼ご飯を食べに行く事にした。



 

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