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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十四章 最後に殺すべきヒト
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ユルサナイ2



 

 唯一の頼みの綱だった宗像先生が殺されてから、そんなに間もないうちにサラは自殺してしまった。


 宗像先生さえ生きていれば、彼女は希望を見失わずに済んだかもしれない。

 


 本当は、サラの葬式に参列したかったが、それはやめておいた。

 


 これから復讐するつもり(・・・・・・・)ならなおさら、目立つような行動は、はじめのうちから取るべきではないと思ったからである。


 サラの葬式は、あの児童養護施設の中でおこなわれた。

 この時にはすでに、マスコミやネット民によるデマのせいで、葬式用の会場を貸してもらう事すらできなかったらしく、しかたがなかったらしい。

 この情報は、児童養護施設付近に住んでいる近所の人の井戸端会議を、さりげなく通りすがりに聞いて、知った。


 葬式は参列こそしなかったが、ちょいちょい児童養護施設の付近を通りかかったりはしていたからだ。



 そして偶然、蒼野まといを近くで見かけたのである。


 「…………………」


 サラの親友の蒼野まといだ。

 


 会うたびにサラはいつもまといの話をしていたので、すぐに彼女だとわかった。



 サラは彼女が大好きだった。

 サラは彼女についてこんな事を言っていた。

 蒼野まといは、引っ込み思案な面が強く、誰に対しても優しいように見えるが、本当はそうではなく、誰に対しても気を使いすぎているだけにすぎないと。

 でも、普通の同年代の女トモダチにありがちな打算や駆け引きが蒼野まといにはいっさい存在しないから、一緒にいて落ち着くとも言っていた。



 あと、まといは、たまに言葉足らずで不器用なところもかわいくて好きだとサラは言っていた。





 そんな蒼野まといの事を、児童養護施設の近くで見かけたのだ。

 その時のまといは、パンパンに膨れ上がった透明のレジ袋をそれぞれの手に2つずつ持っていて、児童養護施設へと帰ろうとしていた途中だった。


 レジ袋にプリントされたロゴは、隣町にしかないスーパーのものだった。

 

 「……………………」


 村八分的扱いを受けているせいで、近くのスーパーへ行っても、追い出されてしまうというわけである。

 彼女が車でも持っていれば、隣町に行くくらい、さほど苦でもないのかもしれないが……。




 それにしても彼女のあの目………。


 たとえるならそう、触ったとたんに壊れてしまいそうなガラス細工。

 脆さと危うさを同時に感じさせる、そんな目をしていた。

 


 彼女も、自分とおんなじなのだなと思った。

 そんな彼女に対し、心が締めつけられるのと同時に、強いシンパシーを抱いた。




 それからまもなくの事だった。児童養護施設での無理心中事件が発生したのは。

 蒼野まといの消息も、そこでいったん途絶えてしまった。



 

 蒼野まといごと全員死んでしまったものとばかり思っていた。

 だからこそよけいに、復讐心をたぎらせる事ができたのである。




 そんなある日、西赤橋駅周辺を歩いていると、総合百貨店ビルの建物に埋め込まれている巨大テレビの画面に、女優・風椿碧が女子アナウンサーと一緒に映っているのに気づいた。

 ドラマの宣伝のためのわずか3分のあいだだったが、胃の奥から吐瀉物(としゃぶつ)がこみあげて来るのに、1分もかからなかった。


 だけど、ここで吐くのはいやだったので、必死に堪えたのである。




 

 不快極まりなかった。



 こいつのせいでサラが死んだというのに、あの事件の事なんてまるで関係ないといった表情でニコニコしていたから、思わず叫びそうになってしまった。



 憎い。死ね。殺したい。憎い。死ね。


 「…………………」



 いや……………だめだ。

 殺すのはやっぱりやめよう。

 冤罪という罪に目をつむってまでコイツが守り通そうとした風椿葵を残酷な方法で殺す事で、自分がしでかしてしまった罪の愚かさをわからせた方が効果的だろう。

 

 そして、こいつの社会的評価も粉々にし、精神的に追い詰めていくのだ。


 こいつに恋人ができるような事になったら、そいつの事も殺す。また新しい恋人ができるような事になっても、そいつも殺す。

 そう、何度も何度も、こいつから、大切な存在を奪ってやる。


 こいつは絶対にユルサナイ。

 この命が尽きるまで、こいつを精神的にいたぶり続けてやる。



 常識とかモラルとか、そんなものはもうどうだっていい。


 この復讐を成し遂げるためには、どんな犠牲だっていとわない。

 邪魔だと思ったやつは、誰であろうが排除する。


 もちろん、誰が巻き添え喰らおうが、罪悪感なんて抱く気もさらさらない。

 そんなもの………抱いたところで無意味。ゴミみたいなものでしかないからだ。



 そのためにはまず、仲間を増やさないと。

 そうだ、橘芹華の弟の王李、彼のもとを訪ねよう。


 「………………」


 いや、待て。



 まずは加賀城密季を始末しないと。

 彼女には顔を見られてしまっている。だから、このままだとまずかった。



 でも、そんなに慌てる事はない。彼女を殺すのは思いのほか簡単だ。

 警察側にもサラを陥れた連中の一味がいるのなら、そいつらに直接電話して、加賀城がお前らの事を調べていると教えてあげればいいだけだ。

 

 そうすれば、直接手を下すまでもなく、ヤツラが彼女を殺してくれるというわけである。

 

 そう、たとえば、宗像先生が言っていた“麻薬ルート”の件を話の中に織り交ぜて、相手側の関心を引く。そして加賀城密季の名前を出す。そうすれば絶対に食いつくはずだ。




 なんだ。


 簡単じゃないか。


 

 そう、これは、サウンドノベルゲームと一緒なのだ。

 でも普通のサウンドノベルゲームじゃない。バッドエンドしか存在しないサウンドノベルゲームだ。



 相手がどんな選択肢を取ってもバッドエンドを辿れるよう、幾重にも罠を張り巡らせるのである。



 

 

 待っていてサラ。




 必ず成し遂げるから。


 

 

 

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