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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十四章 最後に殺すべきヒト
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ユルサナイ



 贅沢な暮らしなんていっさい望んだ事はなかった。

 つつましい生活さえ送れたらそれで充分だったのだ。

 時々サラに会って、たわいもない話をして、各々の帰るべき場所に帰宅する。そして、次会える日を待ち遠しく思いながら、日々を過ごす。


 ただそれだけで満足だったというのに………。


 でも………それはぶち壊されてしまった。


 あんなバカみたいな連中に奪われてしまったのだ。



 許さない………。許せるわけがない。

 





 

 全員道連れだ。







 カチカチカチカチ。



 「……………………」



 電気もついてない真っ暗闇の部屋の中でパソコンをいじりながら、ふと、愛すべき(・・・・)サラの事を思い返した。

 


 児童養護施設での無理心中事件が起きたのは2年6ケ月前の2月上旬だが、サラが濡れ衣を着せられたのは、その少し前の12月の上旬の頃だった。


 帰宅途中の彼女の前に突然、警察の人間がやって来て、彼女を半ば強引に連れ去っていったのである。



 本来ならば、彼女は無実なわけだから、証拠なんて出て来るわけがなかった。

 だけど、BECKの防犯カメラの映像や目撃証言など、次々と“偽りの証拠”が彼女の前へと並べ立てられ、彼女は本当の犯人に仕立て上げられてしまった。


 それからの展開は、素晴らしい(・・・・・)くらいに早かった。

 サラが警察に連れていかれたその翌日には、全スポーツ紙のトップの一面にデカデカと取り上げられ、テレビのニュースでも報じられた。


 テレビでは、芸能界に蔓延(まんえん)した麻薬・覚せい剤問題のひとつとして、せいぜい10分程度の枠でしかなかったが、それでも、ネット民を歓喜(・・)させるのに充分過ぎるネタだった。



 マスコミや、ネット民は、ある事ない事付け足すのが実に大好きなようで、麻薬吸引のほかにも、枕営業、10股、マネージャーに対するパワハラ、恫喝、万引きなど、次々と、やってもいない事が付け足されていった。


 サラの罪を児童養護施設の責任者が隠蔽しようとしていたというデマまでも流れ始めた事により、サラのみならず、児童養護施設の子供達までもが、村八分的扱いを受け始めたのである。

 


 結果、あの児童養護施設で無理心中の事件が起こり、子供達は死んでしまった。

 でも、サラが死んだのはその3日前。

 保釈のためのお金を支払える人がいなかったサラは、ずっと女性専用の留置施設での生活を余儀なくされていた。

 


 そして彼女は、その留置施設の中で自殺してしまった。



 笑えるのが、その事がネットニュースで取り上げられた途端に、マスコミやネット民によるサラ叩きの勢いは急速に弱くなっていき、ついには誰もその事を口にしようともしなくなってしまった。



 でも、いまでも覚えてる。

 サラの死の事がネットの記事に上がったはじめのうちは『自業自得』だの『同情の余地なし』だの『死ぬ事はなかったのに』だの、まるでサラにだけ非があるような言い方をして、ネット民たちは、自分自身の罪に目を向けようともしなかったのだ。

 

 サラは無実だったのに、あのバカどもは本当の事に目を向けようともせず、ただサラを使って憂さを晴らしただけ。

 そして、彼女が死んだ途端に、興ざめして、さっさと忘れる事を選んだ。



 

 こいつらの事も、絶対に許すつもりはない。




 そう、2年以上経ったいまでも、その気持ちに変わりはない。






 

 サラが留置施設で何十日も過ごす羽目になったのは、検察がスピード起訴に持ち込んだのが原因だった。

 このままだと裁判に突入しても、有罪が確定してしまうと思ったので、なんとかサラを助けるために、加賀城密季に会いに行ったのである。



 その時の加賀城密季はとても冷たかったが、彼女は宗像(むなかた)弁護士を紹介してくれたのだった。



 加賀城密季の言う通り、宗像弁護士は権力に屈するような人間ではなかった。

 サラの冤罪を晴らすために、BECKはもちろんの事、麻薬ルートについても徹底的に調べ上げてくれた。


 そして宗像弁護士はこんな事を教えてくれた。



 「BECKに流れている麻薬は警察が押収したものだったんだよ。彼らはわざと、その辺のたいしたことのない暴力団関連や半グレ組織に麻薬を買わせるように仕組み、その情報をもとに、何も知らない半グレ達のアジトを次々とガサ入れし、麻薬をタダで手に入れていったんだ」


 「そっ、それって……」


 「本来、押収した麻薬はすべて厚生労働省に送られ、国が所有している施設にて処分される。つまりは、BECKの件に関しては、警察と国はズブズブだったんだよ。国と言っても、一部の政治家だけしかこの事実は知らないとは思うけどね」


 「………………………」


 「そして円城寺サラに何もかもなすり付け、マスコミを使って騒ぎ立てたのもそれが理由だろうね。みんながみんな、円城寺サラのせいだと思い込めば、それ以上、誰も真実を調べようとはしないからさ。ネット民もそうだけど、マスコミや、そして警察もね」


 「くっ………」


 「でも彼女は無実だ。麻薬を本当に吸っていたのは風椿碧の方だね。いや、葵って言った方が正解かな。葵さん、児童養護施設の事件以降、埼玉の病院にずっと入院しているよ」


 「そっ、それって………」


 「麻薬を抜くためだろうね」


 「くっ、くそがぁっ!!」


 

 こんな事、あってはならなかった。

 無罪の人間が精神的に追い詰められて留置施設で死に、有罪として本当に裁かれるべき人間が、のうのうと生き残り、こうして日常を取り戻そうとしている。



 ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなっ。



 「君の気持ちは痛いほどよくわかる。だって、これってつまり、姉の風椿碧の方も、葵さんの罪を知っておきながら、目をつむった事にもなるんだからね」


 「えっ…………」


 「だって彼女は、妹が入院したのをきっかけに、妹のかわりに株を辞めて女優になってる。きっと、妹が退院するあいだだけの期間限定付きだと思うけどね」


 「そして、妹が退院したら、またその姉とやらは、もとの生活に戻るってわけか」


 「そういう事だね」

 

 「くっ、ふざけたことをっ!!」


 「でも大丈夫だよ。どこの施設で、押収した麻薬を国が処分しているのか、それをつき止めればわかるかもしれない」


 「ほっ、本当ですか?」


 「こういうやつらはね、BECKが潰れようが、またどこかで似たような事をやっていたりするもんなんだよ。だから、向こうの施設に送られた麻薬が、処分されずに施設の中に保管されていたりした場合は、円城寺サラの有罪をひっくり返す切り札にもなるはずだ」


 「じゃあ、絶望しないでいいんですね」


 「ああ、大丈夫だ。切り札を手に入れたら、私はサラさんに接触してみようと思う。そして、今、彼女側についている国選弁護人にはおりてもらうように話してみるよ」


 「よっ、よかった」


 「大丈夫だ。きっとサラさんは助かるから」







 でも、まもなくして宗像弁護士は殺されてしまった。





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