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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第四章 死ぬべき基準
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どう思っているの?


 あと1週間もしないうちに3月になる。

 そのせいなのか、寒い日よりも温かい日が多くなり、駅周辺には、コートを着ていない人の方が多かった。

 それでも社会人は、季節に関係なく日々を同じように繰り返している。

 駅へだるそうに歩くサラリーマン。スマホをいじりながらバス停へと向かう若者。


 そんな中、風椿碧は喫茶店CAMELにて、お気に入りのミルクティーで一息ついていた。

 現在午前9時10分。

 ここのお店は開店が9時からなので、さすがに早々混むような事はなく、いま店内は遠藤炭弥と碧の2人だけだ。

 ふと炭弥がこんな事を言ってきた。



 「あの子と住み始めて、半年以上経ったやろ?で、どうなん?」



 「えっ?ああ、まといちゃんの事ね。そうだね、なんだかんだ言ってもう半年か………」



 半年。短いようで長い微妙な期間である。ネットで頼んだ品が半年後に届くなんて言われたら遅すぎと感じるだろうが、この半年という(あいだ)で、人と人との関係が親密になれるかどうかと聞かれたら、微妙だ。


 まといとの会話に多少のぎこちなさは感じなくなったものの、相変わらず彼女は謎だらけである。

 謎だらけという事はつまり、碧に対し打ち明けていない事が相変わらず減っていないという意味でもあるわけで…。

 まあ友達だからって、なんでも話すべきだとは思わない。そんなの一方的なエゴでしかない。

 でも、もっと仲良くなりたいのだ、彼女と。



 「さすがに半年じゃ、オトセんか?」


 「はい?」


 「だって愛してんのやろ?まといちゃんの事?」


 「はいぃ????えっ?えっ?いや、何言ってんのか、わからないんですけど?」


 「でないとあそこまで世話を焼こうとは思わないと思うけど?」


 「いやいやいや、それは勘違いだからっ」


 「俺んところにシャワー借りに来た時も、チラチラエロい目で見てたやん」


 「だだだだっ、だって、服が透けてたんだから、気になって当然でしょっ!!」


 「普通の男だったら当然かもね。そこに服が透けた女がいれば、性の対象として見るやろ?あん時の碧ちゃんは、そこらへんの男と同じ目をしてたよ」


 「でも炭弥さんはエロい目でまといちゃんの事、見てなかったじゃんっ」


 「恋愛に興味ないねん」


 「じゃ、じゃあ、私がまといちゃんの事好きだっていう根拠にならないじゃん!!」


 「じゃあ、男とつき合った事は?」

 

 「つ……ぐっ………ぐぬぬ、ないです」


 「男にときめいた事は?」


 「………………ぐっ……………」


 「だからこそ、男に口説かれても、鬱陶しいとしか思わないとちゃうの?」


 「…………………………でも……でも………」



 別に同性愛をバカにするつもりはない。というより、なぜ同性愛者を差別する人達が多いのか、疑問すら抱いた事もあるくらいだ。でもまさか、自分がそうだとは考えた事がなかった。

 いや、まだわからない。この気持ちが友情なのか、愛情なのか。



 「うーん、頭が混乱してきた」



 難しい事を考えるのは苦手である。

 すると炭弥は碧に対し、こんな事を言った。



 「パッと見、まといちゃんはバリバリの恋愛タイプって感じはせえへんけど、ちゃんと自分の気持ち整理して、踏み込むべきラインを見極めないと、横からかっさらわれちゃうかもな」


 「不安にさせる事言わないでよね」



 蒼野まといは美人である。

 化粧をしないであのレベルなわけである。これは結婚生活を共にする相手として見た時、大きなポイントでもあるのだ。炭弥の言う通り、さっさと自分の気持ちをはっきりとさせ、彼女とどう接するべきか考えないと、本気で取られてしまう可能性があった。

 

 話はまだまだ途中ではあるが、もうそろそろテレビ局に向かわなければいけないので、碧は喫茶店を出て、近くのバス停へと向かった。

 でもバスには乗らない。予約していたタクシーの運転手さんが目印としてわかりやすいように、バス停近くを待ち合わせにしただけなので、バスに乗る人達の邪魔にならないように、少し離れた場所で待つ事となった。

 道路は今混雑してなさそうなので、きっと時間通りに来るだろう。



 すると、向こうからまといが歩いてくる。



 「あっ、碧さん」

 

 「あっ、まといちゃん……」


 

 相変わらず、清涼感たっぷりの綺麗な声をしていた。

 さきほど炭弥とあんな話をしたあとだから少し気まずかった。

 でも碧は演技派の女優である。平然に振舞う事は可能だった。



 「あれ?そういえばまといちゃん。病院の診察予約は11時からじゃなかったっけ?」



 スマホを開いて何時か確認してみる。まだ9時30分だった。

 そう、まといは今日、病院へ行く予定があるのだ。

 まといは碧の問いに対し、こう答える。 

 

 

 「うん、バス代がもったいないから歩きで行こうと思って…………」


 「そっ、そうなんだ……」



 バスぐらい使えばいいのにと碧は思った。

 

 まといは月1で病院に通っている。

 まといは、碧との同居をきっかけに生活習慣を改めるようにはなったものの、すぐには熱が出やすい体質は変わらなかったので、診療所のドクターに紹介状を書いてもらって、近くの大きな病院で診てもらう事になったのである。

 それから何か月が経ち、彼女の健康状態も落ち着いてはきたものの、担当医いわく『これはあくまで完治ではない』との事。なので1ヶ月ごとに必ず来いと担当医から指示を受けている。


 だから、たかだが290円を浮かせるために1時間近く歩かなくてもいいのにと思うわけである。

 いったい何のためにバス代を浮かせてまでお金を貯めているのか知らないが。


 

 「……………………………」



 聞いたら教えてくれるのだろうか。

 でも、たった1つの間違った選択肢のせいで好感度が下がるのはいやだ。

 恋愛ゲームで例えるならば、どんな選択肢を選んだとしてもちょっとずつしか好感度が上がらないタイプが彼女だと思ってる。あと、特殊イベントを期間内にこなさないとベストエンドに行けそうにないのもまた、彼女みたいなタイプだと思ってる。

 だから、せっかく溜まったこの好感度は、やはり大切にしたいのだ。



 「じゃあ、碧さん、私もう行くね」


 「えっ、うん……」



 まといは碧に背を向け、病院のある方角へと歩き始めた。

 まといは半年前と比べると、フラッとする事もなくなり、重心も安定していて、歩幅もきれいなほどに一定である。

 でも、彼女の背中を見ているとなぜかもの悲しく感じてしまい………。



 「ねえ、まといちゃん」


 「えっ?」



 まといは歩くのをやめ、振り返った。

 穏やかな風が吹き、ふわりとまといの髪を撫でる。



 


 「もっと仲良くなりたい」




 

  

 

 

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