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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十三章 デウス・エクス・マキナ
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デウス・エクス・マキナの願い


 

 直江美加登が、サバイバルナイフを持って走り迫って来た時、まといは恐怖した。


 樫本の仇を討つために美加登の元までやって来たというのに、標的であるはずの彼女を恐れ、出入り口に向かって一直線に走ったというわけである。


 そして、そんなまといを助けるために、聖はとっさにまといの手首を掴んで彼女の体を思いきり強く引っ張り、出入り口の外に向かってまといを突き飛ばしたのである。




 サバイバルナイフの刀身が、聖の腹部をいともたやすく貫いた。



 直江美加登は聖の手によって殺害されたが、聖もまた、腹部に負ってしまった刺傷(ししょう)に耐える事ができず、その場に崩れ落ちたのだった。



 「聖っ!!」



 まといはすぐに立ち上がって、聖の元へと駆け寄った。

 そして上半身を抱きしめ、聖の体を両手で引き寄せたのだった。



 それを少し離れたところで見ていた近衛は、悔しそうな表情を浮かべている。

 

 済んでしまった事をあれこれ考えたところで、結局は、無駄な時間を費やすだけのそもそも論でしかないが、どうすれば花房聖を死なせずに済んだのかと、どうしても考えてしまうのである。



 

 「聖っ、聖っ、待っててっ、すぐ救急車呼ぶからっ!!」


 「………やっ、やめて。そんな事……しないで…………」



 まといは、聖の懐からスマホを取り出そうとした。碧から借りたスマホは家に置きっぱなしにしたままだからだ。


 でも聖は、まといの手首を掴んでそれを制した。

 

 そんな聖に対し、まといはこう言った。



 「だって聖、このままだと死んじゃうっ!!」


 「……もっ、もう、助からないよ。だって……だいたいこの時期だったから。私が死ぬのは」


 「そっ、それってどういう意味?やっぱり聖は……碧さん(・・・)なの?」


 「………………」


 「ずっと不思議には思ってた。聖はいつも、私のピンチの時には必ず現れてくれたよね。燃え盛るアパートの中に取り残された子供を私が助けに行こうとしたら、その時も聖は突然現れて、私を止めた。それに、私が碧さんと同居を解消して、UFOの形をしたトンネルの中で夜を明かそうとしたあの時も来てくれた」


 「………………」


 「それは聖が、知ってたからじゃないの。私がそこで死んでしまう事を」


 「………………」


 「いまにして思えば、拳銃で撃たれた私を助けてくれたのも、聖のような気がしてならないんだよ」


 「………………」


 「右田邸の時も、だから私にあんなチョーカーつけさせたんじゃないの?」


 「………………」


 「それに今日の朝ね、碧さんガーリックシュリンプ私に作ってくれて……。聖がこの前私に作ってくれたのとまったく同じ見た目だった。ただの他人が、あそこまでそっくりなもの、作れないと思うの」


 「………………」


 「それに、どんなに聖がおどけて見せても、やっぱり、一緒なんだよ。聖には、碧さんとおんなじ優しさが、変わらず心の中にはある」


 「………………」


 「だから、もう言い逃れしても無駄だよ」


 「…………そっか………バレちゃったか」


 「うん」


 「いままで1度も………気づかれた事はなかったんだけど、やっぱりちょっとずつは、いい方向に変わって来てるって事なのかな」


 「えっ」


 「実はね……こんな事もあろうかと、海外の銀行に口座を作っておいたの。日本円で50憶。これだけあれば、見つけられるはずだよね。どうやって罪を償っていけばいいか、その方法をね」


 「……………えっ…」


 「………あと、飛行機のチケットはもう取ってある。家に帰ったらさ、下から2番目の引き出しの、底の部分を調べてみて。そこに、チケットの入った封筒を貼り付けておいたから」


 「………なんで聖はそこまでするの?聖は知らないと思うけど、私、犯罪者なんだよ。フォーカスモンスターなんだよ。だから、本当は、海外に逃げる資格なんて、私にはないんだよ」


 「……………………」


 「自殺しておけばよかったんだよ。2年前のあの時に。子供達と一緒に私も死んでいれば、聖が死ぬ事はなかったのにっ」


 「そんな事、言わないでよ。私はあなたに生きていてほしい」


 「でもっ」


 「ゲホッ……だって、私にも責任があるから。私が葵を庇わなければ、あなたがフォーカスモンスターになる事はなかった。あなたに、こんなに苦しい宿命を背負わせる事もなかった」


 「………」


 「ほっ……本当は、あなたがフォーカスモンスターにならない未来を導き出したかったけど、何回やり直してもそれは無理だった」


 「……聖……」


 「だからね、せめて、海外に行って、どう自分の罪と向き合うべきか、その答えを見つけてほしかったの」


 「……………」


 「あっ、あと……自首はしないでね。自首をしても、あなたは結局“誰か”に殺されて、それでオシマイ。そして、あなたが死んだ様子を動画にしたものが、風椿碧の家へと送られ、彼女は約1年間、精神を病む事になる」


 「そっ、そんなっ!!」


 「だから、海外に逃げるしか方法はないんだよ」


 「じゃあ、私が海外に逃げれば、碧さんに危険が及ぶことはもうないの?」


 「……ううん。らっ、来年の9月1日に、黒幕がまだ野放しのままならば、必ずアイツは彼女を殺そうとする」


 「そっ、そんな………」


 「でも、風椿碧は過去にタイムスリップして生き残る。そして、今度は花房聖として、同じ時を繰り返すの。そう、永遠に………」


 「そして聖は、また今日、直江美加登の手によって殺されるの?」


 「ううん……。直江美加登に刺されたのは今回がはじめてだよ。いつもは王李と相討ちだった」


 「じゃあ、碧さんのタイムスリップの要因を取り除かないと、また碧さんは、この日に、美加登さんか、そこで死んでいる男の人の手によって殺されるって事?」


 「そういう事………」


 「そっ………そんな事って………」


 「だからね、まっ、まといにはそれを止めてほしいの。もしも、来年の9月1日にまといが生き残る事ができて、まだ、黒幕が野放しの状態なら………」


 「私が、来年の9月1日まで生き残れなかった場合は?」


 「…………誰か頼れる人に、彼女のクアラルンプール行きを阻止するように頼むしかない。たまにね、黒幕はあなたのスマホを使って、風椿碧をクアラルンプールへ誘導したりもしてたけど、スマホがなくても、結局は同じだったから、もう力づくで止めるしかない……かな」


 「……………………」


 「……私の……願いは、あなたの生存が保証されたうえで、この永遠の生き地獄から解放される事。たとえ私が、風椿碧としてあなたのそばにいる事ができなくても」


 「……………………」


 「……じゃあ…………もう……寝るからね。おやすみなさい」


 「聖……………」


 「ずっと愛してる…………。大好きだよ、まといちゃん…………」






 そして聖は、深い眠りについてしまったのだった。






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