共鳴と自信
引き続き7月14日。AM8時50分過ぎ。
いつも通りの時間に精神科警課に着いた加賀城は、現地点で“フォーカスモンスター宛ての殺人依頼”がSNS上でどれくらい蔓延しているのかを調べるために、パソコンの電源を入れた。
この状況、早く対策を打たないと非常にまずかった。
カメラを持って追い掛け回す不届き者がまた現れるかもしれない。
ドクロ+カメラマークの絵文字を禁止できる法律が現時点では存在しないので、またLIVE会見をしたところで、みな、聞く耳なんて持ってはくれないだろう。
これらの行為を助長させてしまっている原因は、SNSに書き込まれた殺人依頼を見て、実際に殺しをおこなっているフォーカスモンスターがいるからである。
なるべく早いうちに、この3人目のフォーカスモンスターの正体を暴いて逮捕し、マスコミのチカラを使って、逮捕の事実を全都道府県に知らしめる。
そして、もうフォーカスモンスターにお願い事をしても、誰も死なないのだと“自覚”させるしか他に方法がなかった。
もうこれ以上、よけいな時間はかけたくはないのだが………。
「…………いたっ……」
突然、頭痛がした。
太くて長細い針で脳みその奥深くをグサリと刺されたような痛みだった。
そして、脳みその中心で、自分のものとは違う“どす黒い”ナニカが膨れ上がっているのを感じた。
「………………………」
そう、これは、円城寺サラの魂の欠片から発せられているマイナス属性のエネルギーによるものだった。
7月10日に玉雲さまのもとで精神統一の修行をしたおかげで、センシビリティ・アタッカーのチカラのレベルアップに成功したというのに、またこの頭痛に襲われる事になるとは………。
それにしても、なんで今になって、またこの頭痛が?
しかも、この魂の欠片から発せられているこのマイナスエネルギー。円城寺サラのものに似てはいるが、別の人間のモノだった。
「………………まさか」
加賀城はセンシビリティ・アタッカーのチカラをオンにした。
そして、自分の意識をレーダー探知機のように周囲へと円形状にすばやく拡げた。
「………………つっ………」
魂の欠片によるエネルギーのせいで頭が痛かったが、加賀城は、もう少しだけ広い範囲まで意識を拡げてみた。
「あっ」
わかった。
頭痛の原因が。
別の場所にある円城寺サラの魂の欠片が、加賀城の頭の中に残ったままの魂の欠片と共鳴して、頭痛を引き起こしてしまったのだ。
そしてその魂の欠片も、ある人物の中に入り込んだままだという事もわかった。
その人物とは、間違いなく蒼野まとい。
加賀城にとってはこの魂の欠片の属性は毒でしかないが、でも、この蒼野まといは違う。
蒼野まといのチカラの属性もまた、マイナスのエネルギーによるもの。
たぶん、彼女が原因だ。彼女の感情がマイナスに傾いたから、彼女の中にまだ残っていた魂の欠片が反応し、共鳴反応まで引き起こしたのである。
もしかしなくても、彼女は今、誰かを殺そうとしているのかもしれない。
「…………………」
彼女が今いるのは直江寺。
誰かに運転を頼んで、急いで向かったとしても間に合うかはわからないが、気づいてしまった以上は、直江寺に向かうべきだと思った。
加賀城は、いつもの女子3人娘のうちの1人に、2時間ほど席を外すと言い残してから、刑事課から西野巡査を引っ張ってきて、さっそく直江寺へと向かった。
一方その頃、近衛孝三郎と花房聖もまた直江寺に向かっている途中だった。
穂刈が近衛に、検問場所をデータとしてこっそりスマホに送ってくれたおかげで、よけいな時間をかけずに、もうすぐ着きそうだった。
近衛は花房聖にこう言った。
「美加登派の従者を見かけたら、1人でも多く潰してくれるとありがたいです。後部座席に積んである麻酔銃を使ってください。あのエアタッカーよりはスピードも出ないし、飛距離も出ないかもしれませんが、素手で戦うよりかはマシでしょう。あと、弾は限られてますので、無駄打ちは禁止で」
「わかってる」
でも、もし王李が仕掛けてくるのが本当に今日なら、麻酔銃だけで、はたして立ち向かう事ができるのか。
〇〇巡目の時は、あの右田邸でまといも死んでしまったので、このような展開にはならなかった。
前回の時に経験していない出来事に関しては、どのように動くのが正解なのか知らないわけだから、ふとした行動が間違いを引き起こしてしまう事だってある。
だから、まといを100%救う事ができるのか、実際のところ、聖には自信なんてなかった。
それに、いまだに黒幕の正体が誰なのか掴めていない。
2021年の9月1日に、かならずあの場所に現れるあの人物。
あの人物の顔、いまでも覚えている。
加賀城密季に相談しようと考えた事もあったが、あれが整形後の顔だった場合は、まだ整形をしていなければ当然探しようがないし、変に不審がられて、まといを王李から救うのに支障が出てくるといやだったので、あえて誰にも言わないままにしておいたのだ。
実際、トモイを救おうとああいう選択肢を取っただけでもこのザマなわけだから、誰にも話さなかったのは、間違いではなかったと言えるだろう。
まあ、その件に関しては、ちゃんと手は打ってある。