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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十三章 デウス・エクス・マキナ
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彼女が作った朝ご飯


 7月14日。



 AM5時にまといは目を覚ました。

 でも、昨日の疲れがまだふくらはぎあたりに残っていて、あと、睡眠の質もあまりいいものとは言えなかった。

 決して睡眠時間が足りてないわけではないのに、意識がまだまどろみの中に浸かっているような感じがして、本調子とは言えなかった。

 だから今日は、砂糖少なめの苦めのコーヒーで気分を紛らわす事にした。


 

 車の件については、まといの方から碧に話す前に『外に車がないんだけど?』という形で、すぐに碧にバレてしまった。

 碧は耳もいいからである。


 車が駐車スペースに入ってくる際の、タイヤが地面を滑る音や、リモコンキーでカギを閉める際のあのピピッという音。

 車で出かけたはずの人間が、帰って来た時には、それらの音をいっさいさせずに、いつの間にか家にいて、微妙に申し訳なさそうな顔をしていたら、怪しむのは当然の事だった。



 だからまといは、下手なうそはつかずに、正直に理由を話した。


 直江美加登に宗政殺しを疑われ、また拉致みたいな展開になってしまったので、車を捨てて逃げてきたと言った。



 もちろんまといから事情を聞いた碧は、『警察に通報するべき』と言った。



 でもまといは、それだけはしたくないと言った。



 

 子を殺されて、怒り狂うのは親としては当然の感情。

 右田邸であんな事件さえ起こらなければ、彼女は人を殺そうとは思わなかったわけである。


 悪いのは真犯人であって、直江美加登ではない。

 それなのに彼女が復讐という形で罪に手を染めてしまうのは、とても悲しい事だとまといは思った。


 復讐なんてしても絶対に気分なんて晴れないし、自分を信じてくれた人達の想いを裏切る事にもなる。

 だからこそ直江美加登を犯罪者にしたくはないと思ったのだ。誤解さえ解ければ、狙われる事もなくなるわけだし。



 碧は、やっぱりそれでも通報はするべきだと思ったが、まといの気持ちもわからなくはなかったので、いったん引き下がったのである。



 

 その碧はというと、まといが起きた30分後くらいに部屋から出てきて、リビングへとやって来た。

 そしてまといにこう尋ねた。



 「体は大丈夫なの?骨にヒビが入ってたり、頭を強く打ってたりすると、だいたいこのぐらいの時間に痛み出したり、気分が悪くなったりするはずだけど………」


 「大丈夫だよ」


 「ふうん、そっか。不死身なんだね、まといちゃんって」


 「そんな事ないと思う。たぶん、運が良かっただけだよ」


 「そっか。あっ、今日はどうするの?マンガのアシスタントの仕事に行くの?」


 「うん」


 「あの……もういっそ、私のアシスタントの仕事してみない?簡単な事務作業にはなるけど、時給は弾むし」


 「いや、マンガのアシスタントの仕事もやりがいがあるから、そっちをしばらく続ける事にする」




 嘘だ。やりがい云々はいっさい関係ない。

 いつでも辞められる仕事の方が、雇い主にかかる迷惑が少なくて済むからである。




 「そっか。わかった。でも、気が変わったら、いつでも言って」


 「うん。あっ、朝ご飯作るね」


 「たまには私が作るよ。だから今のうちに洗濯とか掃除とかお願い」


 「うん、わかった。じゃあお願いね」



 という事で、朝ご飯は碧に任せ、ドラム式洗濯機のスイッチをオンにし、洗剤の投入口に洗剤をセットしてからスタートボタンを押した。

 すると、ドラム式洗濯機がゴゴゴゴゴっという静かな振動音を立て、動き始める。


 

 まな板のうえで何かを刻む音が聞こえ始める。



 とりあえず玄関周りを掃除することにした。人が料理している近くで掃除機を動かすと、その分、ホコリが立つし、料理の上にホコリが降りかかってしまう。だから、ある程度リビングから離れている玄関の方がいいと思ったのだ。


 玄関も、油断しているとホコリの臭いが立ちやすいので、まといは、ホウキとチリトリで、砂が溜まっている箇所を掃除した。


 すると、香ばしい匂いがここまで漂ってくる。ニンニクをオリーブオイルで炒めているような匂いだった。


 

 玄関はもう終わったので、次はお風呂でも掃除しようと脱衣室へと移動したが、朝ご飯が出来たと言われてしまったので、いったんやめにする事にした。


 

 そしてまといはリビングに移動した。



 「えっ?」


 まといは、テーブルのうえに置かれた料理を見て驚いた。


 「ん?どうしたの、まといちゃん」


 「………いや、別に………」


 「あっ、安心して。ニンニクはそんなに使ってないから。その分パセリは多めにしたけどね。臭みを取るために」



 碧が作ったもの。


 それは、ガーリックシュリンプとサラダだった。

 

 サラダには、トマトとアボカド、生ハムをスライスしたものが入ってた。それらの具材の下にはレタスが敷いてあり、あとドレッシングもかかっていた。


 あと、フランスパンをスライスしたものがすでにバターを塗った状態で皿のうえに置いてあった。


 

 「…………………」



 ニンニクはあえて少なめにしたとは言っていたが、見た目がもう、あの時聖が作ってくれたものと“瓜二つ”だった。


 「…………………」



 

 これはいったいどういう事なのだろうか。

 芸術もそうだが、料理も、腕を磨けば磨くほど、性格や個性が出やすいものである。

 


 やっぱり似すぎている……。

 というより、瓜二つ。

 でも彼女には、葵の他に姉妹なんていないのは確実で……。



 「まといちゃん。もしかしてガーリックシュリンプ嫌い?」


 「いや、ううん。おいしそうだなって思って。思わずボケッとしちゃっただけ」


 「ふうん、そっか。じゃあ、一緒に食べよ♪」


 「うん」


 

 まといは席につき、碧と一緒に朝ご飯を食べた。

 


 


 そして2時間後の7時。




 洗濯物を干し終わったまといは、コーヒー片手に自分の部屋に戻って来て、オフィス用チェアの上に腰を下ろし、デスクの上にマグカップをコトリと置いた。

 マグカップからは、湯気が立ちのぼっている。



 すると、碧に借りっぱなしだったスマホが急に振動し始める。



 「えっ?」



 電話だった。

 


 スマホを手に取り、画面に表示されている名前を確認してみる。


 「……………あっ…………」








 樫本からだった。







 

 

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