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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十三章 デウス・エクス・マキナ
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バタフライエフェクトがもたらしたもの


 7月14日。AM0時。



 自室のデスクのうえでノートパソコンを立ち上げた二野前洋子のもとにニイミがやって来る。


 

 ニイミは紅茶の入ったカップを、邪魔にならないように隅にしずかに置いた。



 「ありがと」


 「はちみつレモンティーです。気分を落ち着かせるのにちょうどいいかと」


 「…………落ち着いてないように見えるの?」


 「見えます。あと、恐がっているようにも見えます」


 「恐がってる?私を何歳だと思ってるの?」


 「歳なんて関係ないと思います」


 「……………………そうね……」


 「洋子さん。あの子は………あなたに似ていると思います。私は知ってます。あなたの体には、完全には消えてない傷跡があるという事を」


 「……………………」


 「それも、ひとつやふたつではありません。卓志くんを庇った時にできた傷も、あなたの体には残っています」


 「……………………」


 「あなたがその歳まで生きてこられたのはただただ運がよかっただけで、結局は加賀城密季と同じなのではないでしょうか?」


 「……………………」


 「私には、あなたもそれほど生に執着しているようには見えないんですよね」


 「……………………」


 「でもその理由は、あなたには貫き通したいものがあるから、ですよね?」


 「……………………」


 「加賀城密季とあなた、はたしていったいどこが違うというのでしょうか?」


 「……………………」


 「………では私はこれで失礼しますね」


 

 ニイミは二野前洋子に頭を下げ、部屋から出て行った。



 「……………………」




 それから5分ほど経って、部屋の中でひとり、二野前洋子は深くため息をついたのだった。

 そして、デスクの隅に置かれたカップを手に取り、はちみつレモンティーで一息ついた。


 「……………………」



 加賀城密季が自分に何を頼みたかったのかは最後まで聞けてなかったので正確な事まではわからないが、少なくとも16年以上前の児童養護施設関連の事を調べたいのだけはたしかだった。


 あと、それを調べる事でフォーカスモンスターの正体がわかるかもしれないとも言っていた。


 いや、違うな。フォーカスモンスターの正体を含めた、この一連の事件の背景が判明するかもしれないと言ったのだ。


 


 児童養護施設。

 フォーカスモンスター。

 猿手川、マカベ、徳川の死。

 


 児童養護施設といえば、2年前に起きた無理心中事件が記憶に新しいが、加賀城密季が調べたいのはもっと昔の方のはず。



 「あっ」



 わかった。

 加賀城密季が何を調べて欲しがっているのかを。


 「………………なるほどね」


 この一連の事件を通して、いまだに不透明な状態で残ったままの謎がいくつもある。

 でもその謎は、どれもある人物に共通している。



 たしかにこのまま行けば、もっと死人が出るのは確実だろう。



 だって復讐は、まだ終わっていないから。










 

 同日、7月14日。AM3時。



 花房聖は、真っ白い壁に囲まれた、テーブルすらない部屋の中にいた。手錠はいまはかけられていない。


 この部屋からの唯一の出入り口である鉄の扉には小さな覗き窓がついていて、その覗き窓には鉄格子がはめられていた。


 「……………………」


 一般の留置場に入れられていない理由のひとつとしては、かつての猿手川義信のように、何者かが彼女を殺すために手をまわしてくるのを防ぐため。

 だからこそ城士松和麿は、この場所を用意した。

 


 でも、取り調べはまだ始まってはいない。戸土間で彼女を逮捕した時点で、もうかなり遅い時間になってしまっていたからだ。そんな時間に取り調べを始めては、さすがに人権侵害になってしまう。

 昔と違って今は、取り調べの体質には厳しくなっているので、へたな方法は取れないというわけだ。

  


 まあ、深夜に取り調べを強行されたとしても、何もしゃべる気はないが……。


 「………………………」


 1番手っ取り早いのは、悠長に取り調べの時間になるまで待たずに、さっさと自害する事。

 こんな状態だと、王李を倒しにいけないので、今回はあきらめ、さっさと次回(・・)のためにこの世界から退場するというわけだ。そうすれば、よけいな時間を過ごさなくて済む。

 





 でも……………。






 あきらめたくないな………。







 ガチャ。





 扉が静かにゆっくりと開いた。

 そして扉の隙間から、見張りの警察官の格好をした、やたらと体のごつい男性が中へと入って来る。

 

 「……………………」


 聖は、この部屋に連れてこられる途中で、見張りだと思われる警察官の男性数名とすれ違ったりもしたのだが、こんなに体のゴツイ警官はいなかったはず……。



 すると、この男性は聖に対し、こんな事を言った。



 

 「協力してくれませんかね?」


 「は?」


 「私ひとりだと、体中が痛くて痛くて充分に動ける自信がない。でもあなたは違う」


 「……………」


 「申し遅れました。私は近衛孝三郎といいます。まあ、あなたが知らないのも無理はありませんね。私、あまり表には出ないタイプなので」


 「……………」


 「私、武器職人にはわりと詳しいタイプでね。あなたがずっと使っていたあのエアタッカー。あれを作った人物もすでに特定済みです。ドイツの職人さん……ですよね?」


 「……………」


 「だから、あなたを殺人の罪で裁ける証拠は、わたしは持っているという事にもなります。でも、私はそんな事には興味はない」


 「じゃあ、何に興味があるの?」


 「けじめをつけたいんですよ。私なりの方法でね」


 「………………」


 「あなたも、ここまでしでかして(・・・・・)しまった以上は、最後までやり遂げなければ悔いが残ったままだと思うんですよね」


 「………………」


 「だから………協力してくれませんかね?」




 近衛は聖にゆっくりと手を伸ばした。



 「………………」




 何度も同じ時を繰り返してはきたが、こんな展開、1度もなかった。


 これもまたバタフライ・エフェクト効果によるものなのだろうか。




 だとしても、これはチャンスだ。



 だから花房聖はためらわずに彼の差し伸べた手にすがる事にしたのだった。



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