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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第三章 風椿碧と蒼野まとい
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蒼野まといサイド5


 


 すべてがもう手遅れだった。

 蕪山浩はすでに殺されてしまっていた。


 警察がすでにアパートの前でパトカーを停めており、遠くからでしかその様子を見る事ができなかった。



 野次馬の話によると、何者かが宅配便を装って玄関扉を蕪山に開けさせ、頭部をそのまま鷲掴みにし、何度も何度も壁に打ち付けたらしい。そのせいで頭部はグシャグシャだったそうだ。


 蕪山は藪蛇をつついてしまったのだ。

 こうなってしまった以上、蕪山が何を思ってあんな行動に出たのか、聞く事がかなわない。


 まといは、泣いた。

 

 本当なら彼の葬式に出てきちんと弔ってあげたかったが、敵にこちらの存在を気づかれる可能性がある。だから、そっとそのアパートから離れるしかなかった。




 そして数日後ー。




 まといは例の質屋でカメラを買い戻した。

 レジ横の小さいテレビからは、川藤が殺されたというニュースが流れていた。

 

 彼を殺したのは愛人らしい。

 なぜその愛人がそんな凶行に及んだのかはわからない。

 このカメラの影響で気が狂ってしまったのか…………それとも…………。



 「………………………」



 まといは質屋を出た。

 もう何も考えられる気にはなれなかった。

 すべてはそう、自分のエゴが招いた事だ。


 復讐心に囚われすぎた結果、蕪山にあんな事までさせる形となってしまい、川藤も死んでしまった。

 もう取返しなんてつかない。


 「……………………」


 まといは失意の状態のまま、閑静な住宅街をまっすぐ進んでいく。

 すると、数人の男が曲がり角から出てきて、まといの行く手を塞いだ。

 



 「一緒に来てもらおうか。ここでは殺さない」



 まといはぴたりと足を止め、その失意の瞳の中に男達を映した。



 

 「…………………………」



 「まあ、拷問を受けてもらう事にはなる。だってお前達はそれだけの事をしたから………」



 「……………お前達?」



 「蕪山は何もしゃべらなかったそうだ。まあ、しゃべる前に死んじゃっただけかもしれないが」



 「なるほど。つまりは、蕪山さんを殺したのはあなた達の仲間なわけですね」



 「ハハハ、そういう事だ」



 「で、あなた達は、罪悪感は感じてないんですか?」



 大気がゆっくりと揺らいでいき、風など吹いていないのに、彼女の髪が大きく揺れた。

 彼女の目に光が灯っていく。でもそれは、希望の光ではなかった。


 人の命を奪う事を決してためらったりしない、そんな目だった。

 だが彼らは鈍いのか、ニヤニヤとしながらこんな事を言った。



 「いやいやいや、罪悪感なんてないないない。だって、これでオマンマ喰ってるわけだからね。罪悪感とか馬鹿だろ。自分の人生は自分だけのもの。他人がどう思うかなんてイチイチ気にしないで、自分の人生のためだけに頑張るべきなのさ」



 「………………………」



 「昔は地獄のようなホームレス生活だったけど、今じゃ大トロだって頬張れる。そして俺達の罪はおおやけにはならない。まあ、誰がもみ消してくれているのかは知らないけど…………」



 「…………………達みたいな人間は、死ねばいいわ」



 「えっ?」









 「あなた達みたいな人間に、同情も哀れみも必要ない。あなた達みたいな人間は、死ねばいい」








 

 突然大きなフラッシュが焚かれ、男達の体を白い光が包み込んだ。


 

 「くっ、くそ」


 

 それでも男達はまといの足音がした方へと走り、後を追った。

 フラッシュのせいで視界がぼやけたままだったが、彼女のシルエットだけはかろうじて見えたので、走るのはやめなかった。


 まといの表情には余裕がなかった。

 今まで殺してきた人達は、フラッシュがまぶしすぎてその場に立ち尽くすしかなかったが、今回だけは違ったのである。

 

 まといは、足の速さに自信がない。

 それに、写真に撮った人達がいつ死ぬかはその時の状況に応じて個人差がある。

 だから、場合によっては、彼らが死ぬ前に、自分が彼らに殺される事もありえるわけで………。



 たしかに自分には生きる意味なんてないのかもしれない。

 だけど、ここで諦めたら、蕪山を殺した犯人を含め、彼らは罪悪感すら抱かないまま、今日もおいしいご飯を食べ続けるだろう。


 決めるのは自分だ。このままエゴを通し続けるか、すべてをなかった事にして生き続けるか。

 

 まといは、大きな車道を横断した。ちょうど車の流れが緩やかだったからだ。

 向かい側のガードレール脇には有名な運送会社のトラックが停まっていた。

 まといは、そのトラックの脇を通って、ビルとビルの隙間へと入った。

 

 そして………………………。




 



 大きな爆発音がし、大地が大きく揺れた。

 次に大気が揺らぎ、ビルとビルの隙間を通って熱風がまといの髪を激しくバタバタとさせた。



 いったい何事かと思って後ろを振り向くと、オレンジ色の炎が後ろの道を空高くまで塞いでしまっていて、ここからだと何がどうなってこうなったのか目で確認する事ができなかった。


 何かが爆発したのは確かだ。考えられるとしたら、あのトラック。

 もしかして、オイルでも漏れていて、そこから引火でもしたのか………。


 わからない。でも、このカメラで撮った人間はみな確実に何らかの事故で死んでいるので、彼らが爆発の巻き添えになった可能性は高かった。



 「………………………………」



 気になるが、もう行かなければいけない。

 警察に目をつけられでもしたら面倒だった。



 


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