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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十三章 デウス・エクス・マキナ
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パトロン


 翌日の7月10日。福神出版。


 AM7時過ぎに、福富神子のもとに、蒼野まといがやって来る。


 もちろん、いつものごとく福富神子は、コーヒーを彼女にごちそうした。

 

 まといは福富神子に、右田邸での出来事について軽く説明した。

 そして彼女に礼を言った。碧を右田邸に行かせないよう忠告してくれた事を。

 すると、『別にたいした事はしてないわ』と答えが返って来た。


 福富神子は今、大きなリュックに細々としたものを詰める作業をしていた。



 「なんか福富さん、忙しそうですね」


 「ええ、そうよ。今日は特に、そんなにあなたと話している時間はないわね」


 「なにかわかったんですか?」

 

 「パトロンがもうひとりいた可能性があるかもしれないの」


 「えっ………」


 「川藤秀治を殺した愛人の母親の居場所をようやく見つけたの。彼女は島根の老人介護施設にいた事がわかった。あの事件が起こる前は埼玉の高級老人ホームにいたのだけど、事件を機に、毎月の支払いが出来なくなってしまったから、島根に移ったみたい。探すの本当に苦労した」


 「そうですか……」


 「その高級老人ホームの入居一時金がね、結構な単位の額で、川藤秀治がすべて支払ったとは思えないのよ。だから、その母親にも話を聞きたいし、娘の遺品も島根の方にあるらしいから、今日中に島根に行く予定」



 福富神子は、必要なものをリュックの中にテキパキと詰めていく。




 「あの……福富さん」


 「なに?」


 「福富さんも、もしかして気づいていたりしますか?私のほかにも、私と似たようなチカラを持ったフォーカスモンスターがいるという事に」


 「……………」


 「駐車場ビル付近で起きた大型護送車のスリップ事故。あれもきっとフォーカスモンスターの仕業だと思うんです」


 「……………」


 「そして、そのフォーカスモンスターは、鹿津絵里さんのように、わざわざ私からカメラを奪わなくても人を殺せる本物のチカラも持ってる」


 「………ええ、気づいていたわ。あなたは、円城寺サラからもらったカメラは壊したと、確信をもって私に話してくれた。でも、7月5日に、大型護送車によるスリップ事故が発生した。だから、つまりはそういう事なんだなって気づいたの」


 「なら、なんで私に教えてくれなかったんですか」


 「勝てないからよ。あなたじゃね」


 「……………………」


 「実際、右田邸ではあんなにも多くの人間が亡くなってしまった。あなたに勝てる要素が1ミリもなかったからこそ、防げなかった惨劇でもある」


 「……………たしかに、そうですね」


 

 福富神子の言う通りだった。

 こちらの唯一の武器は、カメラで人を殺せるチカラだけ。でも、相手も同じチカラがあり、そのうえ、策を講じるだけの頭脳も持っている。


 「だからね、証拠をそいつの目の前で突き出すしかないのよ。そして、正統な方法で逮捕し、刑務所にぶち込む」


 「逮捕なんてできるんですか?」


 「フォーカスモンスターとしては無理でも、テロリストとの関係性を浮き彫りにさえできれば可能だと思うの。東京高匡総合病院では徳川や眼田も死んでいるわけだし、死刑は無理でも無期懲役は狙えるかもしれない」


 「…………なるほど」


 「それに、テロを起こすのにもそれなりの金はいる。きっとどこかにあるはずなの。金の流れ(・・・・)ってやつがね」


 「……………………」


 

 でも、それだと福富神子に圧し掛かる負担の方があきらかに大きかった。

 

 だからまといは彼女に聞いた。



 「そこまでして調べる価値、あるんですか?」


 

 すると福富神子はこう答えた。



 

 「さあね。ないかもしれないわね。でも、記事を通して伝える意味はあると思うの」


 「それはどういう意味ですか?」


 「結局このフォーカスモンスターも同じだと思うの。あいつは死ぬべきだとか、世の中のために殺すべきだとか、そういう気持ちが膨れ上がって破裂してしまった結果、本物のカイブツが生まれてしまった」


 「…………………………」


 「でも私は、この犯人が特別だからカイブツになってしまったとはこれっぽっちも思ってない。誰もがその可能性を孕んでいるのだと思ってる。もちろん私もね」


 「…………………………」


 「だからこそ、記事に書いて伝えるべきだと私は思う。もちろん、このカイブツにバッドエンドというシナリオを与えたうえでね」

 

 「本当は私、伯父が生きていれば、すでに日本を発っている予定だったんです。でも、伯父は死んでしまった」


 「そう………」


 「海外の紛争地域で、恵まれない子供達のために活動するのもひとつの罪滅ぼしなのかもしれないと思ってた。でも、その道はもう断たれてしまった」


 「そうね。お金さえあればなんとかなるかもしれないけど、今すぐは無理かもしれないわね。あんな事があったすぐ後に日本を出て行ったら、それこそ疑われかねない。国際指名手配なんて事になったら、どの国に逃げようが、落ち着く事なんてできないでしょうね。それこそ、罪滅ぼしどころの話じゃなくなってしまう。まあその場合は、自首とは別の形になってしまうけど、あなたがずっと望んでいた刑務所暮らしは可能になるかもしれないけど」


 「…………………………」


 「フフフ。もちろん冗談よ。他人の罪を被ってまで逮捕されるべきじゃないわ。じゃあ、私もう行くから」


 「あっ、わかりました。じゃあ、私も出ていきます」



 そして福富神子はまといと一緒に福神出版の外へと出たのだった。










 まといと建物の外で別れた福富神子は、七王子駅沿いのバスターミナル付近でタクシーが来るのを待った。

 すると、キャバクラの店長から電話がかかってくる。

 福富神子はスマホを懐から取り出し、電話に出た。


 そしてキャバクラの店長に対して、こう言った。


 「島根に今から行ってくるわ。帰りはいつになるかわからないけれど、長くても2.3日ちょいってところかしらね。なにかわかったら、こっちから電話するから。それじゃ」


 

 タクシーがすぐに来たので福富神子は通話を終了させ、ポチリとスマホの電源をオフにしたのだった。



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