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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十三章 デウス・エクス・マキナ
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螺旋迷宮


 そしてまといは自宅のマンションに帰宅した。

 力なく重たい玄関扉を開けて、その隙間に体を滑り込ませるようにして中へと入った。


 

 リビングの電気はついていた。



 「まといちゃんっ!!」



 奥の方からなぜか碧が小走りでやって来て、嬉しそうな顔でまといへと勢いよく抱きついた。

 重たい玄関扉がようやく、ガチャンと音を立てたのだった。

 

 そのすぐあとに花房聖もやって来て、まといに『おかえり』と言った。



 「どうして碧さんがここに?」


 「実は私、まといちゃんがさらわれたあのすぐあとに福神出版に行って、まといちゃんが誰にさらわれたのか、調べてもらったんだけど、そしたら、犯人があの右田の伯父さまだって事がわかって……」


 「そうだったんだ」


 「本当は私が直接あの右田邸に乗り込むつもりだったんだけど、それはやめた方がいいって、福富さんに言われて……」


 「………そうだね。やめておいて正解だったかも」



 伯父も宗政も殺されてしまったのだ。もしかしたら碧まで殺されていたかもしれない。だから、福富神子の判断は正しかったと言えるだろう。


 碧はさらにこんな事を言った。



 「そしたらね、私のかわりにトモイって人が右田邸に行く事になって……」


 「えっ……」


 「22時近くまで福富さんのところで待ってたら、そしたら、まといちゃんだけが生き残ったって情報が福神出版の方にも入って来て、だから私、花房さんにも事情を説明して、ずっとここで待ってたんだよ」


 「そっか……」


 


 トモイ………。

 碧の言う事が本当なら、彼はいったいどこへ行ってしまったのだろうか。

 


 まといが目を覚ました時にはもうすでにあの右田邸は燃え盛っていて、近くには加賀城が立っていて……。

 もしかしたら、彼もまたあの建物の中で、もうすでに死んでいるとかでは?



 「…………………」



 わからない。

 


 「とにかく、まといちゃんが無事でよかったよ」


 「うん………そうだね………」


 「伯父さまの事は………残念だけどね」


 「………………………………」






 まといは、ふと加賀城の言葉を思い出した。







 だって気になりませんか?なんであなただけ建物の外にいたのか。






 そうだ。

 殺そうと思えば殺せたはずなのだ。殺しのターゲットが気を失っていたならなおさら、煮るなり焼くなり、手段はいくらでも選べたはずだ。


 でも、犯人はそれをしなかった。


 「……………………」


 ターゲットがそもそも蒼野まといではなかったと考えた方がつじつまが合う。

 なら、本当のターゲットはいったい誰だったのか。


 「……………………」


 わからない……。

 なにもわからない。

 それに、これからどうすればいいのだろうか。



 「まといちゃん顔色が悪いね。もう寝た方がいいかもね」


 

 という事で、碧が率先してまといを部屋へと連れていき、彼女を寝かせたのだった。

 そして碧は聖に礼を言った。



 「ありがとう。夜遅くまでここで私を待たせてくれて……。本当に助かった」


 「別に…。特に断る理由もなかったし」


 「そっか………」


 「………………」


 「あの…………」


 「なに?」


 「もしかして、重ための病気だったりする?」


 「えっ?どういう意味?」


 「不治の病……とかじゃないよね?あなた」


 「えっ?なんでそんな風に思うの?」


 「前、時計塔広場で話した時、顔色が悪そうに見えたから」


 「ああ……なるほどね」


 「もしも重ための病気を患っているんだったら、ちゃんとまといちゃんには話した方がいいよ」


 「……………心配しないでいい。重ための病気ではあるけど、治療法がないわけじゃない。投薬を怠らなければ、いずれは治るから」


 「そっ、そっか……。ならいいんだけどね。ハハハ。ごめんね。よけいなこと言って」


 「別に………」


 「じゃあ私、さすがにもう帰るから。ほんと、夜遅くまでありがとうございました」



 

 そして碧はマンションを出て、自分の家に帰っていった。



 まといなきリビングにて1人、聖は近くのイスに深く腰を下ろし、物思いに耽った。



 「……………………」




 さて、どうしたものか。

 事は思った以上に深刻だった。

 蒼野まといは生存したが、この先の過程を、まだ1度も体験した事がない。

 

 わかっているのは、1年後の9月1日に風椿碧の乗る飛行機は確実に乱気流に巻き込まれるという事。

 それを引き起こした犯人は、あの滑走路越しのフェンスの前に立っていたあの人物で……。



 でも、いくら調べても、あの人物については何もわからなかった。

 あの人物についての正体を掴むという行為は、砂漠の方へと飛んでしまったコンタクトレンズを探す行為に等しかった。

 加賀城密季とうまい具合に協力できたらいいのだが、何度も何度も彼女に接触してしまうと、東条警部のような事になりかねない。

 結局あれから何回もやりなおす(・・・・・)羽目になり、以前よりもよりこじれた結末(・・・・・・・・)に、やたらなるようになってしまった。


 そして今回は、また風椿葵があの睦城邸で無理心中事件を起こすルートに入り、今に至っている。



 さて、どうしたらいい?

 いったい何がいけない?

 どうして、よりひどい結果にしかならなくなってしまったのだろうか。

 きっと原因はあるはずだ。

 でなければまたやり直す羽目になる。



 できれば今回で終わりにしたい。



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