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フォーカスモンスター ~カメラで撮られたら死ぬ~  作者: 七宝正宗
第二十二章 最悪の惨劇
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惨劇の7月9日 part6


 

 まといはその銃声をたしかに聞いた。

 

 サスペンスドラマでよく聞くあの音よりも、重みのある音だった。

 

 銃声が聞こえたのをきっかけに、荒々しい足音が廊下側の方から一気に轟きはじめ、あまりのうるささに、壁沿いに置いてあったアンティーク調の背の高いタンスがカタカタと振動した。


 

 「宗政さん……今のって拳銃の音じゃ……」


 「わかりません。実際の拳銃の音を私は知らないので……。ただ、異常事態が起こったのだけはたしかです」


 

 宗政は扉をゆっくりと開き、そうっと廊下側へと顔を出した。

 

 「…………………」


 扉の前にいたはずの黒スーツの人達はどこかへ行ってしまった後だった。

 まといも宗政に続いて、扉の隙間から顔を出した。




 ガシャアアアアアアアアンッ!!!



 窓が割れる激しい音がした。

 この音も下の階からだった。



 窓が割れる音に続いて、また銃声が聞こえた。

 今度は何度も何度も、銃声が同時に重なったり、ズレたりと、不規則なリズムを刻んだ。


 叫び声も聞こえた。



 『なんだぁオマエハアアアアアアアアアアアッ!!!』



 『ウワアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』



 

 すべて、下の階からだった。



 「宗政さんっ。やっぱりなにか起こったんですよ。助けに行かないとっ」

 

 「だめです。私達が行って何になるんです?銃も持ってない。たとえ銃があったとしても、素人にそんなものが扱えますか?」


 「………………」



 たしかにそうだった。

 たとえ拳銃を持って助けに行ったところで、勝てるかどうかすらもわからない。だから、不用意に出ていくべきではないのだ。



 宗政はまといを安心させるためにこう言った。


 

 「あの黒スーツの人達は銃を持っているはずです。それにこの建物の中にいるのはあの人達だけではない」


 「でも、相手側も大勢で乗り込んでいた場合は?」


 「だから、その場合も考え、私達はどこかに隠れ潜んでいた方がいいと思います」


 「…………でも、彼らの目的がもし私だったら?私が隠れられそうな場所も念入りに調べるんじゃないんでしょうか?」


 「………大丈夫です。この部屋には隠し部屋があります」


 

 そう言って宗政は、アンティーク調のやたらと背が高いタンスの真ん中の引き出しを開け、引き出しの奥にあったボタンを押した。


 するとガタンという重たい音が聞こえ、タンスが軽く左右に振動した。


 

 宗政は引き出しを閉めてから、そのアンティーク調のタンスを横にゆっくりとスライドさせたのだった。

 すると、タンスで隠れていた部分があらわとなった。


 そこには、キーナンバー付きの扉があった。


 宗政は相性番号を入れ、その扉を開けた。



 扉はいったんガシャンと音を立ててからゆっくりと横にスライドし、開いた。



 

 「さあ、入ってください」



 まといは扉の中へと入った。

 その中は、一般家庭の押し入れくらいの広さはあった。

 宗政もまといに続いて中へと入った。



 宗政は、出入り口の近くの壁についていた赤いボタンを押した。すると、開きっぱなしだった扉が自動的に動き始め、ガシャンと音を立てて閉まった。

  

 そして、扉の外側で同じような音がガシャンとなった。



 「安心してください。私が横へスライドさせたあのタンスも、元の位置へと自動的に戻りましたので」


 

 宗政はスマホを懐中電灯モードにし、壁を照らした。

 そして、赤いボタンの隣にあった白いボタンを押し、隠し部屋の電気をつけたのだった。



 「でも伯父さんが………」


 

 まといが最初に連れてこられたあの書斎は2階にあったはず。

 

 伯父の事が心配だった。

 



 「生きていると願うしかありません」


 「……………………」


 「いまはただ、騒ぎが鎮まるのを待ちましょう。あと、スマホもありますので、警察に電話をかけてみますね。だから辛抱してください」


 「………………そうですね。それしかほかに道はないんでしょうね」



 まといは深くため息をついた。

 宗政は警察に電話をかけようとした。でも、なぜか圏外の文字が表示されていて、警察を呼ぶ事はできなかった。


 


 そう、これはもうシュレーディンガーの猫だ。

 猫が生きているのか死んでいるのか、猫の入った箱を開けない限りはわからない。だから、フタを開けない限りは生きている可能性を永遠に信じる事ができるというわけである。



 でも、真実は結局ひとつだ。

 

 本当にずっと、こんな場所に隠れたままでいていいのだろうか。



 もしもこの隠し部屋の存在に“敵”が気づいてしまったら、自分と一緒に宗政まで殺されてしまう。


 

 「……………………」



 いま、カメラはウエストポーチの中にある。

 自分の命を犠牲にすれば、彼だけは助かるかもしれない。



 「あの……宗政さん………私………」


 「だめです」


 「えっ」


 「あなたはすぐに表情に出る。私のために犠牲になろうと考えてませんか?」


 「そっ……それは………」


 「私はそんな事望んでません。私のためにあなたが死んでしまったら一生後悔します。苦しみます。悲しいです」


 「…………………………」


 「私からしたら、自己犠牲なんて行為は、ちっとも尊くありません。私の事を思うのならどうかあきらめず生きてください」


 「……………………そうですね。わかりました」



 宗政の言う事もごもっともだった。

 宗政が、相手の事を思いやれる人間だからこそ、そんな自己犠牲なんてされても喜ばない。それどころか、彼に罪悪感を一生背負わせる羽目になってしまう。

 

 だからまといは、このままここに留まる事にした。


 何もせず、ただただ時が過ぎ去るのを待った。

 





 「…………………」



 そして1時間がちょうど過ぎた頃。




 

 ズズズ………ズズズズズズ。



 何かを引きずる音が聞こえた。




 すると突然、隠し部屋の扉がなぜかひとりでにスライドし始めたのだった。



 「なっ、なんで」



 生暖かい空気が一気に隠し部屋の中へと入ってくる。



 スライドを始めた扉の隙間からは、ある人物が顔を覗かせたのだった。



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